一三七 遠野の町の某、ある夜寺ばかりある町の墓地の中を通っていると、向こうから不思議な女が一人あるいて来る。よく見ると同じ町でつい先頃死んだ者であった。驚いて立ちどまっている処へつかつかと近づいて来て、これを持って行けと言うてきたない小袋を一つ手渡した。手に取ってみるに何か小《こ》重《おも》たい物であった。恐ろしいから急いで逃げ帰り、家に来て袋を開けて見ると、中には銀貨銅貨を取り交ぜて、多量の金《かね》がはいっていた。その金はいくら使ってもなくならず、今までの貧乏人が急に裕福になったという噂である。これはつい近い頃の話であったが、俗に幽霊金といって昔からままあることである。一文でもいいから袋の中に残しておくと、一夜のうちにまた元の通りにいっぱいになっているものだといわれている。