一六二 佐々木君の友人田尻正一郎という人が七、八歳の時、村の薬師神社の夜籠りの夜遅くなってから、父親といっしょに畑中の細道を家に帰って来ると、その途中、向こうから一人の男が来るのに行き逢った。この男は向笠のシゲ草がすっかり取れて骨ばかりになったのを冠っていた。少し足を止めて道を避けようとすると、先方から畑の中に片足踏み入れて体を斜めにして、道を譲って通した。行き過ぎてから父に、今の人は誰だろうと聞くと、誰も今通った者はないが、おれはまた何してお前が道に立ち止まりなどするのかと思っていたところだと、答えたという。