一六一 青笹村生まれの農業技手で、菊池某という人が土淵村役場に勤めている。この人が先年の夏、盛岡の農事試験場に行っていた時のことだとかいった。ある日、あんまり暑かったので家のなかにいるのが大儀であったから、友達と二人北上川べりに出て、川端に腰を掛けて話をしていたが、ふと見ると川の流れの上に故郷の家の台所の有様がはっきりと現われ、そこに姉が子供を抱いている後姿がありありと写った。まもなくこのまぼろしは薄れて消えてしまったが、あまりの不思議さに驚いて、家に変事はなかったかと手紙を書いて出すと、その手紙と行き違いに電報が来て、姉の子が死んだという知らせがあった。