一七五 明治になってからも、町にはまたこんな事件があった。下組町の箱石某という家の娘が、他家に縁づいて子を産んで死んだので、かわいそうに思ってその子を連れて来て育てていた。ある晩いつものごとく祖父が抱いて寝たのが、朝起きて見ると、懐に見えず、あたりを見廻すと座敷の隅に死んでいた。よくよく見ると家に飼っている虎猫に、喰い殺されていたのであった。それを警察へ連れて行って殺してもらおうとしたが、どこへ逃げたか行方知れずになった。後に愛宕山で見かけたという者もあったが、もちろん二度とは姿を見せなかった。