一八九 上郷村佐比内の佐々木某という家の婆様の話である。以前遠野の一日市の甚右衛門という人が、この村の上にある鉱山の奉行をしていた頃、ちょうど家の後の山の洞で、天気のよい日であったにもかかわらず、にわかに天尊様が暗くなって、一足もあるけなくなってしまった。そこで甚右衛門は土にひざまずき眼をつぶって、これはきっと馬木ノ内《つ》の稲荷様の仕《し》業《わざ》であろう。どうぞ明るくしてください。明るくしてくだされたら御位を取って祀りますと言って眼を開いてみると、元の晴天の青空になっていた。それで約束通り位を取って祭ったのが、今の馬木ノ内の稲荷社であったという。