一九二 遠野六日町の鍛冶職松本三右衛門という人の家に夜になるとどこからともなくがらがらと石が降ってくる。それが評判になって町じゅうの者は見物にやって来たが、見物人のいるうちは何の変わった事もなくて、帰ってしまうとまた降った。毎朝石を表に出して、昨夜もこんなに降りましたと、見せるほどであった。ちょうどその頃に、元町の小笠原という家の赤犬が、御城下で一匹のひじょうに大きな狐を捕った。尻尾が二本に岐《わか》れていずれも半分以上も白くなっている古狐であった。この狐が捕られてから、松本の家に石の降ることは止んだという。それで今でも遠野ではこの家のことを石こ鍛冶と呼んでいる。