二三七 この地方では産婦が産気づいても、山の神様が来ぬうちは、子供は産まれぬといわれており、馬に荷鞍を置いて人が乗る時と同じようにしつらえ、山の神様をお迎えに行く。その時はすべて馬の行くままにまかせ、人は後からついて行く。そうして馬が道で身ぶるいをして立ち止まった時が、山の神様が馬に乗られた時であるから、手綱を引いて連れ戻る。場合によっては家の城《じよう》前《まえ》ですぐ神様に遭うこともあれば、村境あたりまで行っても馬が立ち止まらぬこともある。神様が来ると、それとほとんど同時に出産があるのが常である。