二六〇 家族の者が旅に出たり兵隊に行った後では、食事ごとにその者の分を別に仕度して影膳を供える。そうして影膳に盛った飯の蓋《ふた》に湯気の玉がついていなかった時、または影膳の椀や箸などが転び倒れた時は出先の人の身の上に凶事が起こった時だという。また影膳を供えているうちにこれを食べる者があると、出先の人は非常に空腹になるなどともいわれている。その実例ははなはだ多い。山口の丸吉某が日露戦争に出征して黒溝台の戦争の際であったかに、急に醤油飯の匂いが鼻に来た。除隊になってからこの事を話すと、これはその日の影膳に供えた物の匂いであったそうである。