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落語百選86

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:牛ほめ「与太郎や、ちょっとここへおいで」「なんだい、おとっつぁん、用かい?」「まあ、そこへ座れ、用かいと言うやつがあるか
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牛ほめ

「与太郎や、ちょっとここへおいで」
「なんだい、おとっつぁん、用かい?」
「まあ、そこへ座れ、用かいと言うやつがあるか、用があるから呼んだんだ」
「呼ばれたから来てやったんだ」
「そういうふうだから、おまえのことを、ご近所でみんながばかだ、ばかだと言うだろう」
「うん、みんながそう言ってくれる」
「くれると言ってよろこんでいちゃあいけないよ。おまえはなんともおもうまいが、親の身になってみろ、どうかばかと言われないようにさせたいとおもって苦労が絶えやぁしない」
「そんなものかなあ」
「のんきなことを言ってるんじゃあねえ……今日は、お使いに行ってこい」
「どこへ行くんだい?」
「小石川の伯父《おじ》さんのところへ行くんだ」
「ああ、佐兵衛のとこか」
「佐兵衛てえやつがあるか。おまえの伯父さんじゃあないか」
「あそこには行かねえや。おれのことを、ばかばかと言って、悪いこともしねえのに、叱言《こごと》ばっかり言ってやがる」
「それはな、おまえが役に立たねえやつとおもえば叱言なんか言いやしねえ。役に立てようとおもうからおまえのために叱言を言うんだ。人間、叱言を言われるうちが花だ」
「それじゃあ、なにか花を咲かせようか。ええ、枯れ木に花を咲かせましょう」
「ふざけるんじゃあねえ。お使いに行ってくるんだよ」
「行ってどうするんだ?」
「まあ、黙ってお聞き。じつはな、こんど、伯父さんが家を新築したんだ。四、五日前に、おれがちょっと拝見に行ったが、なかなか普請もよくできている。そのとき伯父さんが留守だったので、そのままなんにも言わずに帰ってきた。だから、今日は、おまえが行って、家をほめておいで」
「ふーん、なんと言って?」
「これから、おとっつぁんがよく教えてやるから、よく聞いて、粗相《そそう》のないようにしろよ」
「うん」
「いいか、伯父さんの家へ行ったら、表から入っちゃあいけない。もしもお客さまでも来ていると、邪魔になる。で、店について左のほうへ曲がると、めんどり[#「めんどり」に傍点]の格子があるから、その格子戸のところから出入りをするんだ。いいか。おまえは他人《ひと》の家を出し抜けに黙って開《あ》けるそうだが、そりゃあよくない。近しき仲にも礼儀あり、礼儀を知らないものは禽獣《きんじゆう》にも劣るといって、犬畜生より劣るのだ。伯父甥《おじおい》の間柄でもそういったわけのもんじゃあない。他人《ひと》さまの家だから、『こんにちは』とか『ごめんください』とかおまえがたずねて、先方で『どなたさまでございますか』と言ったら、『ごめんなさい』と格子戸を開けて中へ入るんだ」
「へーえ、おとっつぁんはあたいのことをばかだ、ばかだと言うけれど、おとっつぁんもまんざら利口の質《たち》じゃあないね」
「なにをっ、なぜ?」
「なぜったって、格子戸を開けて中へ入れと言うけれど、格子戸を開けないで中へ入れる人間があるかい? たいてい格子戸というものは開けて入るんだよ。格子戸を開けないで入れるものは、風か放屁《おなら》か、化け物か、煙か……」
「あいかわらず口の減らないことばかり言ってやがる。黙って聞いてろ。それから伯父さんのまえへ出たら、ていねいにお辞儀をしろ。おまえはお辞儀一つ満足にできゃあしない。おまえのはお辞儀じゃねえ、あれじゃ鯱鉾《しやつちよこ》立だ。畳へぴったり両手をついて、指の先が額へ押っつくようにして、ゆっくり頭を下へさげるとお辞儀らしく見える。いいか」
「うん」
「お辞儀がすんだら、挨拶だぞ、『伯父さん、しばらくでございました。いつもごきげんよろしく結構でございます。先日は、父が上がりまして、いろいろご厄介になりまして、ありがとう存じます。このたびは、ご普請が立派におできになりまして、おめでとうございます。さっそく、お家を拝見に上がりました。失礼でございますが、木口《きぐち》の高いところ、工手間《くでま》の高いところを、よく行き届いてできあがりましたねえ』と、ほめておいて、まあ、木もいろいろ使ってあるけれども、檜《ひのき》がいちばん使ってあるから、『家は、総体檜造りでございますな。左右の壁は大阪|土《つち》の砂|摺《ず》りでございますな。天井は薩摩《さつま》の鶉木《うずらもく》でございますな。畳は備後《びんご》の五分|縁《べり》でございますな。結構なお庭でございます。お庭は、総体|御影《みかげ》造りでございますな』と、まあ、このくらいのことを言やあ、おまえを見直して、向こうはきっとおどろく」
「いやあ、向こうよりも、おれのほうがおどろいた」
「どうして?」
「なんだか、ぱァぱァ言ってたけど、おれにはちっともわからない」
「そりゃ一度ではわかるもんか。稽古しておぼえて行くんだ。さあ、おれの言うとおりやってみろ」
「そうか、じゃあ、なんとでも言ってみろ」
「なんだ、おぼえるのはおまえだ。言ってみろというやつがあるか」
「そんな長いのはとてもおぼえられねえや」
「いばってやがる。情けねえやつだ、しかたがねえ、心覚えに書いてやろう」
「心おぼれか」
「心覚えだ、大きな身体《なり》をして舌も回らねえ……いいか、家は総体、檜造りでございますな」
「家は、総体ヘノキ造りでございますな」
「ヘノキじゃあない、檜だ。左右の壁は、大阪土の砂摺りでございますな」
「佐兵衛のかかあは、おひきずり」
「いけねえなあ、佐兵衛のかかあと言うやつがあるか。それじゃあまるで伯父さんの家へ喧嘩を売りに行くようなもんだ。左右の壁は、大阪土の砂摺りだ。まちがえるな。天井は薩摩の鶉木《うずらもく》でございますな」
「天井は薩摩芋と鶉豆……」
「よけいなことを言うな。なんだ、それは?」
「おれが食いてえんだ」
「おまえの食いたいものなんぞ、どうでもいい、薩摩の鶉杢という木の名前だ」
「なーんだ、木の名か」
「畳は、備後の五分|縁《べり》で……」
「畳は、貧乏のボロボロで……」
「貧乏のボロボロって言うやつがあるか、新しく入れたばかりだ。備後の五分縁だ」
「備後の五分縁でございますな」
「そうそう、それから結構なお庭でございますな、お庭は、総体|御影《みかげ》造りでございますな」
「結構なお庭でございますな。お庭は、総体見かけ倒しで……」
「そんなことを言っちゃあいけない。お庭は総体御影造り」
「お庭は、総体、御影、造り……」
「そうだ、わかったか?」
「ちっともわからねえ」
「しょうがねえやつだ。じゃあいいから、(と、ほめことばを紙に書いて)これを伯父さんに見られないようにそーっと読むんだ……そうすりゃあ、いままでのようにばかとは言わず、与太郎とか、与太さんとか言ってくれるようになるだろう。いいか、うまくやってきな」
「うん」
「そうそう、それから、座敷からまっ正面に見える台所に大黒柱があるんだが、どうしたことか、その柱の上のほうに大きな節穴がある。いまさら埋め木をして大きな柱をもろ[#「もろ」に傍点]に疵《きず》物にしては困るし、なんとか穴がかくれる方法はないか、と伯父さんが気にしている。だから、もしも、その節穴を見せたら、おまえが、こう言うんだ」
「うん、なんと言うんだ?」
「『伯父さん、その節穴がそんなに気になるなら、穴の上へ秋葉さまのお札を貼ってごらんなさい。穴もかくれるし、火の用心にもなりましょう』とこう言うんだ。伯父さんが感心して、小遣《こづか》い銭ぐらいくれるだろう」
「そうか、そいつはありがたいな。ほかは忘れてもいまンところだけやろう」
「欲の深いやつだなあ。欲だけは一人前だあ。そりゃあ、もらってみなけりゃあわからねえよ」
「くれなかったら、おとっつぁん、立てかえるか?」
「そんなことができるもんか。よけいなことを言わないで、いま教えたとおりにしゃべって長居をせずに、早く帰ってこい。ほかのことは忘れてもいいから、火の用心のお札だけは忘れるなよ」
「うん、大丈夫……あ、ここだ、ここだ。ここが伯父さんの家だ。……表から入《へえ》っちゃいけねえ、店について左と、あーあ、なんだ、めんどり[#「めんどり」に傍点]の格子というから、どんな立派な格子かとおもったら、縁《ふち》が取れているからめんどり[#「めんどり」に傍点]の格子か。なーるほど……ああ、なんて言うんだったかな? あ、そうだ、はじめにあやまるんだ……エエー、ごめんください、ごめんください、ごめんよ。あれ? どなたもお留守でございますか、それとも死に絶えたかい」
「だれだ? 縁起でもねえ……こっちへ入んな、だれだ? ああ、どうした、ばかか。そんなとこに突っ立ってねえで、早くこっちへ入れ」
「入ってもいいかい?」
「いいから、入れ」
「どっこいしょ……と、上がったら、まずお辞儀だ。それから……さて、伯父さん、しばらくでございました。いつもごきげんよろしく結構でございます」
「おーい、婆さん、聞いたかい。おどろいたねえ。今日は挨拶ができるぞ。はいはい、こんにちは。お天気でも変わらなければいいが……」
「先日は、父が上がりまして、いろいろご厄介になりまして、ありがとう存じます。このたびは、ごふゥ、ごふゥ……ふゥ……ふゥふゥっ」
「舌が回らないようだな」
「ごふゥ、ご普請……あ、そうか、ご普請が立派におできになりまして、おめでとうございました」
「えらいな、だんだんおまえもえらくなってきたな。で、なんの用だ?」
「えー、えー、さっそく、お家を拝見に上がりました……と、どうだい、よく言えただろう?」
「おお、そうか。こりゃありがたいな。さあさ、よく見ていっておくれ」
「よし、見てやるから、覚悟しろ」
「あはっはは、覚悟というのはおかしいな。まあいいや、よし、覚悟したよ」
「覚悟したら、伯父さん、ちょっと向こうを向いておくれ……こっちにも都合があるから……さあ、まだ先があるんだから」
「まだ先がある? なにが?」
「伯父さん、失礼でございますが、木口《きぐち》の高いところ、工手間《くでま》の高いところを、よく行き届いてできあがりましたねえ」
「ああ、ありがとよ」
「こっちを向いちゃあいけないよ。いま、ほめてやるんだから。家は、総体、ヘノコ造りでございますな」
「檜《ひのき》だよ」
「そうそう、左右の壁は大阪|土《つち》の砂摺りでございますな」
「うーむ、さすがは普請道楽の家の息子だけあって、よくおまえ檜や大阪土ということがわかったな」
「それはちゃんと種があるんだ」
「種?」
「天井は薩摩芋と鶉豆《うずらまめ》でしょう?」
「それは薩摩の鶉木だ」
「ああ、そうか、ちがったかな……ええと、やっぱり薩摩の鶉杢と書いてあらあ……伯父さんのほうがよく知ってらあ、それからどうしたい?」
「おまえが言うんだ」
「ああそうだ。畳は、貧乏のボロボロで、佐兵衛のかかあは、おひきずり」
「なんだと?」
「畳は、備後の五分|縁《べり》……でございますな。エエー、結構なお庭でございますな、お庭は、総体、見かけ倒しでございますな……」
「おいおい、見かけ倒しとは、ひどいことを言うな。庭は、御影造りだ」
「ああ、そうそう……ええと、もうこっちを向いてもいいよ」
「おまえ、なにか読んでいたんじゃあないか?」
「ばれたかッ」
「いや、読んだにしても、おまえが普請をほめてくれるというのはありがたい。今日は久しぶりだから、ゆっくりしておいで、なにかごちそうするからな」
「いやあ、まだあるんだ……伯父さん、台所を見せてくれ」
「台所なんぞ見たってしょうがねえだろう?」
「冗談言っちゃあいけねえ。ここが、いちばん肝心なところだ」
「変だな、言うことが……おい、台所でなにをきょろきょろしているんだ?」
「はて、どこかにあるわけだ」
「なにが?」
「ううん……柱の、どこかに……ああ、あった、あった」
「大きな声を出すな、なにがあったんだ?」
「伯父さん、この柱に、大きな節穴があるね」
「おまえにも、これが目につくか? 埋め木をすりゃあいいんだが、これだけの柱が疵物になっちまうし、なんとか穴のかくれる方法はないものかと、気になっているんだ」
「伯父さん、その節穴がそんなに気になるなら、穴の上へ秋葉さまのお札を貼ってごらんなさい。穴もかくれるし、火の用心にもなりましょう」
「うーん、秋葉さまのお札を……うーん、なるほどなあ、座敷とちがって、台所だけに秋葉さまのお札か……穴がかくれるし、火の用心がいいや……与太郎、おめえは、ばかだばかだというけれども、なかなかどうして、ばかどころのさわぎじゃあねえや。秋葉さまのお札とは考えたな。恐れ入った。感心、感心」
「なにを言ってんだい。ただ感心しててもしょうがねえや、少しほかのほうに感心しなくっちゃあいけねえ。伯父さん、忘れものがなにかあるだろう?」
「なに?」
「忘れものがさ」
「そんなものはねえ」
「あるよ、忘れものが」
「なんだ手なんぞ出して……ああ、ほうびの催促か?……うん、やるよ、やるよ」
「いくらくれる?」
「値段をきめるのかい? しかたがねえ、あいよ」
「ふふふ、ありがたいな、利口になると儲かるとは気がつかなかったな」
「ひでえやつだ。たくらんできたな」
「じゃあ、さようなら」
「おい、……おどろいた野郎だね、小遣《こづか》いをもらったもんだから野郎、とんで帰っていきやがる」
「おい、どうした、与太郎、うまくいったか?」
「おとっつぁん、うまくいった……火の用心のお札、あれを言ったら、伯父さん、感心して、……ただ感心してもしょうがない、少しほかに感心しろって催促したら、お小遣《こづか》いをくれた」
「催促なんぞしちゃあいけないよ」
「おとっつぁん、もう、どこかへほめに行く家はないかい?」
「そう普請の家はないよ」
「それじゃあ、うちをほめるから、いくらか出せ」
「自分の家なんぞほめてどうするんだ」
「なんでもいいからほめるものないかなあ、ああ、世の中、不景気だ」
「ばかなことを言うな、……そうそう太七さんの家で牛を買ったというから、その牛でもほめてこい」
「じゃあ、行ってくらあ」
「こらこら、待てよ。牛のほめ方知ってるのか?」
「知ってるよ」
「そりゃあ感心だ。なんと言ってほめる?」
「牛は、総体檜造りでございます」
「そりゃあ家《うち》だ。家と牛とはちがう」
「うち[#「うち」に傍点]とうし[#「うし」に傍点]……ちょっとのちがいだ」
「牛は天角地眼《てんかくちがん》、一黒陸頭《いつこくろくとう》、耳小歯違《にしようはちご》うというんだ。角は天に向かい、眼は地をにらみ、毛は黒く、頭は平らで、耳は小さく、歯のくいちがっているのがいいんだ。まあ、そうそろった牛というものはまずいない。けれども牛をほめるときにはこう言っておけば、向こうはよろこぶものだ。それじゃあ教えてやるから、おまえも言ってみろ」
「うん」
「天角、地眼」
「三角」
「三角じゃあない、天角、地眼」
「天角、地眼」
「一黒、陸頭」
「一石六斗」
「耳小《にしよう》、歯違う」
「二升八合五|勺《しやく》」
「なんだい、その五勺てえのは?」
「これはおまけ」
「米を量《はか》っているんじゃああるまいし、おまけはいらない」
「じゃあ量りっ切りだね」
「なにを言ってやがる、わかったか?」
「わからない」
「しょうのないやつだなあ。それじゃあ、また心覚えに書いてやるから……これで、牛をほめて来い」
「こんど、ほめたらいくらくれるだろう?」
「いくらくれるかわかるもんか。そんなに欲ばらないで、まちがえんようにうまくやって来い」
「うん、行ってくらあ。……ああ、こいつはだんだん忙しくなってきたな、おーい、太七さん、いるかい?」
「おお、与太かい、こっちへお上がり」
「おまえ、牛を買ったんだってねえ」
「ああ、買ったよ」
「その牛を見せてくれねえか?」
「牛を? いいよ……どうしたんだ、なにをきょろきょろしているんだ」
「だって、牛がどこにもいないもの」
「家の中に牛がいるもんか。裏の小屋にいるから、こっちへおいで」
「やあ、いた、いた。こりゃ小さい牛だ」
「おいおい、そりゃ、牛じゃあない、犬だよ」
「そうか、道理で小さいや」
「牛はこっちだよ」
「うわあ、大きいなあ、この牛は動いてらあ」
「生きてるから動いてるんだ」
「なるほど、これが天角か。やい、天角め、地眼め、一黒め、陸頭め、畜生め」
「なんだい、なにを叱言《こごと》を言ってんだ……これ、そんなに柵《さく》のなかに首を突っこんじゃあいけねえ、荒い牛だから、こっちへ退《ど》いていな、危ないからはなれていなっ」
「なに大丈夫だ……やい天角」
「これ、角など押さえちゃあ、怪我するよ」
「なに大丈夫だ、地眼、一黒、陸頭、耳小、歯違う、五勺はいらない、量《はか》りっ切りだ」
「なんだい、その量《はか》りっ切りってえのは……おい、尻《し》っぽを引っぱると、牛に蹴られるぞ」
「うわーっ、牛が放屁《おなら》をしたよ」
「畜生だ、落としものだから勘弁してやってくれ……牛もいいけど、畜生というものは、あたりかまわず糞《ふん》をする。困ったもんだ。朝夕掃除をしてやっても、この尻の穴のしまりのないにはつくづく弱るよ」
「太七さん、そんなに穴で気をもむことはないよ。穴の上へ秋葉さまのお札を貼ればいい」
「どうなる?」
「穴がかくれて、屁《へ》の用心になる」
 
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