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落語特選19

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:和歌三神《わかさんじん》「権助、権助」「うわい、何《あん》か用か? ご隠居」「今朝ァ、たいそう冷えるな」「雪ィ降ってるで
(单词翻译:双击或拖选)
和歌三神《わかさんじん》

「権助、権助」
「うわい、何《あん》か用か? ご隠居」
「今朝ァ、たいそう冷えるな」
「雪ィ降ってるでね」
「ほほう、雪が降っている? 雪は雨と違って音がしないから気がつかなかったが……どのくらい積もった」
「そうだねェ、三寸べえ積もりやしたが、横幅はわからねえ」
「だれが横幅まで聞いた」
「だからわからねえと言ってるだ」
「変な理屈を言うな……おまえ、その縁の障子を開けてごらん……おお、なるほど積もったな。あのな、来客でもあると歩きにくくっていけないから、権助、雪を掻いておきなさいよ」
「でも、雪掻《ゆきかき》ねえからねえ」
「ないことはない。あったはずだ」
「うん、この間《あいだ》まであるにはあったが、燃すものなくなっちまってな、ぶち壊して燃しちまった」
「なぜそういう乱暴なことをするんだ……それでは鍬《くわ》があったろう」
「鍬もねえ」
「あるはずだ」
「そう、あるにはあったが、この間《あいだ》、おらが物置ィ掃除ぶってるとな、国者《くにもん》が来ただ。いやァ久しぶりだ、一杯《いつぺえ》やるべえと言っただが銭《ぜに》がねえ。ところへ屑屋《くずや》が来たから、いやあ、ちょうどええ、この鍬ァ買えと言ったら、四貫で買うべえ、いやあ四貫ではいかねえ、六貫出せ。いや四貫だ六貫だ、じゃあ中を取って五貫で売るべえ、じゃあ買うべえとな、その銭で酒ェ飲んじまっただ」
「なぜそういうことをするのだ。おまえは正直|者《もん》だとばかり思っていたらとんでもねえやつだ。主人のものを無断で売るやつがあるか」
「へえ、おらも悪いと思ったで歌ァ詠《よ》んだでがす」
「歌を……なんとやった」
「おまえさま、へえけえ[#「へえけえ」に傍点]師だな」
「なんだ、そのへえけえ[#「へえけえ」に傍点]師てえのは。それを言うなら俳諧師《はいかいし》だ」
「そうかね、まあ歌ァ聞いてくだせえ。『俳諧《へえけえ》の家に居りゃこそ鍬(句は)盗む』……」
「なに、『俳諧の家に居りゃこそ鍬盗む』……おもしろいな、その先はなんてんだ」
「『鋤《すき》(隙)があったらまたもやるべえ』……」
「なにを言ってるんだ、そんなことをたびたびやられちゃ困る。しょうのないやつだ……。しかし、この雪では来客もあるまい。あの瓢箪《ふくべ》を洗ってな、昨夜《ゆうべ》の残り酒がまだ少しばかりあるだろう」
「ひゃあ、五合ばかりあるべえと思いやす」
「そんなら、それを瓢箪《ふくべ》へ入れてくれ」
「どこへ行くでがす」
「向島|辺《あた》りへ、これから雪見に出かけようと思う。おまえも一緒に行くんだ」
「そりゃよしたがよかっぺ。向島へ行かずとも家《うち》に寝転んでいて、雪はたくさん見られべえ」
「家《うち》にいては風流がない。向島の雪景色を一杯飲みながら見るのがたのしみだ」
「ご隠居さまはそれがたのしみか知らねえが、おらァ寒くって難儀でごぜえます」
「そんなことを言うやつがあるものか。酒というものがあれば、寒くもなんともない。あたしだけが飲むわけじゃない。おまえにも飲ましてやるから、一緒に来るんだ」
「そんなら、おめえさまが行って来ておもしろかったという話を聞けばよかんべえ。留守の間に泥棒でも入《へえ》るといかねえ」
「そんなことを言わず……その酒ェ燗《かん》をして、瓢箪に入れて持って行くんだ」
 主人は鶉の毛衣を身に纏い、供人《ともびと》は饅頭笠《まんじゆうがさ》に赤合羽《あかがつぱ》、主《しゆう》と家来の二人連れ、並ぶ夫婦《めおと》の石原や、吾妻橋をば左に見、二つ並べし枕橋、連れひき合うも三囲《みめぐり》の、葛西の梅に白髪や、齢《よわい》を延ぶる長命寺、うしろは堀切関谷の里、木隠れに誘う落合の、月の名所や綾瀬川。向島は名所の多いところでございます。
「おお寒くてなんねえ。ご隠居さまァどこまで行くでごぜえます」
「『いざさらば雪見に転ぶところまで』という句がある」
「あれまあ、そしたら早くおっ転んで帰るべえ」
「ばかを言うな……おお、あそこに掛茶屋がある。あれへ行って腰をかけよう……どうだ、いい景色だろう」
「なるほど、おめえさまはなかなか狡猾者《こうかつもん》だ。こりゃたまげた。天気のいい日に来ると茶代を取られるもんだから、雪の降る日になって、だれもいねえとこへ来て無料《ただ》でこの茶屋へ寄るという計略か」
「そんなけちな了見じゃない、風流というものは。まあいいから酒をここへ出しなさい。おまえとあたしのと別の盃を持って来たか。よしよし、拭いてから出しなさい。なんだ、そんな汚ない手拭いで拭くやつがあるか。……さあ、ひとつ酌《つ》いでくれ。おまえも寒かろうから、ひとつ飲みなさい……また恐ろしい大きなものを持って来たな」
「たんと酌《つ》いで貰うべえと思ってねえ」
「あはは、おかしなやつだ。……どうだ、いい景色だろう」
「いい景色か知んねえが、おらァ寒くてなんねえ」
「愚痴を言うな」
「川ァ流れてるだねえ」
「隅田川だ」
「あれ、これが隅田川け。森ィ見えるだね」
「待乳聖天《まつちしようでん》の森だ。聖天の森に積もりし雪の景、橋場今戸の朝煙り……」
「遙か向うが筑波山《つくばさん》……」
「見えやしないよ」
「あれっ、船が来るでがす」
「ああ屋根船だ。おおかた雪見船だろう」
「人いるのかね、障子が閉まってるだな。……あれっ障子が開いた。人いるだよ、いやあまァ、きれえげなあまっ子が炬燵《こたつ》に入っているだあ」
「芸者を連れての雪見だろう」
「そうかね、まあ世の中はいろいろだ。同じ雪見でも向うは芸者を連れて暖《あつた》けえ。こっちの雪見は汚ねえ爺さまと寒い雪見だ、ああ、やだやだ……どうだね、あの船、ひっくら返《けえ》そうか」
「物騒なこと言うな」
「あれっ、酒ェ飲んでるぞ……あれあれ、湯気の出ている温《あつた》かそうなものを食って……おらァも半分貰いてえ」
「手を出すやつがあるか。手を出したって届きゃァしないよ」
「おや、どこかで人の話し声がするでねえか」
「この土手下で、乞食が三人で酒盛りしている。さすがは向島のお菰《こも》さんだ。風流だな」
「なに風流なことがあるか」
「なあ兄弟《きようでえ》、乞食を三日すればやめられねえて言うが、年がら年じゅう家のねえとこに転々《ごろごろ》しているのは気がきいた話じゃァねえが、なにしろ乞食をしていても風流は風流じゃねえか」
「こう雪の降ったところで、ひとつ、初雪や方々《ほうぼう》の屋根が白くなる、なんてえ三人でやるってえのはどうだ」
「今日はまあ一日どこでも貰いはねえが、植半、八百松の燗|冷《ざま》しの酒を余りものの肴で飲むてえのァ、ありがてえこったあ」
「ほんとうに、この面桶《めんつう》の鯉骨《こいこつ》のご馳走なんて、乙《おつ》じゃねえか」
「なんだい、鯉骨ってえのは?」
「鯉こくなら文句は言えねえが、こりゃ客が食べたあとの骨ばかりだから、鯉骨だ」
「おもしれえことを言うねえ。こうやってただ酒ェ飲んでばかりいてもつまらねえ。唄でも唄おうじゃァねえか」
「兄貴の声色なんぞ、いいじゃねえか」
「いいねえ、音羽屋をひとつ、やってもらおうか」
「これでも、おれは贔屓《ひいき》がいるんだ」
「乞食に贔屓にされるのァあまりありがたくあるめえ。だれが贔屓なんだ?」
「死んだ助高屋高助」
「てめえ、そんなこと言ったって高助を見たことはねえだろう」
「高助は見たことがねえが、おれが乞食になって以来《このかた》、助高屋ぐらい強飯《こわめし》をたんと貰った葬式《とむらい》はねえ」
「無風流なことを言うな。いくら乞食をしたって少しは粋なことを言いなよゥ。※[#歌記号、unicode303d]四方《よも》の山々雪解けて、でもやらねえか」
「はっははは、乞食が四方の山々雪解けてなぞはおもしろいねえ。権助、乞食ながらも雪見をしているのは感心だ。おまえ、その酒をあの人たちにやっといで」
「そりゃよしたほうがよかんべえ。乞食なんぞに近付きになると厄介《やつけえ》なことになるべえ」
「なになに風流に貴賤はない。その酒をあげておいで」
「そんなことしたら、おらの飲む酒がなくなるでねえか」
「おまえには家《うち》へ帰ったらいくらでも飲ませるから、早くあげておいで」
「そうかね……ばかな話だ、向島までわざわざ乞食に酒をやりにくるだなんで……おゥ、そこのお菰さん、酒ェやるだから……」
「旦那さま、おありがとうございます」
「おらがやるでねえ。あそこにいる旦那さまがくださるだから、礼を言うなら向うに言ってくだせえ……酌《つ》いでやるから……ほれ……ほれ……ほれ」
「ああうめえ、おい飲《や》ってみねえ。いつもの|※[#「さんずい+胥」、unicode6e51]《したみ》たァ大|違《ちげ》えだ。いい酒だァ……これはこれは旦那さま、おありがとうございます」
「いやいや、礼には及びません。おまえさんがたも生まれながらの乞食でもなかろうが、三人寄って雪見をしているのが、まことに風流だ。以前《もと》はいずれも由緒ある人でもあろうかと思うが、ひとつ、おまえがたの履歴でも聞きたい。身の上話があるなら聞かして貰いたいね」
「いえいえ、そんな身の上ではございません。親の代から乞食というわけではありませんが、いまじゃァこの向島におりまして、まァ掃除をいたしたりなにかして、方々《ほうぼう》の寮や別荘のおあまり[#「おあまり」に傍点]を頂戴いたし、ときたま八百松さんや植半さんその他の料理屋の余り物をたくさん貰って、まず腹だけはへらさずに日を送っておりますが、なにも履歴というほどのことはございません。しかし今日は旦那さまも雪見にお出《い》でなすったところをお見受けすれば、風流の御方と存じますから、あたしも一首詠んで献じましょう」
「そうですか……家《うち》へ土産にあなたがたに一首ずつ願いたいな」
「では、一首胸に浮みました」
「ところで、おまえさんのお名前はなんと言う?」
「ええ、あたくしは、この近所に乞食をしておりますが、どうもきれい好きの性分で、土手の馬糞や、料理屋や寮の辺りの犬の糞などがあるのを捨てておかれねえンで、みんな片付けて歩くので、糞をさらうから、方々《ほうぼう》で糞屋《ふんや》、糞屋と言います。名前は元は安と言いましたが、この仲間に入ってからは秀となりました。ですから、みんながあたしのことを糞屋の安秀《やすひで》と申しますんで……」
「おお、糞屋の安秀はおもしろいな、してお歌はなんと」
「旦那、笑っちゃあいけませんぜ。『吹くからに秋のくさ夜《よ》は長けれど肱《ひじ》を枕に我は安秀』」
「おおなるほど、これはおもしろい。ちょっと待ってくださいよ……権助、この矢立てを持っていておくれ。『吹くからに秋のくさ夜は長けれど肱を枕に我は安秀』……そちらのおかたは」
「へえ、あっしゃあ、あそこの別荘がありましょう。夜になると、あの垣根の下で丸くなって寝ますんで、だれ言うとなく、垣根の元の人丸ってえます」
「ほほう、垣根の元の人丸(柿本人麻呂)はおもしろいな……そこで歌は?」
「『ほのぼのと明かしかねたる雪の夜も、ちぢみちぢみて人丸く寝る』」
「なるほど、『ほのぼのと明かしねたる雪の夜も、ちぢみちぢみて人丸く寝る』、恐れ入りました。そちらのおかたは……」
「あっしゃあ見てのとおりのなりんぼうで、名前は平吉《へいきち》ってえます」
「それは、気の毒千万……なるほど、なりんぼうの平さん……平《へい》は平《ひら》で……なり平(業平)さんかえ、してお歌は」
「『千早ぶる神や仏に見離され、かかる姿に我はなり平』」
「『千早ぶる神や仏に見離されかかる姿に我はなり平』、おもしろい。しかしあなたがたが三人でいるところは、雲の上の和歌三神だな」
「どういたしまして、菰《こも》の上のばか三人でございます」
 
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