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愛人の掟 54

时间: 2019-10-18    进入日语论坛
核心提示:scene 15 わたしヒマですユーミンのコンサートに行けなくなってしまった。その朝突然に、どうしても外せない打ち合わせが
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scene 15 わたしヒマです

ユーミンのコンサートに行けなくなってしまった。その朝突然に、どうしても外せない打ち合わせが入ってしまったのだ。
わたしは特にユーミンフリークというわけではないけれど、コンサートだけはわくわくして観にいく。彼女のステージは毎回びっくりするような趣向が凝らされ、そのスケールの大きさにはいつも感嘆させられる。あるときはドラマティックな映画にも勝り、あるときは格闘技の試合よりも興奮し、またあるときはサーカスもかなわない超美技だったりする。最後には客席全体が幻想的な世界にひきこまれ、涙すらこぼれてしまうのだ。ユーミン恐るべし。
チケットを名残惜しそうに見つめ、その行方を思案しながら仕事に向かった。会場で関係者と落ち合うことになっていたのでチケットは一枚しかないのだ。二枚あれば欲しい人はいくらでもいるかもしれないけど、一枚きりのチケットというのは内容を問わず扱いに困るものだ。
相手先の事務所に着くと、ちょうどアルバイトのミナコちゃんが居合わせた。ミナコちゃんは二十歳をいくつか過ぎた、いつも眉をきれいに手入れしている可愛らしい女の子だ。はかなげな見かけによらず行動的で、ひとりで映画や舞台を観にいく、と聞いたことがある。
「今夜って、空いてる?」
彼女なら、チケットを譲ってもいいかな、と思いわたしは言ってみた。するとミナコちゃんは少し困ったように美しい眉を寄せた。
「あの……えっと、わたし今日はちょっと……」
歯切れの悪い口調に、はーん、きっとデートなんだろうな、と察した。そうか、何も楽しみなデートを勝手にキャンセルする権利はわたしには、もちろん誰にも、ない。じゃあほかに誰がいるかしら、と事務所を見まわしているとミナコちゃんが言った。
「……何か、あるんですか?」
わたしが事実のままを答えると、ミナコちゃんの顔がみるみる輝いた。
「わたし、行きます!」
「でも、何か予定があるんでしょ、いいの?」
わたしが率直な疑問で返すと、彼女はまた困ったちゃん顔になって、とても言いにくそうに言った。
「ほんとは……何もないんです。わたし、ヒマなんです」
話を聞くと、ミナコちゃんは半年前に二年半つきあっていた彼氏と別れてから、あえて手帳に書くような「今夜の予定」がほとんどなくなってしまったんだそうだ。でもいつもヒマだと思われるとつまらない女みたいで嫌だから、空いているかと訊かれれば空いていないと答える癖がついてしまった、というのだった。毎日が空白のスケジュール帳まで見せてくれようとするミナコちゃんを制して、わたしはチケットを渡した。
予定がないと恥ずかしい。女性なら、もしかしたら男性にも、こんな時期は必ずあるものだ。わたしにもそんな頃があったかもしれない、とふと自分のOL時代を思い出す。きっと今のミナコちゃんのように、同僚の突然の誘いに思わず口ごもってしまっていただろう。もうとっくに忘れてしまった懐かしいような思いだった。
その若さならではの青いプライドは、確かにきらきらした素敵な感受性に違いない。けれど同時に、それを捨てなければ決して大人の女にはなれないのだ。なぜなら、予定がないことを恥ずかしいと感じるということは、生活のどこかを自分以外の誰かに依存しているということだ。精神的な自立にはほど遠い状態なのである。
もちろん、この「ヒマです」が言えるようになるのには、思ったより時間がかかる。「忙しい」と言うことを一種のステイタスにしているうちは駄目なのだ。まあ、三十過ぎてもそういう人ってけっこういるけど、見ていてあまり気持ちのいいもんじゃないでしょう、あれは。そこを通り過ぎてこそ、もっと肩の力を抜いたいい恋が出来るようになるんじゃないかな。
「みかさん、今夜ヒマですか?」
ユーミン様を逃した数日後、所属事務所のミヤタさんから電話が入った。ちょうどその日の原稿を書き終えつつあったわたしは即答する。
「はい、ヒマです」
その夜わたしが少女の心と引き換えに手に入れたのは松田聖子武道館コンサートのアリーナチケットであった。ちなみに、わたしはデビュー当時からの聖子熱愛者のひとり。やっぱり、大人になるって、いいもんです。
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