ま、なんちゅうかねぇ森繁久弥ですが、私が家元の糸井重里である。
急な話で、そもそも戸惑うこととは思うが、十一月十日を、〈|御萬《ぎよまん》の日〉とする。この日は塾生諸君は、おおいにくつろいでいただき「萬」にちなんだ数々の事を行なって|寿《ことほ》いでくれ。
「家元、なにを寿ぐのでございますか」
番頭さんには初耳かもしれないが、実はこの日は私の誕生日だ。例年のごとくに、豪華|絢爛《けんらん》の酒池肉林大宴会を催してもかまわないのではあるが、これも何度もやっているうちには飽きてしまった。
「昨年までは、そのような……」
うん、飽きてしまった。
「どなた様方がご出席になっていたのでございます」
忘れた。忘れてしまったよ、ワッハッハ。
「酒池も肉林も、せめて本年度まではお続けになったほうが」
いや、飽きた。本年からは広く一般の塾生たちと、共に、この日を寿ぎたい。
「酒池は? 肉林は?」
止めだてはせぬ。無礼講じゃ、勝手にやれ。休日にしてやるからな。
「しかし会社や学校のある塾生は、休日にしてやると家元に言われましても、ちょっと……」
ええい。|萬心《まんごころ》薄き者よ、去れ。去って平日の世界に行けい。とにかく、十一月十日は〈御萬の日〉じゃ。誰も祝わぬというなら私は一人で薄暗く祝ってやるからそう思え。覚悟はよいな。
「はい。覚悟いたしました。お稽古に移りましょう」
そうだね、そうしようか。
急な話で、そもそも戸惑うこととは思うが、十一月十日を、〈|御萬《ぎよまん》の日〉とする。この日は塾生諸君は、おおいにくつろいでいただき「萬」にちなんだ数々の事を行なって|寿《ことほ》いでくれ。
「家元、なにを寿ぐのでございますか」
番頭さんには初耳かもしれないが、実はこの日は私の誕生日だ。例年のごとくに、豪華|絢爛《けんらん》の酒池肉林大宴会を催してもかまわないのではあるが、これも何度もやっているうちには飽きてしまった。
「昨年までは、そのような……」
うん、飽きてしまった。
「どなた様方がご出席になっていたのでございます」
忘れた。忘れてしまったよ、ワッハッハ。
「酒池も肉林も、せめて本年度まではお続けになったほうが」
いや、飽きた。本年からは広く一般の塾生たちと、共に、この日を寿ぎたい。
「酒池は? 肉林は?」
止めだてはせぬ。無礼講じゃ、勝手にやれ。休日にしてやるからな。
「しかし会社や学校のある塾生は、休日にしてやると家元に言われましても、ちょっと……」
ええい。|萬心《まんごころ》薄き者よ、去れ。去って平日の世界に行けい。とにかく、十一月十日は〈御萬の日〉じゃ。誰も祝わぬというなら私は一人で薄暗く祝ってやるからそう思え。覚悟はよいな。
「はい。覚悟いたしました。お稽古に移りましょう」
そうだね、そうしようか。