ちょっと油断をしておると、私が家元の糸井重里である。
先日、関西方面に旅行をしてきたのだが、そこで驚くべき事実を知ったのであった。
「な、なんでございますか。まさか、関西の人々はみんな名刺でわりばしを叩き切れるとか、そういった超能力を持っているのではございませんでしょうねえ……」
番頭さん、あなたは、ちょっと他人と違った珍しい芸当を身につけたもので、それを言いふらしたくて仕方がないようだねぇ。
「いえいえ、ただ少々、自慢をしているだけでございまして。今年いっぱいでこの話題はやめにする所存でございます」
あなたも、わりあいにくどい人だ。ま、二度もドブに落ちるという快挙を成しとげた人だから仕方もないが。
「昨日なぞは、愚息と共にドブ板の修理をして一日を棒にふりましたでございます」
その話ももういいです。関西の話を続ける。あちらの方面では、萬流のことを「芽流」と呼んでおる人が多いのだよ。
「ははあ、それはまたどうして?」
わからん。とにかく、萬はなじみにくいので、「芽」を代入しているとのことだ。
「すると、おまんじゅうなどのことも、おめじゅう、と」
うむ、そうかもしれない。
「関西方面の方々に、そういう勝手なことはせぬよう、よく注意しておきますです」
そうしてください、ぜひ、ね。
それはそうと、近頃は、塾生諸君も、だいぶんいらだってきておるな。
「掲載されぬ不満が、ウラミになって当方にぶつけられておりますです」
力か運か、どちらかがないから没になる。これは大自然の法則なのである。怒って花実が咲くものならば、乞食も明日は大富豪じゃ。点もひとつのハゲミではあるが、ハゲミのみを目的にするのは萬流の道に外れる。
「まあ、運動会のパン食い競走でも、勝った負けたでウラミを買うこともございますから」
とにかく、せこいことを言わずに、楽しく稽古をしたいものである。