ランランラン、わたしが家元の糸井重里である。
札幌はススキ野のあたりの萬気はすごかった。
北海道を|萬行《まんぎよう》中の私と番頭は、数えきれないほど多くの人々に声をかけられたのであった。
「まことに。『家元ォ、いいコいますよ』とか、『萬浴はいかがですか』とか、ずいぶん声援が飛んでおりましたでございます」
番頭が袖をひかれて、雪道で転んだのは、幸い中の不幸であったな。
「私、腰が弱いもので。ついフラフラとしてしまいまして」
中島みゆき嬢のカセットテープを聴きながら雪道で転ぶ中年というのは、女ごころを刺激するものらしい。
「女ごころを刺激いたしましたでございましょうか」
いや、具体的には何もなかったが、なんとなくそんな気がした。中島みゆきのカセットテープを聴きながら雪道ですべって転んだ中年男が、女ごころを刺激しなかったとしたら、ただ単にカワイソーなだけじゃないか。
「なぐさめ、でございますね」
きっと、来週到着のハガキには番頭を励ます女ごころの筆の跡が、そこここに発見できるにちがいない。
「私、そのへんについては、多少、自信がございます。以前ドブに落ちました際にも、あたたかいお言葉を、女性の塾生の方々からたくさんちょうだいいたしました。こんどは、雪でございますから、もう少し美しいイメージでございますし……」
うむ、実に、うつ……えーと、えーと。
「うつ、くしい」
そうだな。そう思う人もいるかもしれないな。