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輪(RINKAI)廻33

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     27「いらっしゃいませ」言ってしまってから、香苗は改めてはいってきた客を見て、顔の色を消した。薄い翳のような無表
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     27
「いらっしゃいませ」
言ってしまってから、香苗は改めてはいってきた客を見て、顔の色を消した。薄い翳のような無表情が、香苗の顔を覆っていく。
「何だよ。人の顔見るなり『いらっしゃいませ』って言って損したっていうような顔しちゃって。俺だって一応客だぜ。いつもちゃんと金は払って帰ってるんだから」
「金も払わないようだったら、水ぶっかけているわよ」
「敵《かな》わねえなぁ」春山は、カウンターの席に腰を下ろしながら言った。「まったく山上、近頃本当にかあちゃんに似てきたな。目の配り、ものの言い方、それに仕種……面白いもんだな」
それは香苗も自分自身、何かの拍子に感じることがある。たとえば、横目でちらりと真穂に冷たい視線を走らせたり、唇の上にのぼりかけた言葉を飲み込んで、代わりにいささか大げさな諦めの吐息をついてみたり……そんな自分に気がついて、これはかつて自分が時枝に見ていた姿だと思う。香苗の中に時枝がいる。
大久保へ戻ってから、三年あまりが経とうとしている。真穂もこの春には中学生になる。この三年は無我夢中だった。そのぶん時は倍の速さで過ぎていき、香苗に倍の年月ぶん、歳をとらせた。その証拠に、まだ四十には少し間があるというのに、生え際に白いものがまじりはじめている。髪を伸ばして束ねているから、それは銀色の筋のように光って余計目立った。確実に皺も増えたし肌の色もくすんだ。しかし、そんなことはどうでもよかった。おのが身に構っている余裕はなかったし、いちいち染めたり手入れをしたりする手間も煩わしい。反対にここらあたりで商売をやっていくなら、若く見られるよりは多少年上に見られたほうがやりやすい。なめられたらお終いだ。だから香苗は、別に歳をとることがいやではなかった。
「で、今日は何の用事?」
「用事がなくっちゃ、コーヒー飲みにきちゃいけないみたいな言い方だな」
「あなたが用事もなしに、うちにコーヒー飲みにきたことなんかありゃしないじゃない」
「かあちゃんそのものの言い方だな。──用事ってほどのことじゃない。来週のことの確認だよ」
「確認されなくったって覚えているわよ」
「ならいいけど」
来週末は店を一日休んで、四人で新潟へ行く段取りになっていた。四人……香苗、真穂、春山、それに作田。
茨城から大久保へ戻ると、案の定すぐに作田と春山の二人が、揃って香苗に喰いついてきた。そのうちに茨城にまで会いに行くつもりでいたんだと、異口同音に彼らは言った。手間が省けてよかったよ、と。
以後は二人して香苗を脅したりすかしたりの日々。時効といえども過去に時枝が人を殺したことは間違いないし、口を拭ったきり罪の償いもしなかったこともまた事実。しかも実の孫である真穂は、その時枝を殺した。当日真穂と時枝が争うのを目撃した人物は本当にいる。仮に事実が明るみに出ても、真穂はまだ小学生、罪に問われるということはない。だからといって、祖母を殺したという事実まで消えはしない。一家に人殺しが二人。人生の大事な節目節目でそんなことをまわりの者に言ってまわる人間がいた日には、真穂はとうてい幸せな人生など歩めない……。彼らが口にしたのはだいたいそんなこと。
黙ってそれを聞きながら、内心香苗は笑いだしたいような気持ちでいた。目撃者など、この街でなら金でいくらでも仕立てられる。人生の大事な節目節目で余計なことを言ってまわる人間がいるとすれば、それは作田たち本人だ。時枝は姑のいちのを殺し、真穂は祖母の時枝を殺した。おまけに茨城では香苗が姑のちずを殺したということまでつけ加えてやったら、彼らはいったいどんな顔をするだろう。一家三人、みな人殺し。
糠に釘といった様子の香苗に業を煮やし、次に作田と春山は、香苗をやんわり恫喝してきた。自分たちが必要としているのは香苗ではなく真穂だ。だから香苗はいなくても構わない。自分たちはこの街に巣喰う外国人の世話を始めた。金も貸している、仕事の世話もしている。十万二十万の金で人殺しを請け負う人間は、彼らの中にはいくらだっている──。
聞いていて、二人が新たに大久保で始めた商売がどんなものだか見当がついた。外国人相手の闇金融、金を貸しもすれば、預かって利子をつけてやることもする。裏で故国への送金もしてやるし、金のない人間、返せない人間には仕事の斡旋もする。いわば外国人を金で紐つきにする商売。ただし中国人は避けたろう。彼らには彼ら独自の強固な組織がある。下手に関われば自分の命が危ない。二人はそういうことには敏感だ。
「で、結局何が狙いなの? いったい何がお望みなの?」
ひと通りの脅し文句をすべて聞いてから、香苗は言った。
二人の望みは、まず真穂を首藤の家に入れること。そうすれば、一生喰うに困らないだけの広大な農地と、売れば恐らく億の単位の金になるだろう蔵の中の品が手にはいる。二人はN町に新しい会社を作り、そこを拠点に新潟港でロシアと貿易をする計画まで立てていた。表向きはどういう品をやりとりするのかは知らない。だが、彼らが本当にやりとりしたいのは、白い肌をしている若い娘だったり、薬だったり……この街に持ってくれば、大きな金に化けるものだろう。
今度こそ、声を立てて香苗は笑った。この街で喰っている男たちの言うことときたら、まるでお化け話だ。それをまた、いい歳をした男が目を輝かせて真剣に話す。だが、お化け話のうちのひとつかふたつかが本当に実現しかねないのが、ここ新宿だった。ともあれ、真穂を首藤の家に入れるということが話の前提になっている以上、少なくとも真穂が成人するまでは、香苗が消されてしまうことはない。そのことだけははっきりした。真穂と縁もゆかりもない二人では、真穂の後見人になることはできない。したがって仮に真穂が首藤の家にはいっても、彼らはその財産に関して何の権利も持ち得ない。彼らには、自分たちの手の内にある状態での香苗が、いや、真穂の母親が必要なのだ。
真穂に聞いてよ、突き放すように香苗は言った。私に決められることなんて何もない。こっちは、いつもあの子の思う方向に流されているだけ。だから真穂に聞いて。
すると真穂は、首藤の家に帰りたい、と言った。
「だってあそこは私の家だもの」
以来物事はその方向に向けて進められているし、動いてもいる。修もとうとうこの頃では、真穂を首藤の家に迎えるほうへと傾きだした。自分の血を引く孫に継がせるのが筋と考えるようになったのか、いちのを身に抱え込んでしまった真穂を不憫に思ったのか、それとも殺されたいちのの無念を知りながら、口を噤んでしまったことに対する贖罪なのか……。もしかすると、どうせ自分は早晩この世を去る身と、いっさい諦めただけのことなのかもしれない。
諦めているのは、香苗とて同じだった。首藤の家を自分の家と言い、そこへ帰りたいという真穂。香苗の母の時枝を死に追い込んだ真穂。香苗にちずを殺させた真穂。自分の産んだ娘でありながら、真穂を心からは愛せなくなってきている。何も知らなかった頃は、顔は自分には似ていなくても、その愛らしさ、美しさを単純に喜ぶこともできた。けれども今は、自分の匂いを露ほども感じさせないその容貌にも、胸が白々と冷めていく。それで冷えた心を映した一瞥を、つい真穂にくれてしまう。当然、真穂もそのことに気がついている。だから母子の距離は、日に日に遠ざかっていく一方だ。自分のことを愛していない母親を、子供のほうも愛せない。そのことは、誰よりも香苗が一番よく承知している。けれども、わが子を愛することができない母親もまたつらい。
死んでから、おかあさんを自分の中に感じたり、おかあさんの気持ちがわかったりしても遅いのよ──、時として香苗は、知らず知らずに自嘲を含んだ哀しい笑みを、口許に漂わせている自分に気がつく。その瞬間が、香苗は最も孤独だった。
真穂はこの春には首藤の家へ行き、八木沢地区の中学校にはいることになるだろう。話はそこまで進んでいる。来週末はその具体的な相談で、みなで新潟へ行く。形としては、真穂が首藤の家の子供になるのではなく、香苗が真穂を連れて、首藤の籍に戻るという恰好。とはいえ、香苗は大久保を離れるつもりはなかった。そのことは、修にも真穂にも、また作田や春山にもはっきりと言ってある。田舎はもうこりごりだった。ことに陰惨な事件があった土地や、ややこしい因縁を抱えた田舎の家は。だから、香苗は真穂と別れて暮らすことにした。求められれば必要に応じて、八木沢地区に通うだけ。今はむしろ、真穂と離れられることが気持ちのうえでは楽だった。
「しかし、これで一生喰う米に不自由しなくなるってことだけは間違いないな。あのあたりの米、美味いんだよなぁ」きゅっと呷るようにコーヒーを飲んでから、春山が言った。
香苗は煙草に火を点け、溜息代わりに白い煙を吐き出してから言う。「あんたはお気楽で羨ましいわ」
店を始めて間もなくしてから、香苗は煙草を喫うようになった。愚痴りたいことも溜息をつきたいことも山ほどあるのに、そうしてばかりもいられない。だから言いたいことを言う代わりに煙草を喫い、溜息をつく代わりに煙を吐く。時枝も煙草をよく喫う女だった。時枝の煙草も、愚痴代わり、溜息代わりの煙草だったのかもしれない。
「ご馳走さん」春山は立ち上がり、ポケットの財布をがさつかせて札を出しながら言った。「それじゃ来週よろしくな。朝、車で迎えに行くからよ」
わかったわと、香苗は疲れた顔を小さく縦に動かした。
店を出ていく春山の後ろ姿を眺めながら、香苗は口の中で、「同じ穴の狢」と呟く。春山も。作田も。そして香苗も。人から見ればなおのことそうだろう。闇に足を半分突っ込みながら、人の弱みを飯の種に喰っている人でなし。暗い夜の海の底を泳ぎまわる、グロテスクな顔をした深海魚。香苗の顔にまた哀しい苦笑が滲んだ。私の笑いはこの街に帰ってからというもの、いつだって引かれ者の小唄だと思い、香苗はまた苦笑した。
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