□遠野家1階ロビー
「待ちくたびれたー! 待ちくたびれたんでもう行くー! そういうわけで先に行くからな、秋葉—!」
二階に向けて声をかける。
ええ!?と驚く声がした後。
「ちょっ、ちょっと待ってください兄さん……! すぐ、今すぐに行きますから……!」
バタバタと二階から騒々しい足音が聞こえてきた。
「待ちくたびれたー! 待ちくたびれたんでもう行くー! そういうわけで先に行くからな、秋葉—!」
二階に向けて声をかける。
ええ!?と驚く声がした後。
「ちょっ、ちょっと待ってください兄さん……! すぐ、今すぐに行きますから……!」
バタバタと二階から騒々しい足音が聞こえてきた。
朝食を終えて数分。
ゆったりと居間でお茶している秋葉を尻目にさっさと登校の支度を済ませると、秋葉は慌てた様子で自分の部屋へと移動した。
時間があるからといつまでも着替えていないバチがあたったのだ、と一人暗い笑いを浮かべてみたりする。
そうして実に三分ほどの短時間で秋葉はロビーへと下りてきた。
流石だ。急いでいても屋敷の中では走らないあたり、俺とは筋金の入り方が違っている。
ゆったりと居間でお茶している秋葉を尻目にさっさと登校の支度を済ませると、秋葉は慌てた様子で自分の部屋へと移動した。
時間があるからといつまでも着替えていないバチがあたったのだ、と一人暗い笑いを浮かべてみたりする。
そうして実に三分ほどの短時間で秋葉はロビーへと下りてきた。
流石だ。急いでいても屋敷の中では走らないあたり、俺とは筋金の入り方が違っている。
【秋葉】
「ごめんなさい、お待たせしてしまいました。時間のほうは大丈夫ですか……?」
「いや、時間でいったらあと二十分はゆっくりしていられるから、心配はいらない」
はあはあと乱れていた秋葉の呼吸がピタリと止まる。
「いや、時間でいったらあと二十分はゆっくりしていられるから、心配はいらない」
はあはあと乱れていた秋葉の呼吸がピタリと止まる。
【秋葉】
「………兄さん。それでしたら先に行く、なんて言う必要はなかったんじゃないですか?」
「無かったけど、秋葉が人を待たせるなんて珍しいだろ。だから、つい」
……って、待った。だからつい悪戯心が働いてしまったのだ、という後半の発言は控えておく。
「………兄さん。それでしたら先に行く、なんて言う必要はなかったんじゃないですか?」
「無かったけど、秋葉が人を待たせるなんて珍しいだろ。だから、つい」
……って、待った。だからつい悪戯心が働いてしまったのだ、という後半の発言は控えておく。
【秋葉】
「————兄さん。だから、なんですか?」
「いや、早く登校するに越した事はないだろ。さ、そういったわけで今日も仲良く登校しよう!」
むー、と拗ねる秋葉から逃げるようにササッと外へ歩き出した。
「いや、早く登校するに越した事はないだろ。さ、そういったわけで今日も仲良く登校しよう!」
むー、と拗ねる秋葉から逃げるようにササッと外へ歩き出した。
□坂
坂道を下りていく。
そういえば、こうして秋葉と学校に向かうようになってからもう随分経つ。
秋葉が転校してきてからこっち、こっちが早起きできた時だけこうして二人で登校する。その割合は一週間に二回ほどなワケだけど————
そういえば、こうして秋葉と学校に向かうようになってからもう随分経つ。
秋葉が転校してきてからこっち、こっちが早起きできた時だけこうして二人で登校する。その割合は一週間に二回ほどなワケだけど————
「————————」
かつん、と。
道端の石につまずいて、足が止まった。
かつん、と。
道端の石につまずいて、足が止まった。
【秋葉】
「兄さん? どうしました、幽霊でもみたような顔をして」
横から覗きこんでくる秋葉。
その、肩口に流れる黒髪の匂いにわずかに心が揺れた。
「兄さん? どうしました、幽霊でもみたような顔をして」
横から覗きこんでくる秋葉。
その、肩口に流れる黒髪の匂いにわずかに心が揺れた。
「あ、いや。そういえば昨日も秋葉と一緒だったなって思って」
そんな気がして呟くと、秋葉はええ、と嬉しそうに笑った。
そんな気がして呟くと、秋葉はええ、と嬉しそうに笑った。
【秋葉】
「ここのところ兄さんは早起きしてくれますからね。私も兄さんと学校に向かえて楽しいです」
「う—————」
正面からそうストレートに言われると、なんて返答していいか困る。
「そ、そうか? 楽しいっていえば、そりゃあ毎日楽しいけど」
気のせいだろうけど。なにか、今日にかぎっては落とし穴があるような気がする。
「う—————」
正面からそうストレートに言われると、なんて返答していいか困る。
「そ、そうか? 楽しいっていえば、そりゃあ毎日楽しいけど」
気のせいだろうけど。なにか、今日にかぎっては落とし穴があるような気がする。
「あ、確かに兄さんの言いたい事も分かります。学校でも屋敷でも問題はないし、最近は楽しい事ばかりで怖いぐらいですものね」
「——————」
ああ、それはその通りだ。
楽しい事が続くと不安になる。それはしっぺ返しが恐いのではなく、この楽しい時間が終わってしまって、ありきたりの日常に戻ってしまう事が恐いのだ。
祭りが終わりに近づいた時の喪失感。
人生で最良の時は最良であるが故に、それが一時の煌きなのだと無意識に恐れている—————
【秋葉】
「けど大丈夫よ。もう少ししたら文化祭なんだし、楽しい事はまだまだ続いてくれるわ。文化祭が終われば冬休みなんだし、その時はみんなで旅行に行って、帰ってくる頃にはお正月でしょう?
ほら兄さん。居て欲しい人が傍に居てくれるのなら、楽しい事なんてずっと続いてくれるんですよ」
ほら兄さん。居て欲しい人が傍に居てくれるのなら、楽しい事なんてずっと続いてくれるんですよ」
秋葉は軽い足取りで少しだけ先を歩き出した。
「———まいった。たしかにその通りだ、秋葉」
自分の心配性も秋葉には敵わない。
秋葉がいて、翡翠と琥珀さんがいて、帰るべき家があるのなら、もう何も不安に思う事なんてないんだから。
□校舎前
【秋葉】
「それではここで。またお昼にお会いしましょう」
「それではここで。またお昼にお会いしましょう」
秋葉は上機嫌で一年の下駄箱へ向かって行った。