*s48
□教室
教室はいまだ賑やかだ。
放課後だというのに教室には何人かのクラスメイトが残って作業している。
残っているのは小物作りを担当している女子のグループだ。もうすぐそこまで迫った文化祭の準備に追われているんだろう。
教室はいまだ賑やかだ。
放課後だというのに教室には何人かのクラスメイトが残って作業している。
残っているのは小物作りを担当している女子のグループだ。もうすぐそこまで迫った文化祭の準備に追われているんだろう。
「遠野くーん、暇なら手伝ってよー」
写真撮影時に使う背景を作っている一団に声をかけられる。……基本的に背景は真っ白な物を使用するのだが、ファンキーなお客さん用に南国バージョンやらギアナ高地バージョンやらを作っているんだろう。
……ところでそんなものが必要なうちのクラスの出し物ってなんなんだろう。
「オッケー、手伝うよー」
気の抜けた返事をして、ペンキ缶を手にとって一団の輪へ仲間入りさせてもらった。
写真撮影時に使う背景を作っている一団に声をかけられる。……基本的に背景は真っ白な物を使用するのだが、ファンキーなお客さん用に南国バージョンやらギアナ高地バージョンやらを作っているんだろう。
……ところでそんなものが必要なうちのクラスの出し物ってなんなんだろう。
「オッケー、手伝うよー」
気の抜けた返事をして、ペンキ缶を手にとって一団の輪へ仲間入りさせてもらった。
□教室
「やったー、なんとかノルマ達成しましたー!」
パチパチパチ、という拍手が沸きあがる。
「それじゃみんな、ご苦労様でした! B班、貸衣装屋の作業はこれにて終了です。あとは投票でA班とC班に負けないよう各自お祈りしていてください」
はーい、と仲良くハモる一同。……その中にまざっている男が一人。言うまでもなく自分こと遠野志貴である。
「やったー、なんとかノルマ達成しましたー!」
パチパチパチ、という拍手が沸きあがる。
「それじゃみんな、ご苦労様でした! B班、貸衣装屋の作業はこれにて終了です。あとは投票でA班とC班に負けないよう各自お祈りしていてください」
はーい、と仲良くハモる一同。……その中にまざっている男が一人。言うまでもなく自分こと遠野志貴である。
「ありがと遠野くん。わたしたちはこのまま帰るけど、遠野くんは? カラオケ、付き合ってくれる?」
「んー……そうだな、後片付けしていくよ。あんまり役に立てなかったし、道具の片付けぐらいなら一人でもできるだろ」
えー、みんなでやるよー、という全員の声を抑えて、女子たちを先に帰らせた。
「んー……そうだな、後片付けしていくよ。あんまり役に立てなかったし、道具の片付けぐらいなら一人でもできるだろ」
えー、みんなでやるよー、という全員の声を抑えて、女子たちを先に帰らせた。
□教室
そうして背景作りに使用した道具を美術部に返してきて、
「————————あ」
唐突に思い出した。
「なにしてるんだ、俺は次のテストで全科目八十以上とらないと冬休み補習コースになるんじゃないか!」
うわあ、文化祭にかまけてる場合じゃなかった!
「まずいぞ、全然勉強してないじゃないか俺!」
まずいどころの話ではない。
長期にわたって病欠していた夏の遅れもまだ取り戻せてないっていうのに、平均点八十以上なんて夢のまた夢だ。
そうして背景作りに使用した道具を美術部に返してきて、
「————————あ」
唐突に思い出した。
「なにしてるんだ、俺は次のテストで全科目八十以上とらないと冬休み補習コースになるんじゃないか!」
うわあ、文化祭にかまけてる場合じゃなかった!
「まずいぞ、全然勉強してないじゃないか俺!」
まずいどころの話ではない。
長期にわたって病欠していた夏の遅れもまだ取り戻せてないっていうのに、平均点八十以上なんて夢のまた夢だ。
「うう、誰か教え方がうまい人とかいればなあ……」
無理な注文だ。遠野志貴の知り合いで、家庭教師じみた真似ができる人はいやしない。
「いえ、いますよ」
「ほんと? けど心当たりないよ、俺」
「だからいるじゃないですか。放課後はまるまる時間があって、勉強のできる上級生のお姉さんが」
んー? いたっけなあそんな人。
「いや、悪いけど思い当たらないな。それより、さっきから話しかけてくるあなたは誰ですか」
くるり、と振り返る。
無理な注文だ。遠野志貴の知り合いで、家庭教師じみた真似ができる人はいやしない。
「いえ、いますよ」
「ほんと? けど心当たりないよ、俺」
「だからいるじゃないですか。放課後はまるまる時間があって、勉強のできる上級生のお姉さんが」
んー? いたっけなあそんな人。
「いや、悪いけど思い当たらないな。それより、さっきから話しかけてくるあなたは誰ですか」
くるり、と振り返る。
【知得留】
「はい。こんにちは、遠野くん」
「——————————」
あれ。なんか俺、ヘンな夢見てる?
「はい。こんにちは、遠野くん」
「——————————」
あれ。なんか俺、ヘンな夢見てる?
「うちの学校の教師さん……ですか?」
「はい。今日入ったばかりの新任です。今後ともよろしくお願いします」
ぺこりとおじぎをする謎の教師。
「はい。今日入ったばかりの新任です。今後ともよろしくお願いします」
ぺこりとおじぎをする謎の教師。
【知得留】
「それではこのへんでお別れです。個人授業の件ですが、遠野くんさえよろしければいつでもお待ちしておりますね」
「それではこのへんでお別れです。個人授業の件ですが、遠野くんさえよろしければいつでもお待ちしておりますね」
去っていく人影。
それを呆然と見送って、自分で自分の頬をつねってみた。
「—————む」
つねった頬は、あまり痛いとは感じなかった。