□志貴の部屋
今も街で続いているという通り魔殺人。
再三にわたって繰り返される殺人の業。
再三にわたって繰り返される殺人の業。
「……やっぱり他人事じゃないよな、それは」
かつて猟奇殺人の元凶であった吸血鬼がいた。
その元凶と因縁のあった自分にとって、街で起きている通り魔殺人は無視できる事ではない。
その元凶と因縁のあった自分にとって、街で起きている通り魔殺人は無視できる事ではない。
□志貴の部屋
ベッドから出て私服に着替える。
「……吸血鬼の生き残り、かな」
あの事件以来、街に潜伏している死者はシエル先輩の手で軒並み始末された。
それでも完全というわけではないらしく、シエル先輩は後処理のためにまだこの街に残っている。
なら————街をさまよっている殺人鬼も、吸血鬼の残党かもしれなかった。
「……吸血鬼の生き残り、かな」
あの事件以来、街に潜伏している死者はシエル先輩の手で軒並み始末された。
それでも完全というわけではないらしく、シエル先輩は後処理のためにまだこの街に残っている。
なら————街をさまよっている殺人鬼も、吸血鬼の残党かもしれなかった。
□公園前の街路
死街だった。
屋敷から一歩外に出た時から、街には人の気配というものが無かった。
「——————————」
あまりにも静かだから何事か呟くも、その呟きさえ音にならない。
吐く息さえ嘘のようで、肺に取りこむ空気が無いと思うほどの静かな夜。
死街だった。
屋敷から一歩外に出た時から、街には人の気配というものが無かった。
「——————————」
あまりにも静かだから何事か呟くも、その呟きさえ音にならない。
吐く息さえ嘘のようで、肺に取りこむ空気が無いと思うほどの静かな夜。
□街路
どこまでも不動だった。
それは、まるで流行らない映画の中にいるような錯覚。
それは、まるで流行らない映画の中にいるような錯覚。
誰も知らないタイトルの映画。
誰も観ていない映画館の銀幕。
無人で回る、廃墟の街を刻んだフィルム。
カタカタと意味もなく流れるフィルム。
スクリーンに映し出されるさびれた町。
灰色の雨のなか、その町でただ一人歩いている影法師が自分だった。
誰も観ていない映画館の銀幕。
無人で回る、廃墟の街を刻んだフィルム。
カタカタと意味もなく流れるフィルム。
スクリーンに映し出されるさびれた町。
灰色の雨のなか、その町でただ一人歩いている影法師が自分だった。
□裏通り
この洞窟でも無音の法則は覆らない。
幾度となく死の穢れを運んできたこの道でさえも、今夜の静寂を打破できない。
幾度となく死の穢れを運んできたこの道でさえも、今夜の静寂を打破できない。
————だが、それを嘆くことはあるまい。
今夜の法則が絶対であるように、この場が培ってきた法則も、また絶対なのだから。
□行き止まり
「—————————」
ぎり、と歯を噛んでその光景に耐えた。
「—————————」
ぎり、と歯を噛んでその光景に耐えた。
路地裏には死体が散乱している。
ざっと見て三人分の人間のパーツ。
バラバラの手足と胴体の切断面は、ほれぼれするぐらい鋭利だった。
ざっと見て三人分の人間のパーツ。
バラバラの手足と胴体の切断面は、ほれぼれするぐらい鋭利だった。
「—————————」
ナイフを構える。
手足の散乱した地面から顔をあげれば、目の前には。
ナイフを構える。
手足の散乱した地面から顔をあげれば、目の前には。
【殺人鬼】
蘇った殺人鬼が立っていた。
「————————————」
「————————————」
合わせ鏡のように、ほぼ同時に俺たちは跳びかかった。
キィン、とナイフとナイフがぶつかり合い、そのままお互いを掴んで地面を転がっていく。
「————————————」
合わせ鏡のように、ほぼ同時に俺たちは跳びかかった。
キィン、とナイフとナイフがぶつかり合い、そのままお互いを掴んで地面を転がっていく。
ごろごろ。ごろごろ。
回る回る、自分と似たこいつを掴んだまま回る。
ごろごろ。ごろごろ。ごろごろ。
吐き気がしてきた。あんまりにも回りすぎて上下の感覚がなくなってくる。
ごろごろ。ごろごろ。ごろごろ。ご。
判らなくなってくる。今自分は下にいるのか。それとも上になっているのか。掴んでいる相手は誰なのか。掴んでいる自分は誰なのか。どちらが自分なのか。自分はどちらなのか。どちらも自分なのか。なら自分は誰なのか。
ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ、ざくっ。
□行き止まり
組み合って転がって、それが止まった時に上にいた方が勝った。
地面に組み伏せた相手の心臓にナイフを落とす。
□行き止まり
地面に組み伏せた相手の心臓にナイフを落とす。
□行き止まり
それで終わり。
月明かりの下、泥だらけの顔を拭って立ちあがる。
壁に伸びる影は、間違いなく自分のものだった。
月明かりの下、泥だらけの顔を拭って立ちあがる。
壁に伸びる影は、間違いなく自分のものだった。
そうして殺人鬼を路地裏に封じて、俺は眠りにつく事にした。
生き残った方と路地裏で死んでいる方。
—————まあ。
それらが一体どちらの遠野志貴なのかなんて、そんなコトは瑣末な問題だろうから。
それらが一体どちらの遠野志貴なのかなんて、そんなコトは瑣末な問題だろうから。