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歌月十夜138

时间: 2019-11-29    进入日语论坛
核心提示:s171□乾家呼び鈴を押して待つこと数分。【有彦】「あーい、どちらさまぁ」なんて、かったるそうな声で有彦は現れた。接客態度マ
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s171
 
□乾家
呼び鈴を押して待つこと数分。
【有彦】
「あーい、どちらさまぁ」
なんて、かったるそうな声で有彦は現れた。
接客態度マイナス百点。
【有彦】
「……って、なーんだおまえか。くそ、ミミミちゃんかと思ってき期待しちまったじゃねえか」
「それは失敬。けど期待している相手に今の態度はどうかと思うよ」
【有彦】
「あー、いいのいいの。ミミミちゃんは優しいからな、だらしない男を演じて朝ご飯を作ってもらうのだー」
……嬉しそうに言うのはいいけど、すでに朝ごはんという時間ではあるまい。加えて言うと、演じなくともこの男は素でいいと思う。
【有彦】
「で、今朝はなによ。なんか必要なモンでもあんのか? ガスコンロとか鍋とか人参とか」
……遠く離れた友人の家にガスコンロを借りに来るヤツなんていない、と反論しようとして止めた。
長い人生、そういうコトも一度ぐらいはあるかもしれないからだ。例えば、今回入っていないさっちんシナリオとかで。
「いや、暇なんで遊びに来ただけ。久しぶりに一局打とうと思って。で、有彦は何か予定があるのか?」
【有彦】
「ねーよ。……ったく、休日だっていうのに男同士で二人打ちなんて暗いねおまえも」
「ばか、女の子と二人打ちってのも相当暗いぞ」
【有彦】
「ごもっとも。……ま、しゃあねえか。いいだろう、今度こそ二度と牌を持てなくなるほど叩きのめしてやるとしますか!」
がはは、と高笑いをするあたり、本人はかなり乗り気のようだった。
「んじゃ上がれよ。飲み物はリポDでいいな?」
「いや、リポDは負けが込んできたら。コーヒーぐらい自分で淹れるよ。
で、イチゴさんは寝てるのか?」
「一子は仕事だと。そんなわけで不本意な三人打ちはやらなくていい」
「そっか。なら今日のショバは有彦の部屋だな」
【有彦】
「おっけー。んじゃあ先に俺の部屋に卓運んでおいて————」
と、そこまで言いかけて有彦はパン、と頭を叩いた。
【有彦】
「————わりい。ちょっと待ってろ」

バタン、と玄関が閉まる。
ドタタタタタ、と階段を駆け上がっていく足音。
 
「おい馬。おまえちょっと出てろ」
「はいー、おはようございますー」
「おはようございます、じゃねえ。この部屋から出ていけ、と言ったんだよオレは」
「ひ、ひはい、ひはいです〜! ひどいです有彦さん、みみ引っ張られると伸びちゃいますぅ……!」
「もとから伸びてんだろこの耳は! おら、目が覚めたらさっさと出てけ」
「え、いやだなあ。わたし、まだおやすみしたいですよ?」
「おやすみしたいですよ? じゃねえだろボケ! てめえ何様のつもりだあ!」

あ。今、蹴る音が聞こえた。
「ひーん、有彦さん横暴ですー……! 基本的人権を尊重してくださーい……!」
「ふざけんな、てめえみたいなのに人権なんざ許したらピラミッド制度が大回転しちまうわ!」
 
 ああ。今度は殴る蹴るの横暴が!?
「ひどいー、ひどすぎますー……! だいたいですね、わたしここ以外いくトコないじゃないですかー」
「誰も外とは言ってねえだろ。今日一日だけでいいから一子んトコにいろよ、一子んトコに!」
「うーん、それはだめですねー。一子さんの所は煙草の匂いがきつくて健康を害します、こほこほ。ほら、思い出しただけで熱が出てきました」
「こ、の……あからさまな仮病つかうな駄馬が! てめえなあ、うすうす気付いてたんだがオレのコト舐めてるだろう!」
「はい。実は有彦さんが寝ている時、こっそりと味見は済ませました」
ひひひ、とどこか不気味な笑い声。
「お、お、おお、おまえなぁ、気色悪いコト言うなよな! シャレにならねえだろおまえの場合!」
「でも事実ですから。あ、けど安心してください。有彦さんは怒りやすいので肉が固くて二流なんです。……あの、そういった訳で大変申し訳ないんですけど、わたしはグルメですから有彦さんはキャンセルさせていただきますー」
「あ、はは、あははははははははは! 殺す、おまえを今日こそ殺してやるー!」
 
 どんがらがっしゃーん、と何かがぶっ飛ぶ音がした。
……人間、怒りがレッドゾーンを振りきると爆笑するっていうのは本当だったんだなー。
 
□有彦の部屋
【有彦】
「入っていいぜ。それと、くれぐれも押し入れは開けんなよ。何が出てきても責任持てない」
そう言って麻雀卓を置く有彦。
「いや開けるも何も、押し入れの前に箪笥があるので開けられません」
「ああそうだった。ちょっとな、部屋の模様替えしたんだよ、さっき」
「……そっか。でもさ、あれじゃ押し入れが開けられないだろ? なにかと不便じゃないか、それって」
「いいんだよ。どうせ中にはロクなもんが入ってねえんだから」
 
「—————!」
ガタガタ、と押し入れの襖が揺れた。
「……あのさあ、有彦」
【有彦】
「なんだよ」
「友人として一つ訊いておくけど、まさか警察のお世話になるようなコトはしてないよな?」
その、警察に通報したら乾くんの家から女の子が保護された、とかいうお世話とか。
【有彦】
「してねえ。ていうか、むしろオレが警察に保護してもらいたいぐらい」
こっちの言いたい事が解ったのか、有彦は本気でそんな返答をした。
 
□有彦の部屋
二人打ちの麻雀は麻雀ではない。
麻雀がゲームとして優れている部分は四人が四人、リアルタイムに勝負を競える所にある。
団体で戦うゲームではなく個人で戦うゲームでありながら敵は複数あり、かつそれぞれが協力しあわないという稀な対戦形式を持つのが麻雀である。
……まあ、たまに協力しあうものもいるが、それはそれで一つの戦略なので措いておこう。
 とにもかくにも、麻雀というのは四人でやるのが華なのだ。
こうして二人で向かい合ってうつ麻雀は真剣勝負ではなく調整の意味合いが濃い。
無論、今日の卓もその例外ではなかった。
【有彦】
「ち、相変わらず絞りがきついな遠野は。レートなしのお遊びなんだからもちって軽くできないもんかねえ。こっちがリーチするまで三元牌切らないヤツなんておまえぐらいなもんだぞ」
「————失礼な、それじゃまるで腰抜けだ。俺だって時と場合は選ぶよ。例えば対面があきらかに鳴き気配でキョロキョロしてる時だけ手を絞るワケだ」
「……む。それは、つまり中を握ったままボクと心中する、というハラですか」
「それも時と場合による。……まあ、自分が大物手なら差し合いに参加するのも楽しそうだ。賭け事に求める物の大部分がリスクなら、それに見合ったリターンがなければ意味がないから」
【有彦】
「お、地がでやがったな遠野。勝負がここ一番になるととたんに人が変わるよなー、おまえって。いやほんと、麻雀って人格でるねえ」
「……麻雀に限らず賭け事は人格を露呈させるだろ。まあ、一勝負のスパンが長くて平等不平等が人為で覆せるレベルなあたり、麻雀っていうのは罪深いと思うけど。ある意味卜占だからな、これは」
【有彦】
「おっ、当たるも八卦当たらぬも八卦ってヤツか? んじゃあまあ、自分の運勢を信じてリーチ!」
「運勢を信じるのは卜占じゃないだろ。卜占ってのは運命を整えるものなんだぜ」
【有彦】
「……うっ、筋を苦もなくスパッと打ちましたね遠野くん。だがしかし、その努力もオレのツモで水泡に帰すのでしたー! ……って、なんで今ごろ字牌ツモるかなオレは!」
「はい、それで終了。チートイツのみ二千点、と」
 パタン、と手牌を倒す。
……まったく、有彦と打つと場がトイツ場になっていけない。半荘を二回やって、上がりがチートイかトイトイのみなんてとんでもない麻雀だ。
【有彦】
「うわ、ど汚ねえ! おまえさー、そこまで揃ってたら染め手にいけよ! なんだよその、リャンペーくずれのチートイツは! そんなにまでして中絞りやがってコノヤロー!」
「フツー止めるよ。くわえて小三テンパッたならリーチなんかすんな。……さて、それじゃ片付けようか。不毛な打ち合いだったけど、まあ調整としては悪くなかった」
「はいはい、そりゃあ良かったな……って、調整ってどっかで大勝負やんの、おまえ?」
「やらないよ。だいたい大きな賭け事は中学ん時で止めようって申し合わせたじゃないか。俺はあれ以来ギャンブルはしてないって」
【有彦】
「だよな。ならなんで調整なんてすんだよ、おまえ」
「———————お?」
「お、じゃねえだろ。近々大勝負があるから勘を取り戻しにきたって風だったけどな、今日の遠野は」

「————————」
……そうだ。そういえば最近、何かを賭けて勝負した事なんてないような。
「……待てよ。なんかちらつくぞ」
曖昧な昨日の記憶を手繰り寄せる。
そういえば屋敷で———秋葉たちを相手に卓を囲んでいた、ような……?
「まさか。よりにもよって秋葉が俺と麻雀するわけないじゃないか。麻雀どころかトランプを知ってるかどうかも怪しいのに」
ふう、と胸を撫で下ろして結論する。
それを、
【有彦】
「ん? 秋葉ちゃん、麻雀強いって言ってたけど?」
コイツは一言のもとに否定してくれた。
「う、うそだぁ! 秋葉だぞ? 秋葉なんだぞ!? なんだってそんな、麻雀なんて不健康な遊び知ってんだよアイツが!」
【有彦】
「いや、なんでも寮で流行ってたんだと。昔からの伝統儀式で寮生は麻雀かバカラのどっちかの派閥につくんだとさ」

「なんだよそれ!? 浅上女学院っていうのは名門じゃなかったのか!? くそ、秋葉にそんなモノ教え込みやがって、これ以上俺の清純な妹像を壊さないでくれー!」
 
 くれー、くれー、くれー。
 虚しくエコーしていく絶叫。
そんな俺を見て有彦は、
「……そっか。遠野もけっこう苦労してんだな」
心底同情するようにそう言って、俺の肩を叩いていた。
□乾家
 ……有彦の家を出る。
なにか大切なものを失いつつも、秋葉や翡翠、琥珀さんと卓を囲むのもいいかなー、なんて思う現金な自分を再確認するのだった。
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