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歌月十夜190

时间: 2019-11-29    进入日语论坛
核心提示:*s234□教室そんなワケで食い逃げ喫茶ローキックのウェイターをする事になった。二十種類ものケーキを用意した喫茶店だけにお客
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*s234
 
□教室
……そんなワケで食い逃げ喫茶ローキックのウェイターをする事になった。
二十種類ものケーキを用意した喫茶店だけにお客さんの出入りは激しく、出し物としては間違いなく成功している。

「うーん、盛況だなあ」
カウンターの裏側、食い逃げ客をひっ捕まえる役専用の休憩所でぼんやりと呟いた。
「だな。ケーキ喫茶のくせに野郎客の多いこと多いこと」
同じくウェイター役のクラスメイトが答える。
休憩所にいるのは自分と他二名の計三人。
これでいつ現れるか知れない、プロレスラーのような食い逃げ客に対応しなくてはいけないんだから生きた心地はあんまりしない。
もぐもぐ。

「でさ、今年のトップはなんだと思う? オレゃあ三年のボクシングジムだと思うんだけど」
「ああ、聞いた聞いた! なんでも教室まるごとジムにしたててやりたい放題できるんだってね。いいなあ、僕も叩きたいなあ、先輩」
「———そこ。さりげなく恐いコトを言わないように」
「うわあ、遠野くんは先輩思いのいい子ですねー。部活やってないから三年に恨みないんでしょ」
「ばぁーか、遠野はオメエみたいな偽善者と違って人間が出来てるだけだっての」
もぐもぐ。
女子が落としてしまった、崩れたシュークリームを食べる。

「……まあ、そういうコトなら今年は各学年ごとにキラータイトルがあるんじゃないか。一年はお化け屋敷が凄いっていうし、二年は七組がすっごい無茶してるって話だぜ。もちろんうちらだって優勝候補に入ってるって、さっき小耳に挟んだけど」
「あははははは! 食い逃げ喫茶が一位になったら校長先生のコメントが楽しそうだね! 2−C、ナイスローキック、とか!」
もぐもぐもぐ。
イチゴが欠けたショートケーキはいまいち味がしまらない。

「小耳に挟んだって、そうか。遠野、さっきまで外に出てたんだっけ?」
「ああ。一応、一通りザッと回ってきたけど、それがどしたん?」
「……ああ。それでか、と思ってさ。いや、さっきから気になって仕方がなかったんだ。な、オメエもそうだろ?」
「うんうん、吉良に同じ。けど遠野くんが何も言ってくれないから、もしかしたら目の錯覚かなあって思ってたよ」
「……ちょっと待った。二人とも、何言ってるんだ?」

「………………」
「………………」
二人は視線を合わせたあと、妙に息のあった動作で
「———でさ。その子、なんなの?」
 と、俺の背後を指差した。

【レン】
「—————————ぶっ!」
思わず食べていたショートケーキを吐き出しそうになった。
「……………………………」
黒いコートの女の子は、俺の後ろにちょこんと座っている。
……気が付かなかったけど、二人の言い分からするとずっとここにいたようだ。

「き、君、どうしてここに————」
「……………………………」
女の子は何も言わず、ただじっと見つめてくる。
「なに、遠野の妹さんじゃねえの? ちょうど年の離れた妹さんがいるって話じゃんか」
「だよね。てっきり遠野くん、妹さんを連れてきたのかなって思ってたけど」
「ば、ばか、そんなコトあるわけ————」
ないだろ、なんて言うのは巧くない。
……なんでこんな状況になっているかは分からないけど、二人がこの子を都古ちゃん……有間の家にお世話になってた頃の娘さん……だと勘違いしてくれるなら、それはそれで好都合だ。

「ああ、いや、実はそうなんだけど、うん。で、どうしたんだよ今日は」
二人の視線を気にしながら女の子に声をかける。
【レン】
「……………………………」
……はあ、やっぱり無言か。
それはそれで都合がいいんだけど、いつまでもこうしている訳にもいかない。
今は二人だけだけど、そのうち女子が集まりだしたりしたら収拾がつかなくなる。

「なんだよ遠野、ずいぶんと大人しい子なんだな」
「そ、そうなんだ。昔っから大人しい子でさ、俺もどうしていいか分からない」
というか、何をしに、何の為にここに現れたのかが分からない。
 
「……まいったな。二人とも、悪いけどちょっと席を外していいかな」
「おう、かまわねえぜ。肉親は大事にしてやれ」
「ええー、それじゃあ僕ってば吉良と二人っきりぃ? やだなあ、犯されちゃうかもー」
ぱかん、という打撃音。
……この二人はこの二人でいいコンビなので、俺がいなくなっても上手くフォローしてくれるだろう。

「それじゃ、ちょっと外に出よう。用件はそこで聞くから」
女の子に話かける。
「……………………………」
が、彼女は椅子から立ちあがろうとしない。
「なんだよ、妹さん動きたくないって言ってるぜ」
「うんうん。ここに居たいって言ってるよ」
と。きゅるる、なんてかわいいお腹の音が聞こえた。

【レン】
「……………………………」
女の子は泣きそうな顔で見つめてくる。
泣きそうなほどお腹が減っているのか、それとも泣きそうなほど恥ずかしかったのか。
……まあ、そんなのどっちだってそう大差はないことなんだろうけど。
 
 そういうワケなので、どばっとケーキなんかをご馳走させていただきました。

「—————————」
あ、いかんいかん、つい呆然と目の前の光景に陶酔してしまった。
「おいしい? まだいっぱいあるからゆっくり食べていいよ」
「………………」
女の子はうんうん、とこっちの言葉に答えているのか、夢中になってケーキを食べているのかこれまた分かりづらい。
ただ今まで何度もこの子とは会ってきたけど、今日ほど嬉しそうな日はなかっただろう。

「あ、ほら口にクリームがついてる。そうそう、女の子なんだからお行儀よくしなくちゃね。それと紅茶を飲むと二倍においしくなるから、お薦め」
はい、とティーカップを差し出す。
もちろん紅茶はよく冷やして、猫舌であろう女の子に合わせている。

「—————————」
女の子はこちらが目に入っていない勢いだ。
……始めこそ差し出されたケーキに触れもしなかった彼女だけど、試しに一口食べた途端にこうなってしまった。
まるで初めてケーキを食べるような驚きと喜びよう。
もぐもぐとフォークを片手に口を動かす仕草は年相応の女の子で、なんだか妙に安心してしまう。

「うん? チーズケーキが好き? そっか、それじゃおかわりはチーズケーキ関係にする?」
「———————————」
こくこく、と夢中で頷く女の子。
……う。前もって言っておくけど、自分に父性なんてまだ早いと思う。思うんだけど、この子の食べっぷりを見ているとなんとも言えない気持ちになってきてしまう。
……その、ずっとこうしていたいとか、
もっと喜ばせてあげたいとか、
すっごくかわいいなあ、と微笑ましく思えてしまったりとか、そういう気分。

「————いや、そんなの普通だって!」
こんなに可愛い子が一生懸命ケーキを食べてるんだから、自分の反応は普通のはずだ。
うん、極めて普通の、健全な青年の反応だと断言したいっ……!
「—————————?」
女の子は不思議そうに首をかしげる。
……うわ、今見つめられると自分がどうかしそうでやばいっ。

「あ、ごめん、なんでもないっ! おかわりだろ、ちょっと待ってて、すぐにもってくるから……!」

慌てて席を立って厨房へと駆けこむ。
で、女子たちに散々文句を言われつつも出来のいいケーキを大量に奪って、おかわりのケーキを待つあの子へと届けるのだった。
 
□廊下
そうして、食事を終えた女の子を見送ることになった。
女の子はまるで何十年ぶりに食べ物を口にしたような勢いでケーキを食べて、とにかく大満足のようである。

「———それじゃここでお別れだ。ケーキが気に入ったのならまたおいで、いくらでもご馳走してあげるから」
【レン】
【レン】
【レン】
 女の子は無言で頷く。

……本当は、ここでまた別れてしまうのは残念だ。けどこの子はそういう子で、いつまでも一緒にいるコトができないのだ。
そんなコトいつのまに知ったのかは思い出せないけど、とにかくこの子は気紛れで囚われない存在で、俺の我が侭で引き留めるなんてコトはしちゃいけないと思う。

「さよなら。また、夜にでも会えるといいね」
【レン】
「……………………………」

こっちの言葉に応えるように微笑んで、黒いコートは人込みに紛れていった。
「——————————」
消えていく黒い姿。
もう見慣れてしまったそんな光景を眺めつつ、
「———しっかし、ホントに可愛かったなあ……」
なんて、アルクェイドに聞かれでもしたら冗談じゃすまないコトを呟いてしまっていた。
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