□教室
……そんなワケで食い逃げ喫茶・ローキックのウェイターをする事になった。
二十種類ものケーキを用意した喫茶店だけにお客さんの出入りは激しく、出し物としては間違いなく成功している。
ただ謳い文句である、
腕に覚えのある方・食い逃げ了承 階段まで突破できれば不問に処す
というのが大問題で、午前中だけでも八人の挑戦者が現れたとのことだ。
……そんなワケで食い逃げ喫茶・ローキックのウェイターをする事になった。
二十種類ものケーキを用意した喫茶店だけにお客さんの出入りは激しく、出し物としては間違いなく成功している。
ただ謳い文句である、
腕に覚えのある方・食い逃げ了承 階段まで突破できれば不問に処す
というのが大問題で、午前中だけでも八人の挑戦者が現れたとのことだ。
たいていが校内の生徒……面白がってやってきた三年生なのだが、これがもう食うわ食うわ逃げるわ逃げるわ。
たった一人で階段まで猪突猛進する柔道部の元部長とか、三人同時に逃げ出すというチームワークを見せた謎の一年生とか、敵ながらなかなかに手ごわかったらしい。
基本的にこちらはタックルしか使用しないのだが、本気で逃走する食い逃げ犯にタックルするのだから危ないことこの上ない。一人挑戦者が出るたびにこちらも一人保健室行き、というまことに不毛な引き算が行われていた。
たった一人で階段まで猪突猛進する柔道部の元部長とか、三人同時に逃げ出すというチームワークを見せた謎の一年生とか、敵ながらなかなかに手ごわかったらしい。
基本的にこちらはタックルしか使用しないのだが、本気で逃走する食い逃げ犯にタックルするのだから危ないことこの上ない。一人挑戦者が出るたびにこちらも一人保健室行き、というまことに不毛な引き算が行われていた。
で、そのドタバタが尾ひれを呼んだのか、お客さんも長居して次の食い逃げ犯の出現を待つ始末だ。
実行委員からも怪我人だすべからず!と厳重注意が下されたのだが、出し物の内容はすでに許可が下りているのでまだ中止勧告は受けていない。
……まあ、実行委員会も本気でこんなコトやるとは思っていなかっただろうし、本気で食い逃げをする猛者が現れるとも思っていなかったのだろう。
実行委員からも怪我人だすべからず!と厳重注意が下されたのだが、出し物の内容はすでに許可が下りているのでまだ中止勧告は受けていない。
……まあ、実行委員会も本気でこんなコトやるとは思っていなかっただろうし、本気で食い逃げをする猛者が現れるとも思っていなかったのだろう。
「いやー、これで来年から間違いなく食い逃げ喫茶禁止の条項が出るだろうねー」
のんびりと呟く。
今ではたった三人に減ったウェイター。いかにも挑戦にきた、という人物がまだテーブルについていないおかげで、自分たちは奥でのんびり腰を下ろしている。
「だねえ。今年はなにかと物騒かもなー。なんでも一年でも厳重注意が出たらしいぞう」
「あー、知ってる。1−Aだろ? なんでもあやうく四階のベランダから人が落ちそうになったとか、赤ん坊がひきつけ起こしたとかなんとか」
「あー、知ってる。1−Aだろ? なんでもあやうく四階のベランダから人が落ちそうになったとか、赤ん坊がひきつけ起こしたとかなんとか」
「……1−Aって、一年一組か」
「お、暗いね遠野。そっか、妹さんのクラスだっけ」
「でもまあウチよりはマシじゃねえのかなー。なんでもさあ、一人目の挑戦者って大学生でアメフトを趣味でたしなんでる怪物だったらしいぜー」
「うわあ! そんなヤツがケーキ喫茶になんか来るなっての!」
「考えが甘かったな。ケーキ専門にすれば男性客はやってこなくて、挑戦者がいるとすれば女性客になるだろ。ならなりゆきで女性客にタックルかませられると思ってたんだけどよう」
「お、暗いね遠野。そっか、妹さんのクラスだっけ」
「でもまあウチよりはマシじゃねえのかなー。なんでもさあ、一人目の挑戦者って大学生でアメフトを趣味でたしなんでる怪物だったらしいぜー」
「うわあ! そんなヤツがケーキ喫茶になんか来るなっての!」
「考えが甘かったな。ケーキ専門にすれば男性客はやってこなくて、挑戦者がいるとすれば女性客になるだろ。ならなりゆきで女性客にタックルかませられると思ってたんだけどよう」
「だな。乾が発案した時はすげえ!コイツ本物だ!とか喜んだんだけどなあ……」
「なにいってんだ、アレの元ネタって遠野だろ。ネタの出し合いの時、乾にアイデア提供してうまく操ってたじゃないかー」
「えー、そんな記憶ありませーん」
「………………」
「………………」
二人は黙り込む。
仕方ないので、こっちも黙る。
「なにいってんだ、アレの元ネタって遠野だろ。ネタの出し合いの時、乾にアイデア提供してうまく操ってたじゃないかー」
「えー、そんな記憶ありませーん」
「………………」
「………………」
二人は黙り込む。
仕方ないので、こっちも黙る。
……。
…………。
…………………。
……………………………。
………………………………………。
…………。
…………………。
……………………………。
………………………………………。
「————ところでさあ」
「ん、なんだよ」
「なんだってうち、食べ物ケーキだけにしたん? 女ウケ狙うにしたって、さすがにケーキだけじゃ昼時は他に客とられちゃうだろ。せめてランチタイムサービスとかいって、昼と三時だけはメシもの用意して良かったんじゃない?」
「あ、それ同感! ラーメンとかカツ丼とか、そういった定番メニューは欲しかったよなあ。あ、でもことごとく遠野が反対してたんだっけ。なんでだよ?」
「…………なんでだよって、そりゃあ」
……まったく。みんな知っているクセに無意識に忘れているから始末に負えない。
「ん、なんだよ」
「なんだってうち、食べ物ケーキだけにしたん? 女ウケ狙うにしたって、さすがにケーキだけじゃ昼時は他に客とられちゃうだろ。せめてランチタイムサービスとかいって、昼と三時だけはメシもの用意して良かったんじゃない?」
「あ、それ同感! ラーメンとかカツ丼とか、そういった定番メニューは欲しかったよなあ。あ、でもことごとく遠野が反対してたんだっけ。なんでだよ?」
「…………なんでだよって、そりゃあ」
……まったく。みんな知っているクセに無意識に忘れているから始末に負えない。
「いいか、下手にメニューにカレーとかいれてみろ。あの人がやってきてメニューを食い尽し、デザートとばかりにこれまたケーキ類も全滅させて食い逃げするに決まってるだろ。
そうなったらさ、俺たち全員病院送りじゃないか」
「「———————あ」」
二人とも気付いてくれたのか、それきりがっくりと肩を落として黙りこんでしまった。
そうなったらさ、俺たち全員病院送りじゃないか」
「「———————あ」」
二人とも気付いてくれたのか、それきりがっくりと肩を落として黙りこんでしまった。
「……平和だねえ」
「ああ、平和だな」
二人の呟きに答えつつ教室に視線をやる。
……うわ、いかにも闇プロレスでタッグを組んでそうな二人組がやってきた。
「男子ー、出番だよー」
カウンターの女子が小声で呼びかけてくる。
「……うわあ、俺たち生きて後夜祭に参加できっかなあ」
はあと重い深呼吸をして俺たちは立ちあがる。
さて、準備運動にスクワットぐらいやっておかないと本当にシャレにならない状態になりそうだ———
「ああ、平和だな」
二人の呟きに答えつつ教室に視線をやる。
……うわ、いかにも闇プロレスでタッグを組んでそうな二人組がやってきた。
「男子ー、出番だよー」
カウンターの女子が小声で呼びかけてくる。
「……うわあ、俺たち生きて後夜祭に参加できっかなあ」
はあと重い深呼吸をして俺たちは立ちあがる。
さて、準備運動にスクワットぐらいやっておかないと本当にシャレにならない状態になりそうだ———