□廊下
まだクラスに戻る気になれないし、もうちょっと見て回ってみようか。
さすがにすぐ戻れるように二年の区画が中心になるけど、まあ今年の出し物は二年が一番凝ってるって話だし。
さすがにすぐ戻れるように二年の区画が中心になるけど、まあ今年の出し物は二年が一番凝ってるって話だし。
「———そういえば五組がお化け屋敷やってるって話だっけ」
お化け屋敷は一学年に一クラスだけ、という規則がある。
お化け屋敷をやると予算が一番多く下り、かつある程度の無茶な企画も通るのでどのクラスにも人気の出し物だ。
うちの学校では公平を期してクラスの委員長が集まって何らかの対決をし、その末にお化け屋敷の権利を勝ち取る。
お化け屋敷は一学年に一クラスだけ、という規則がある。
お化け屋敷をやると予算が一番多く下り、かつある程度の無茶な企画も通るのでどのクラスにも人気の出し物だ。
うちの学校では公平を期してクラスの委員長が集まって何らかの対決をし、その末にお化け屋敷の権利を勝ち取る。
「うちのクラスは負けたんだけど、まあ……」
自分は去年お化け屋敷をやってとんでもない目にあったので、今年は遠慮したかった所だ。
だから、うちのクラスが落選したのは都合がいいといえば都合がよかった。
「お化けをやるのはもう一生いいかなって感じだしな」
うんうん、あとは他のクラスが魂を燃やして作ったお化け屋敷を楽しむぐらいが丁度いい———
自分は去年お化け屋敷をやってとんでもない目にあったので、今年は遠慮したかった所だ。
だから、うちのクラスが落選したのは都合がいいといえば都合がよかった。
「お化けをやるのはもう一生いいかなって感じだしな」
うんうん、あとは他のクラスが魂を燃やして作ったお化け屋敷を楽しむぐらいが丁度いい———
「このマヌケ、なに甘ったるいコトいってるんでちゅかぁああああ!」
「ぼぇ……!?」
い、いってえ………!
突如腹部に突き刺さる謎の衝撃……!?
「な、なにしやがるこのヤロウ!」
背後にいる有彦へ振り返る。
今の声は間違いなくアイツなん、だけ、ど……
背後にいる有彦へ振り返る。
今の声は間違いなくアイツなん、だけ、ど……
【有彦】
「お、おまえ、その格好は———」
「ふふふ、思い出したかこのオレを! そして忘れられないオマエの罪を! 去年あれだけ好き勝手やっておいて今更いい子ちゃんぶるなんて神が許してもこのオレが許さないでちゅ!」
びゅんびゅんと手にしたミラクルハンマーをしならせる着ぐるみ怪人。
「ふふふ、思い出したかこのオレを! そして忘れられないオマエの罪を! 去年あれだけ好き勝手やっておいて今更いい子ちゃんぶるなんて神が許してもこのオレが許さないでちゅ!」
びゅんびゅんと手にしたミラクルハンマーをしならせる着ぐるみ怪人。
「許さないって有彦。おまえなんでそんな格好してんだよ。そもそもその着ぐるみは去年の後夜祭で燃やされた筈だろ。俺の夜寒鶴と一緒に、こうキャンプファイヤーにくべられて」
「そうでちゅよ。アレは悲しい出来事だったでちゅ。勇者はああやって火にくべられて星になっていくんでちょねえ……」
うんうん、と感慨深く頷くオバケキノコ。
「そうでちゅよ。アレは悲しい出来事だったでちゅ。勇者はああやって火にくべられて星になっていくんでちょねえ……」
うんうん、と感慨深く頷くオバケキノコ。
「だろ? ならなんでそれが傷一つなく生き残ってんだよ。っていうか、いますぐ脱げバカ」
「ふふふ、そうはいかないでちゅ。これは事情を聞いた秋葉ちゃんがオレのために作り直してくれた、いわば愛の真・オバケキノコ! これを着ているかぎり、オレは秋葉ちゃんの下僕なのだぁー!」
声高らかに咆える有彦。
……いいなあ、コイツはいつも嬉しそうで。
「ふふふ、そうはいかないでちゅ。これは事情を聞いた秋葉ちゃんがオレのために作り直してくれた、いわば愛の真・オバケキノコ! これを着ているかぎり、オレは秋葉ちゃんの下僕なのだぁー!」
声高らかに咆える有彦。
……いいなあ、コイツはいつも嬉しそうで。
「そういうワケで遠野! 秋葉ちゃんは1−Aお化け屋敷の一員としておまえをご所望でちゅ! ひひひ、今度のおまえの着ぐるみはやかんに羽とエンジンをつけたジェット夜寒鶴。さあ、鶴なら鶴で文字通り空飛んでもらおうでちゅかねぇ〜?」
「……うわ、それはそれで新しい都市伝説になりそうだな有彦」
「うむ。レアといえばターボばあちゃんと同じぐらいレア」
……まあ、にんじんだってジェットで空を飛ぶぐらいだから、ヤカンの一つや二つが霊子力で動いてもおかしくはないワケか。
「……うわ、それはそれで新しい都市伝説になりそうだな有彦」
「うむ。レアといえばターボばあちゃんと同じぐらいレア」
……まあ、にんじんだってジェットで空を飛ぶぐらいだから、ヤカンの一つや二つが霊子力で動いてもおかしくはないワケか。
「さあ、そういうワケなんで大人しくお縄につけぇい! 逆らおうってんならこの三十六房で鍛えた棒術がうなりまくるぜ!」
ひゅんひゅんひゅんひゅん。
せわしなく躍動するミラクルハンマー。
……しかしけっこうシャレになんないぞ。なんとかに刃物というし、これとマトモに対峙したら本当に空を飛ばされかねない。
ひゅんひゅんひゅんひゅん。
せわしなく躍動するミラクルハンマー。
……しかしけっこうシャレになんないぞ。なんとかに刃物というし、これとマトモに対峙したら本当に空を飛ばされかねない。
「ふふふ、どうしたでちゅか遠野、ずいぶんと大人しいでちゅが何か企んでいるようでちゅね?」
「いや、企むも何もないんだけどな」
「いや、企むも何もないんだけどな」
せーの、
「おーーーーーーーい! ここにオバケキノコがいるぞーーーーーーーーーーーー!」
と、廊下中に声を響かせた。
間髪いれずに大群でやってくる足音。
「オバケキノコだー! 妖怪オバケキノコが出たぞー!」
「またかー! ええい、今こそ去年の雪辱を果たしてくれるわ!」
「他の階の委員も呼べ! 全員で捕まえてそのままキャンプファイヤーにつっこんでやるっ!」
ドタタタタタタタタタ、と津波のように迫ってくる実行委員の群れ。
【有彦】
「—————————あ」
流石に危険を察知したのか、真・オバケキノコはいそいそと廊下の窓を開けた。
流石に危険を察知したのか、真・オバケキノコはいそいそと廊下の窓を開けた。
「よし、挟みこんだぞ! もう逃げ場はない、大人しくお縄につけい!」
「お、さっきのおまえと同じセリフ言ってるぞ、有彦」
「うるさい、親友を売るなんてとんでもないヤツだおまえは!」
言いつつ、窓に足をかける有彦。
「ま、まさか飛び降りる気か!?」
「うわあ、やめろー! また問題起こす気かおまえはー!」
「止めろー! キノコを止めろー!」
……どっかで聞いたネタを。
「うわあ、やめろー! また問題起こす気かおまえはー!」
「止めろー! キノコを止めろー!」
……どっかで聞いたネタを。
【有彦】
「ふははは、事なかれ主義の実行委員に捕まるほど落ちぶれちゃいないでちゅ! ……それではさようなら。やれ買うな、ぱんだ笹食う手毬飲む」
タン、と窓枠にひっかかる着ぐるみを無理無理通して飛び降りる有彦。
……そうか、あの時の辞世の句はこの時のためのものだったのか。
□廊下
「ほ、ほんかとに落ちるヤツがあるかー!」
「ひぃいいいいい、アイツなに考えてるかわからないアルー!」
あまりのショックに実行委員の方々も錯乱している。
……有彦はというと、そのまま地面に落下してしまった。
擬音で表現すると、ひゅ〜、べちゃ、っぽん、ぽんぽんぽん。
「ひぃいいいいい、アイツなに考えてるかわからないアルー!」
あまりのショックに実行委員の方々も錯乱している。
……有彦はというと、そのまま地面に落下してしまった。
擬音で表現すると、ひゅ〜、べちゃ、っぽん、ぽんぽんぽん。
「あ、跳ねた」
「バ、バウンドしてる!?」
「ああ、そのまま藤屋先輩のクレープ屋さんにつっこんだ!」
「うわあ、体中にチョコまぶしたままどんどん転がっていくぞー!?」
ここから見ても地上の被害は甚大である。
しかも質の悪いことに、現在進行形でさらに拡大しているからとんでもない。
「バ、バウンドしてる!?」
「ああ、そのまま藤屋先輩のクレープ屋さんにつっこんだ!」
「うわあ、体中にチョコまぶしたままどんどん転がっていくぞー!?」
ここから見ても地上の被害は甚大である。
しかも質の悪いことに、現在進行形でさらに拡大しているからとんでもない。
「なにをしている! 急いでグラウンドに出てあのバカを捕獲しろ!」
「ありゃー、屋台を壊された先輩方が包丁もってキノコを追いかけてるぞ」
「……っていうか、もうありゃあオバケキノコじゃなくて土ころびだな」
「お、土ころびとはまたマニアックだね!」
小走りで去っていく実行委員の方々。
……そんなワケで、わずか十秒たらずで廊下はもとの静けさを取り戻した。
「ありゃー、屋台を壊された先輩方が包丁もってキノコを追いかけてるぞ」
「……っていうか、もうありゃあオバケキノコじゃなくて土ころびだな」
「お、土ころびとはまたマニアックだね!」
小走りで去っていく実行委員の方々。
……そんなワケで、わずか十秒たらずで廊下はもとの静けさを取り戻した。
「土ころびってなんとなく美味そうだよなあ」
素直な感想を口にして踵を返す。
なんかとんでもないコトになっちゃったし、後夜祭まで大人しく自分のクラスで手伝いでもしていよう———。
素直な感想を口にして踵を返す。
なんかとんでもないコトになっちゃったし、後夜祭まで大人しく自分のクラスで手伝いでもしていよう———。
あ。
ちなみに土ころびというのは、山道で出会う妖怪だ。
山を上っていると坂の上に出現し、ごろんごろんと転がってくる迷惑極まりない妖怪で、この外見がまた巨大なお萩みたいだったりするわけで。
ちなみに土ころびというのは、山道で出会う妖怪だ。
山を上っていると坂の上に出現し、ごろんごろんと転がってくる迷惑極まりない妖怪で、この外見がまた巨大なお萩みたいだったりするわけで。