□教室
————後夜祭が始まった。
校庭では炎がごうごうと燃えている。
聞こえてくる曲はポルカ。燃え盛る焚き火を中心にして、生徒たちは輪になって踊っているのだろう。
聞こえてくる曲はポルカ。燃え盛る焚き火を中心にして、生徒たちは輪になって踊っているのだろう。
「ん……ふぁーあ……」
机に腰を下ろしたまま、のんびりと伸びをした。
後夜祭は自由参加で、キャンプファイヤーに参加するのも自由なら、こうして教室でぼんやりと校庭を眺めるのも自由。
今ごろ屋上は仲のいいカップルたちでいいムードだろうし、お祭りの余熱を残した生徒たちはわーわーと校庭で走りまわっている。
「………………」
まあ、その中でもこうして教室でぼんやりしている自分は特別暇な人間だろう。
まだ体に残っているお祭りの余熱を発散させることもなく、遠くから燃え盛る炎を眺めている。
「終わっちゃったな、今年も」
名残おしくない、といえば嘘になる。
文化祭の準備からこっち、日々は毎日がお祭りだった。
それが輝いていればいるほどこの終わりは淋しすぎる。
けれど、この終わりを覚悟していたからこそ、日々はあんなにも楽しかったのだ。
いずれ訪れる夢の終わり。
それを恐がって、楽しみにして、ずっとこの日を目指してきた。
最後の余熱。
校庭で燃やされる焚き火が美しくも儚いのはそういう事だ。
物事には終わりがあって。
日々の輝き、楽しかった時間は、その終わりの儚さを美しいと思える為に存在するのかもしれない。
日々の輝き、楽しかった時間は、その終わりの儚さを美しいと思える為に存在するのかもしれない。
「……燃えてるなあ」
ごうごうと燃える炎。
周囲の闇をオレンジ色に染めて、空へと上っていく蜃気楼。
終わってしまった様々な思いはこうして火葬されて、地上に残ることなく空に失せる。
————闇に踊る。
祭りの終わり火は、永遠のように綺麗だ。
祭りの終わり火は、永遠のように綺麗だ。
「———今年はこれでいいかな」
あの輪の中に入れば、まだ祭りは続くのだろう。
けけど今はここで十分だ。
お祭りの最後、いずれ消え去る炎を遠くから眺めるだけでいい。
それはそれで、今までの時間をかみ締める行為になると思う。
「——————ん」
揺らめいている炎にやられたのか、唐突に眠気に襲われた。
目蓋がゆっくりと落ちていく。
高い高い炎。
遠い遠い葬列。
谷間に連なる、花を添える清らかな人の連なり。
「——————」
そんな風景を幻視した。
目蓋が落ちる。
閉じた闇にオレンジの影。
ゆらめく炎はいつまでも、この意識が眠りに落ちた後も、果てることなく天へと昇り続けていく———
草原をかける風濤。
波立つブラウンの絨毯は、何年経っても変わることなく広がっている。
波立つブラウンの絨毯は、何年経っても変わることなく広がっている。
椅子が揺れている。
そこには老人が座っていて、
椅子の下には黒猫が一人きり。
そこには老人が座っていて、
椅子の下には黒猫が一人きり。
風はポルカを響かせていた。
———草原には人影さえない。
この丘の下、谷間の村では冬至の祭りが始まっていた。
———草原には人影さえない。
この丘の下、谷間の村では冬至の祭りが始まっていた。
毎年、丘の上にそれは届く。
秋の終わりが近いことを、彼女はそれで知るのだった。
秋の終わりが近いことを、彼女はそれで知るのだった。
椅子はただ揺れているだけ。
老人は遠い夕暮れを見つめて、
黒猫も草原を見つめていた。
老人は遠い夕暮れを見つめて、
黒猫も草原を見つめていた。
眼下には華やかな秋の祭り。
何十回とそれを聴いたか彼女は覚えていないし、見つめる事さえしなかった。
今年も何も変わらない。
彼女はじっと遠くを見つめる。
何十回とそれを聴いたか彼女は覚えていないし、見つめる事さえしなかった。
今年も何も変わらない。
彼女はじっと遠くを見つめる。
そうして祭りが終わった頃、その日課も終わりを告げた。
揺れる事も、誰かが座る事もなくなった椅子の上で彼女は冬を待つ。
揺れる事も、誰かが座る事もなくなった椅子の上で彼女は冬を待つ。
そうして一度も。
本当は焦がれていた祭りを見る事もなく、彼女は初めの風景に別れを告げた。
本当は焦がれていた祭りを見る事もなく、彼女は初めの風景に別れを告げた。