——————静かに。
ゆっくりと眼を開いた。
ゆっくりと眼を開いた。
視界いっぱいに広がる、錆びた黄金色の野原。
それが、彼女が一番初めに見た世界だった。
日々は変わらない繰り返しだった。
何一つ変化はなく、何一つ起こらない。
何一つ変化はなく、何一つ起こらない。
彼女は白紙の頭で日々を見る。
もとより人ではなく、感情に意味づけする必要のない生き物だったおかげだろう。
生きている必要性さえ感じられないそこでの日々は苦痛ではなかった。
もとより人ではなく、感情に意味づけする必要のない生き物だったおかげだろう。
生きている必要性さえ感じられないそこでの日々は苦痛ではなかった。
否。
そもそも楽しいという意味を知らないのだから、苦しいという意味もない。
そもそも楽しいという意味を知らないのだから、苦しいという意味もない。
————次に見たのはその背中。
彼女の記憶に残っている映像の、三つの二つ目。
もちろんそれしか覚えていない訳ではない。
彼女が見たものは、その三つしかなかっただけだ。
もちろんそれしか覚えていない訳ではない。
彼女が見たものは、その三つしかなかっただけだ。
気が付いた時、彼女はそこにいた。
世界の事が解らないのだから自分の事など解るはずがない。
ただその背中を見た時に、自分はこの人に作られたのだと本能が受け入れた。
世界の事が解らないのだから自分の事など解るはずがない。
ただその背中を見た時に、自分はこの人に作られたのだと本能が受け入れた。
————それからの日々は、ただ魔術師の背を眺めるだけだった。
視界はいつも錆びた黄金。
高い高い丘の上に、魔術師は一人で住んでいた。
丘の下には一つの村。
ずっと、気の遠くなるぐらいずっと、魔術師はここに一人で住んでいる。
村の老人が子供で、その親が子供だった頃からずっとひとり。
高い高い丘の上に、魔術師は一人で住んでいた。
丘の下には一つの村。
ずっと、気の遠くなるぐらいずっと、魔術師はここに一人で住んでいる。
村の老人が子供で、その親が子供だった頃からずっとひとり。
丘の上には魔術師が住む。
村の人間はそれだけしか知らなかった。
誰も確かめる事はしなかったし、その必要もなかったのだろう。
村の人間は魔術師を必要としないのだし、
魔術師も村の人間を必要としないからだ。
村の人間はそれだけしか知らなかった。
誰も確かめる事はしなかったし、その必要もなかったのだろう。
村の人間は魔術師を必要としないのだし、
魔術師も村の人間を必要としないからだ。
魔術師はただ研究だけを続けていた。
廃墟のような屋敷には誰もいない。
研究以外にやることは、夕暮れ時に中庭で遠くを眺めるだけだった。
廃墟のような屋敷には誰もいない。
研究以外にやることは、夕暮れ時に中庭で遠くを眺めるだけだった。
魔術師は彼女を作った。
彼女は確かに必要とされていて、
彼女も確かに必要だから作られた。
けれど魔術師は彼女を見なかった。
そして彼女も魔術師を見なかった。
彼女は確かに必要とされていて、
彼女も確かに必要だから作られた。
けれど魔術師は彼女を見なかった。
そして彼女も魔術師を見なかった。
———きっと、お互いに必要がなかったからだ。
長い年月二人でいたのに、
ふたりは会話するコトさえなかった。
魔術師は頑なで、生きているうちに話した回数はきっと指で数えられるほど。
彼女に確固たる思考があったのなら、
まるで死人のようだと、
魔術師のことを評したかもしれない。
ふたりは会話するコトさえなかった。
魔術師は頑なで、生きているうちに話した回数はきっと指で数えられるほど。
彼女に確固たる思考があったのなら、
まるで死人のようだと、
魔術師のことを評したかもしれない。
彼女は魔術師の声を知らない。
ただ一度。
彼女に彼女の在り方を告げた一言しか。
ただ一度。
彼女に彼女の在り方を告げた一言しか。
だから何も知らないまま。
言葉も感情も、与えられた知性の意味もわからない。
言葉も感情も、与えられた知性の意味もわからない。
わからないまま、ただずっと、その背中を眺めていた。
——————これは、ただそれだけの話。
回る風車。
いつもきまって夕暮れに佇む老人。
ただの一度しか話しかけられず、
ただの一度しか触れてもらえなかった、
そんなコトなんてどうというコトもなかった、ちっぽけな彼女の話。
いつもきまって夕暮れに佇む老人。
ただの一度しか話しかけられず、
ただの一度しか触れてもらえなかった、
そんなコトなんてどうというコトもなかった、ちっぽけな彼女の話。
——————これは、ただそれだけの話。
……ただそれだけで、彼女が幸せだった頃の話。