□教室
「……む……?」
はて、と首をかしげる。
そういえばお祭りの準備をしていた気がするけど、それにしたって——�
はて、と首をかしげる。
そういえばお祭りの準備をしていた気がするけど、それにしたって——�
【有彦】
「おーう、早く着替えてグラウンド行こうぜー。遠野、一発目の五十メートルのトップバッターだろ?」
「あれ、そうだっけ……体育祭、だったっけ」
「はあ? なにぼけてんだよ、みんな体操服に着替えてんだろ。ほら、オレたちもとっとと着替えねーと開会式に間に合わねーぜ」
「あれ、そうだっけ……体育祭、だったっけ」
「はあ? なにぼけてんだよ、みんな体操服に着替えてんだろ。ほら、オレたちもとっとと着替えねーと開会式に間に合わねーぜ」
シュッパ、とズボンを脱いでジャージに着替える有彦。
「わわ、ちょっと待った! すぐに俺も着替えるから待てっての。……って、ジャージと短パンとハチマキは何処に置いたっけな……」
「名札も忘れんなよー! んじゃ先に行ってるからなー!」
だだだだだ、と勢いよく駆け出していく。
「—————そっか、名札も忘れちゃダメだよな」
いそいそとロッカーから着替えを出して、急いで体育祭の用意をした。
「名札も忘れんなよー! んじゃ先に行ってるからなー!」
だだだだだ、と勢いよく駆け出していく。
「—————そっか、名札も忘れちゃダメだよな」
いそいそとロッカーから着替えを出して、急いで体育祭の用意をした。
□校舎前
開会式が終わって、各クラスがそれぞれの応援席へと移動していく。
うちの学校は進学校なだけあって、体育祭にはあまり力が入っていない。
あくまでお決まりの競技とお決まりの日程ですぎていくため、文化祭の盛りあがりには遠く及ばないというのがホントのところだ。
開会式が終わって、各クラスがそれぞれの応援席へと移動していく。
うちの学校は進学校なだけあって、体育祭にはあまり力が入っていない。
あくまでお決まりの競技とお決まりの日程ですぎていくため、文化祭の盛りあがりには遠く及ばないというのがホントのところだ。
———五十メートル走の選手はただちに第一トラック前に集合してください。
繰り返します、五十メートル走の選手は——�
繰り返します、五十メートル走の選手は——�
「……っと、考え事をしてる場合じゃないか」
ぼけた頭を切り替えて第一トラックへ向かう。
ぼけた頭を切り替えて第一トラックへ向かう。
「あ、遠野くん!」
と、その前に先輩に呼びとめられた。
「はい、なんですかせんぱ————」
そうして振り向いた瞬間、ぼけた頭がさらにぼけてしまった。
【シエル】
………反則だ。
先輩の体操服姿は、健康的なお色気というレヴェルを逸脱している。
「……先輩。その———こんな事を口にすると誤解されそうなんですけど」
「はい? 誤解というと、なんでしょうか」
「先輩、きつきつですね。サイズ合ってないんじゃないですか」
「え? サイズ的には合ってますけど、そんなにヘンですか?」
不安そうに体操服を見るシエル先輩。
———うむ、コレはコレで正解なのであえて何もいうまいよ。
「いえ、全然ヘンじゃないです。それよりなんですか先輩、急に呼びとめて」
「あ、そうでした。遠野くん、これから五十メートル走ですか?」
「はい。ちょっくらひとっ走りしてきますけど、それが何か」
「ではその次の競技はなんでしょうか」
「……はあ。次は高跳びと曲芸ですね。そうしてお昼休みを挟んで、騎馬戦とリレーですけど」
「そうですか! それじゃお昼休みに挟む競技はとってないんですね?」
「ですねー。高跳びは長引くと昼休みに食いこみますけど、きっと予選落ちですから」
「あ、そうでした。遠野くん、これから五十メートル走ですか?」
「はい。ちょっくらひとっ走りしてきますけど、それが何か」
「ではその次の競技はなんでしょうか」
「……はあ。次は高跳びと曲芸ですね。そうしてお昼休みを挟んで、騎馬戦とリレーですけど」
「そうですか! それじゃお昼休みに挟む競技はとってないんですね?」
「ですねー。高跳びは長引くと昼休みに食いこみますけど、きっと予選落ちですから」
「良かった、それなら予約を入れちゃいます。今日はお弁当を作ってきましたから、お昼は一緒にとりませんか?」
じっ、と先輩は上目遣いで提案してくる。
「……あのですね、先輩。その格好でそんなコトを言われてノーといえる男の子なんていません。よろこんでご一緒します」
「良かった、それじゃあ失礼しますね。いいですか、もう約束しちゃいましたからねー!」
じっ、と先輩は上目遣いで提案してくる。
「……あのですね、先輩。その格好でそんなコトを言われてノーといえる男の子なんていません。よろこんでご一緒します」
「良かった、それじゃあ失礼しますね。いいですか、もう約束しちゃいましたからねー!」
手を振って自分の応援席へ駆けていくシエル先輩。
「—————やった」
お昼は先輩と一緒かあ。
……とっ、にやけている場合じゃない。こっちも急がないと五十メートル走に遅れて——�
お昼は先輩と一緒かあ。
……とっ、にやけている場合じゃない。こっちも急がないと五十メートル走に遅れて——�
「ああ、良かった。待ってください、兄さん!」
———と、今度は秋葉に呼びとめられた。
「ああもう、なんだよ秋葉! 見てのとおりもう急がないといけないんだってば!」
それでも律儀に振り返る。
「ああもう、なんだよ秋葉! 見てのとおりもう急がないといけないんだってば!」
それでも律儀に振り返る。
【秋葉】
————————。
いや、これはこれで。
「に、兄さん……? あの、お忙しいのは解りますが、その前に少しいいですか?」
体操服姿が恥ずかしいのか、秋葉は借りてきた猫のように大人しい。
シエル先輩とは正反対の魅力というか、まっとうな体操服姿もやっぱりいいなあ、とかなんとか。
体操服姿が恥ずかしいのか、秋葉は借りてきた猫のように大人しい。
シエル先輩とは正反対の魅力というか、まっとうな体操服姿もやっぱりいいなあ、とかなんとか。
「———うん、これはこれで」
「……はい? あの、お話をしていいんですか兄さん?」
秋葉はおどおどとこちらを見上げる。
……その仕草は反則だ。ていうか、さっきから反則のオンパレードだ。
「……はい? あの、お話をしていいんですか兄さん?」
秋葉はおどおどとこちらを見上げる。
……その仕草は反則だ。ていうか、さっきから反則のオンパレードだ。
「いいけどなんだよ。急いでるから手短にしてくれ」
「それでは簡潔に言いますね。琥珀が二人分のお弁当を作りましたから、お昼は学食に行く必要はありません」
「あ、そうなんだ。さっすが琥珀さん、気が利いてるな」
「そうですね。今日は特別手を加えたという事ですから、楽しい昼食になりそうですね」
「そうだな。それじゃあおいしくお弁当が食べれるように全力で走ってくるか!」
よーし、と気合をいれる。
……なんかどこかひっかかるけど、琥珀さんのお弁当は本当にありがたい。
「それでは簡潔に言いますね。琥珀が二人分のお弁当を作りましたから、お昼は学食に行く必要はありません」
「あ、そうなんだ。さっすが琥珀さん、気が利いてるな」
「そうですね。今日は特別手を加えたという事ですから、楽しい昼食になりそうですね」
「そうだな。それじゃあおいしくお弁当が食べれるように全力で走ってくるか!」
よーし、と気合をいれる。
……なんかどこかひっかかるけど、琥珀さんのお弁当は本当にありがたい。
「それでは失礼します。それと兄さん、一位以外の結果なんて認めませんからね」
最後にらしいセリフを残して秋葉も応援席へと戻って行った。
「………………」
しばし休憩。先輩と秋葉の姿を思い返して、こういう展開もアリだな、とかみさまに感謝する。
【久我峰】
「いやあ、体操服はいいですなあ」
「うわ、な、なんでこんな所にいるんだアンタ!」
「はっはっはっ、親族として見学に来たのですよ。秋葉様のブルマ姿など今までは拝見できませんでしたからねえ」
突如現れたふとっちょはほがらかに笑う。……この人もある意味大物というか、まったく懲りないというか、ともかくこの邪魔くさい人は久我峰斗波という。
その名前が示す通り、久我峰家の長男さんだ。
「うわ、な、なんでこんな所にいるんだアンタ!」
「はっはっはっ、親族として見学に来たのですよ。秋葉様のブルマ姿など今までは拝見できませんでしたからねえ」
突如現れたふとっちょはほがらかに笑う。……この人もある意味大物というか、まったく懲りないというか、ともかくこの邪魔くさい人は久我峰斗波という。
その名前が示す通り、久我峰家の長男さんだ。
久我峰は遠野家の分家筋の中で最も格式の高い一族だ。その力は経済面において発揮され、財団法人である遠野グループの三分の一は久我峰の息がかかっている。
そんなこんなで遠野家としても久我峰は邪険にできる相手ではなく、このふとっちょ……もとい、斗波さんはちょっと前まで秋葉の婚約者だった。
本人は色々と問題のある性癖……いや、性格をしていて、遠野家に在留している間は翡翠を大いに困らせたという。
……まあ、今では改心してわりといい人になっているようなのだが。
そんなこんなで遠野家としても久我峰は邪険にできる相手ではなく、このふとっちょ……もとい、斗波さんはちょっと前まで秋葉の婚約者だった。
本人は色々と問題のある性癖……いや、性格をしていて、遠野家に在留している間は翡翠を大いに困らせたという。
……まあ、今では改心してわりといい人になっているようなのだが。
「……いいんですか。秋葉に見つかったら今度こそ殺されますよ、アナタ」
「はっはっはっ、その程度のリスクを気にしていては会社はやっておられませんな。見たいものは見る。見れるものは見られるうちに見ておくべしです。
しかし惜しい。ワタシが秋葉様とご婚約していれば、もう好きなだけ着せ替えができたのでしょうなあ……」
しみじみと応援席の女生徒を眺めるふとっちょ。
とくにブルマと肌の隣接部分を射抜くように観察している。
【久我峰】
「それではワタシはこれで。撮影部隊に指示を送らねばなりませんので」
「……アンタ。まだその盗撮ぐせが治ってないのか」
【久我峰】
「はっはっはっ。ベストショットがありましたら志貴君にも譲ってさしあげましょう。それと老婆心ながらも一つ。二兎を負うものは二匹の兎にかこまれて袋叩きに遭いますぞ?」
「それではワタシはこれで。撮影部隊に指示を送らねばなりませんので」
「……アンタ。まだその盗撮ぐせが治ってないのか」
【久我峰】
「はっはっはっ。ベストショットがありましたら志貴君にも譲ってさしあげましょう。それと老婆心ながらも一つ。二兎を負うものは二匹の兎にかこまれて袋叩きに遭いますぞ?」
ズシャーアー! とあの巨体に似合わない足取りで観客席に消えていくふとっちょ。
「……また妙なのに会っちまったな」
まあ、それでも昔ほど苦手という訳ではなくなっている。
秋葉と婚約を解消してから丸くなったし、なんか俺にも好意を抱いてくれているらしいんで邪険にはできないし。
「けど二兎を追うものってなんなんだろう」
呟いた途端、さっき秋葉と話した時に感じた違和感が蘇ってきた。
□校舎前
「———? なんだ、なんか冷や汗が出てるぞ?」
というか、背筋が妙に冷たい。まるでこの先に待つ危険を察知したかのように体が震えていた。
「武者震いかな?」
あはは、と笑って自分を誤魔化したりする。
さて、それじゃあ第一トラックへ向かうとしますか。
「———? なんだ、なんか冷や汗が出てるぞ?」
というか、背筋が妙に冷たい。まるでこの先に待つ危険を察知したかのように体が震えていた。
「武者震いかな?」
あはは、と笑って自分を誤魔化したりする。
さて、それじゃあ第一トラックへ向かうとしますか。
————んで、自分の間抜けさ加減に呆れた。
こういう展開になるって考えつきそうな物だったのに、どうしてその時になるまで考えもしなかったんだろう?
こういう展開になるって考えつきそうな物だったのに、どうしてその時になるまで考えもしなかったんだろう?
□中庭
ゴゴゴゴゴゴゴ!
はた迷惑にも大地を鳴動させるこの緊張感! 危険を察したのか中庭からは小鳥たちが一斉に空へ羽ばたき、うらやましいなー!なんて言っていた男子生徒たちも急用を思い出した、とばかりに教室に逃げ帰ってしまった。
はた迷惑にも大地を鳴動させるこの緊張感! 危険を察したのか中庭からは小鳥たちが一斉に空へ羽ばたき、うらやましいなー!なんて言っていた男子生徒たちも急用を思い出した、とばかりに教室に逃げ帰ってしまった。
「————————————」
「————————————」
にらめっこでもしているのか、二人はかれこれ十分ほど無言で対峙し、
「————————————ふ」
「————————————うふふふ、ふ」
このように時折含み笑いを洩らす。
実に、心臓によろしくない。
「————それで先輩。その手に持っているみすぼらしい包みはなんですか?」
「あら秋葉さん、お弁当箱も見たコトないんですか? 図々しくもこちらに通い出してから大分経っているのですから、少しは一般教養が身についているかと思ったのに」
「そうですね、まだまだいたらぬ身で恥ずかしいかぎりです。けれど私が知っているお弁当というのは保存食としての機能も兼ね備えたものだと聞きます。そんな、白飯にカレーをぶっかけた物をお弁当と認めるワケにはいきません」
「あら秋葉さん、お弁当箱も見たコトないんですか? 図々しくもこちらに通い出してから大分経っているのですから、少しは一般教養が身についているかと思ったのに」
「そうですね、まだまだいたらぬ身で恥ずかしいかぎりです。けれど私が知っているお弁当というのは保存食としての機能も兼ね備えたものだと聞きます。そんな、白飯にカレーをぶっかけた物をお弁当と認めるワケにはいきません」
「失礼ですね、中身も見ていないくせに適当なコトを言わないでくれませんか? これは遠野くんと二人で食べられるように工夫に工夫を重ねたお弁当です。
———そんな、あからさまに琥珀さんに作ってもらっただけの、他人の手を借りたお弁当とは内容も愛情もけた違いです」
例えるならミリとキロメートルぐらいですか、と笑顔で付け足すシエル先輩。
「—————————」
ぎり、と歯を鳴らす秋葉。……ゴゴゴゴ、という鳴動はさらに激しくなっていく。
これでこう、背景にバーン!と竜虎が相打ったら絵になるんだが。
———そんな、あからさまに琥珀さんに作ってもらっただけの、他人の手を借りたお弁当とは内容も愛情もけた違いです」
例えるならミリとキロメートルぐらいですか、と笑顔で付け足すシエル先輩。
「—————————」
ぎり、と歯を鳴らす秋葉。……ゴゴゴゴ、という鳴動はさらに激しくなっていく。
これでこう、背景にバーン!と竜虎が相打ったら絵になるんだが。
「———そう、先輩も苦労なさっているんですね。兄さんに誇れるだけの技術がないから愛情だとか時間をかけたとか、そんな犬の餌にもならない物を持ち出すしかないなんて。
ええ、本当に可哀相。空想でお腹は膨れません。だっていうのにそんな物を今まで無理やり食べさせられてきたんですね、兄さんは」
「あはは、その言葉はそっくり秋葉さんにお返しします。遠野くんも琥珀さんのお弁当だけならタイヘン美味しくいただけていたでしょうから」
ええ、本当に可哀相。空想でお腹は膨れません。だっていうのにそんな物を今まで無理やり食べさせられてきたんですね、兄さんは」
「あはは、その言葉はそっくり秋葉さんにお返しします。遠野くんも琥珀さんのお弁当だけならタイヘン美味しくいただけていたでしょうから」
「……ちょっと。それ、どういう意味ですか」
「額面通りに受け取ってくださって結構ですよ。食事というのはですね、料理が巧ければ美味しいというわけではありませんから」
「額面通りに受け取ってくださって結構ですよ。食事というのはですね、料理が巧ければ美味しいというわけではありませんから」
バチバチバチバチ。
おお、やっぱり絵になったか!
「……いいでしょう、これ以上先輩と問答をしていても無意味です。私はこれから兄さんと昼食をとりますから、先輩はどうぞ街灯の上ででも一人で食事をなさってください」
「解らない人ですね秋葉さんも。先ほどから言っている通り、先に約束をしたのはわたしの方です。秋葉さんこそ離れに帰って食事をしたらどうです? 今日は特別に見逃してあげますから琥珀さんを召し上がっていいんですよ。ほらほら、こんなふうに無理に人間らしいフリをしなくていいんですってば」
「解らない人ですね秋葉さんも。先ほどから言っている通り、先に約束をしたのはわたしの方です。秋葉さんこそ離れに帰って食事をしたらどうです? 今日は特別に見逃してあげますから琥珀さんを召し上がっていいんですよ。ほらほら、こんなふうに無理に人間らしいフリをしなくていいんですってば」
あわわわ。
「———そう。どうやら貴方とは一度白黒をつけなければならないようね、シエル」
「同感です。遠野くんの肉親だからと見逃していましたが、獅子身中の虫とも言いますし。一番始めに叩くべきは貴方でしたね、遠野秋葉さん」
「同感です。遠野くんの肉親だからと見逃していましたが、獅子身中の虫とも言いますし。一番始めに叩くべきは貴方でしたね、遠野秋葉さん」
あわわわわわわ。
「では勝負形式を決めましょう。後腐れがないように第三者にジャッジをしてもらうというのはどうですか」
「おや奇遇ですねー、わたしも同じことを考えてましたよ」
「ええ。つまり兄さんが選んだお弁当の持ち主が勝者ということで。これならお互いの能力はあまり関係ありませんから、純粋に勝敗の責任は全てそこの人にいくわけです」
ちらり、と。意味ありげな流し目を向けてくる鬼妹。
「おや奇遇ですねー、わたしも同じことを考えてましたよ」
「ええ。つまり兄さんが選んだお弁当の持ち主が勝者ということで。これならお互いの能力はあまり関係ありませんから、純粋に勝敗の責任は全てそこの人にいくわけです」
ちらり、と。意味ありげな流し目を向けてくる鬼妹。
あわわわわわわわわわわ!
「ちょっ、ちょっと待った! その勝負形式は極めて俺に不公平だ!」
「あら、そんなコトはありませんよ? 兄さんはただお好きな方のお弁当を選べばいいんです。それで昼食は円満に始められますし、先輩との決着もつけられる。こんなに合理的な形式はないと思いますけど?」
「まったく同感です。一石で二鳥を落とす、というワケですね。まあ、この勝負形式の唯一の問題点は選ばれなかった方が勝者を恨むのではなくジャッジを恨む、という所でしょうけど」
ちらり、と。意味ありげな流し目を向けてくる鬼眼鏡。
「あら、そんなコトはありませんよ? 兄さんはただお好きな方のお弁当を選べばいいんです。それで昼食は円満に始められますし、先輩との決着もつけられる。こんなに合理的な形式はないと思いますけど?」
「まったく同感です。一石で二鳥を落とす、というワケですね。まあ、この勝負形式の唯一の問題点は選ばれなかった方が勝者を恨むのではなくジャッジを恨む、という所でしょうけど」
ちらり、と。意味ありげな流し目を向けてくる鬼眼鏡。
「話は決まりましたね。
————それじゃあ兄さん。潔く、どちらにするか決めてください」
ずい、とお弁当を差し出してくる秋葉。
「ええ。どっちも選べないとかどっちも食べたい、だとかぬかしやがったらタダじゃおきません」
ずい、とお弁当を差し出してくる先輩。
————それじゃあ兄さん。潔く、どちらにするか決めてください」
ずい、とお弁当を差し出してくる秋葉。
「ええ。どっちも選べないとかどっちも食べたい、だとかぬかしやがったらタダじゃおきません」
ずい、とお弁当を差し出してくる先輩。
□中庭
「さあ」
ずい。
「さあ」
ずい。
「さあ!」
ずずい!
「さあ!」
ずずずい!
ずい。
「さあ」
ずい。
「さあ!」
ずずい!
「さあ!」
ずずずい!
後じさりしていた足がごつん、とベンチに当たる。
退路はない。
目の前には標的を相手からこちらに変えたあくまが二人。
「は—————————は」
手詰まりだ。
こうなってしまったが最後、遠野志貴が無事に済む選択肢なんてどこにもないじゃないかよう……!
退路はない。
目の前には標的を相手からこちらに変えたあくまが二人。
「は—————————は」
手詰まりだ。
こうなってしまったが最後、遠野志貴が無事に済む選択肢なんてどこにもないじゃないかよう……!
「—————うわあ、もう食べられないよう!」
□志貴の部屋
で、ベッドから跳ね起きた。
「——————む?」
はぁはぁと荒い息遣いのまま周囲を確認する。
……ここは自分の部屋。
時刻は午前四時過ぎで、時計の音がチクタクと夜の静けさを明確にしていた。
「……夢?」
はい、夢でした。
まあどんな夢だったかなんて思い出せないんだけど、なんか両手を縛られて無理やり二人分のお弁当を食べさせられているような、そんな拷問じみた夢だった気がする。
はぁはぁと荒い息遣いのまま周囲を確認する。
……ここは自分の部屋。
時刻は午前四時過ぎで、時計の音がチクタクと夜の静けさを明確にしていた。
「……夢?」
はい、夢でした。
まあどんな夢だったかなんて思い出せないんだけど、なんか両手を縛られて無理やり二人分のお弁当を食べさせられているような、そんな拷問じみた夢だった気がする。
「……別にお腹は減ってないけど」
ばふ、とベッドに横たわる。
眠気はまだ十分にあるし、このままもう一度寝てしまおう。
———さて。
願わくば、次はあんな悪夢を見ませんように——
ばふ、とベッドに横たわる。
眠気はまだ十分にあるし、このままもう一度寝てしまおう。
———さて。
願わくば、次はあんな悪夢を見ませんように——