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歌月十夜236

时间: 2019-11-29    进入日语论坛
核心提示:*s519□志貴の部屋うっすらと目を開けると、もう朝がやってきていた。うーん、と両手を前に伸ばして口をあける。手の甲で口元と
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*s519
 
□志貴の部屋
うっすらと目を開けると、もう朝がやってきていた。
うーん、と両手を前に伸ばして口をあける。
手の甲で口元と髭をさすってから、さて、とベッドから跳ね起きた。
 トン、と絨毯に着地する。
 おお、なんという身の軽さ! こんなに体が軽くて調子がいい朝なんて、今までなかったなー、と尻尾を揺らす。

———————?
 ありゃ? なんか、妙にベッドがおっきい。
そういえば床も広いし、随分と部屋が拡大した感じ。
「にゃ?」
な?と声をあげたつもりだった。
「にゃにゃ?」
なんだ?と声をあげたんだってば。
「にゃにゃにゃにゃにゃ!?」
なにごとー!?と声をあげたんですけど、俺!

「フぅーーーーーーっ!」
背中の毛をたてて威嚇する。
……いやもう、何が起きているかは判っているんだけど、納得がいかずに部屋中を走りまわった。
ネコ!?
ネコの呪いなのかにゃ!?
昨日、あの着ぐるみを着たまま眠ったのがまずかったって言うのかにゃーーーー!?

「うにゃーーーーーー!」
ぐるぐると部屋中を走りまわる。
それこそバターになりかねない回転数をこなした後、観念して絨毯に倒れこんだ。
ぱたり。

「—————————」
さて、そろそろ冷静に考えよう。
遠野志貴はネコになってしまった。
以上、終わり。
「フーーーーーーっ!」
なんだそりゃー! と横に倒れたままで手足をつっぱってみる。
……うわあ、まんまネコだなあコレ。
 
———!
そうか、もう翡翠がやってくる時間だ。
別に隠れるコトもないと思うんだけど、なにかと面倒なコトになりそうなのでベッドの下に駆け込んだ。
【翡翠】
「失礼します」
【翡翠】
「志貴さま、お目覚めの時間ですが———」
と、翡翠は言葉を切る。
当然だろう、ベッドには俺の姿はなく、部屋はもぬけの殻なんだから。

【翡翠】
「志貴さま……? どこかでお隠れなのでしょうか?」
困ったふうに部屋の隅とかカーテンの裏を見て回る翡翠。
もちろんそんな所に遠野志貴の姿はない。
……それでも部屋を探す翡翠が可哀相になってきて、翡翠の前まで歩いて行った。
「にゃ」
ぺしぺし、と足を叩く。
【翡翠】
「え……?」
驚いて下を見る翡翠。
うにゃ、と見上げるこっちと目が合った。
【翡翠】
「—————————」
翡翠は無言で見知らぬ猫を見つめると、
【翡翠】
 なぜか、おじぎをした。
【翡翠】
「こんにちは。あなたも中庭の猫さんの友達ですか?」
「にゃ。にゃにゃにゃ」
違う。だが正体は明かせない。
などと言ってみたのだが、翡翠はやっぱり、と優しく笑みを浮かべるだけだった。
 
【翡翠】
「猫さん。あなた、ずっとここにいましたか?」
「………」
頷く。
「それではここで眠っていた人を知らないでしょうか。猫さんと同じようなくせっ毛をしていてメガネをしていらっしゃるのですが」
と、翡翠はベッド脇に置かれたままの俺のメガネを見る。
【翡翠】
「訂正します、メガネはしておりません。手がかりは猫さんと同じくせっ毛だけです」
「………………」
 うーん、どう言ったものだろう。
ここにいる、なんて言っても事態を混乱させるだけだろうし、そもそも通じる気がしない。
ここは適当に、窓から出て行ったというジェスチャーをして翡翠を安心させてあげるのが適切だろう。

「…………………」
と。翡翠はじっ……と、熱心にこっちを見つめていた。
「?」
首を傾げる。
「……猫さん、どことなく志貴さまに似ていらっしゃいます……」
翡翠はそんなコトを呟いたあと。
「……性別は、どうなのでしょう」
なんて、人の体を強引に抱き上げた。
 
「————————!」
にゃーーー!と暴れたが猫の身ではどうしようもない。
「失礼します」
なんて、とんでもなく失礼なコトを言って、翡翠は後ろ足を掴んでまじまじとそのあたりを観察した。
【翡翠】
「男の子なんですね。本当に志貴さまに似ていらっしゃいます」
嬉しそうに微笑む翡翠。

「にゃ、にゃ—————」
ひ、ひ、
「にゃにゃにゃにゃ———————!」
翡翠のばかーーーーーーーーーー!
 
□屋敷の廊下
廊下を全力で駆けぬけて停止する。
……うう、翡翠に悪気はないといえとんでもない目にあってしまった。
この借りは必ず返すにゃ、と尾っぽを立てつつ顔を上げる、と。
 あ。ここ、秋葉の部屋の前だ。
 しかも扉はわずかに開いている。
「………………」
ピンときた。
 ネコになってしまった理由や対策を考えるのもいいが、ネコならではの利点というものも考慮にいれなくてはいけない。
例えば、普段なら覗き見ることなんかできない秋葉の私生活を拝見しちゃうとかなんとか。

「にゃ。にゃにゃにゃ」
ふ。ふふふふふふ。
えいっ、と頭で押してドアの隙間を広くする。
そのまま、するりと秋葉の部屋へ侵入した。

□秋葉の部屋
【秋葉】
「………………」

秋葉は机に向かって勉強をしていた。
ノートを開いて、参考書を見ながらなにやら難しい顔でシャープペンシルを走らせている。
「……にゃ」
にゃんだ、つまらない。
我が妹ながら、一点の隙も無いのは実に可愛くない。

【秋葉】
「……………………」

よほど難しい問題を解いているのか、時折そっぽを向いてはまたシャープペンを走らせる。
「…………にゃ」
……どんな問題を解いているんだろう。
ちょっと興味が湧いてきたので、ひょい、と秋葉に気付かれないように後ろに回って、机に広がったノートに目をやった。
 ノートの出だしには、
“落ちていく太陽。波の音だけが耳に響く”
 なんて、わけのわからない走り書きがあった。
「……?」
現代文?と首をかしげて続きを見る。
 
———そうして夕暮れの海岸で兄さんは私の肩にそっと手を置いた。
「馬鹿だな秋葉。俺にとって大切なのはおまえだけだよ」
近づく瞳と瞳。
けれど私はその手を解く。
「———嘘です。兄さんにはアルクェイドさんがいらっしゃるのでしょう? あの方、美人ですもの。それに体だって、その———とても魅力的ですし」
「馬鹿だな秋葉。ああいうのはデブっていうんだ。秋葉の長い黒髪と控え目な胸には敵わないよ」
逃げる私を兄さんの五指が掴まえる。
私たちはそのまま、どんな言葉もなくゆっくりと———
 
□秋葉の部屋
「なーんてね! あはは、なにやってるんだろう私!」
……自分で書いていて照れたのか、ごしゃー!と豪快に消しゴムをかけていく遠野秋葉。
「……ほんと、なにしてんだろ。せっかく一つ屋根の下にいるっていうのに、こんなコトしてるようじゃ望み薄ってものじゃな———」
【秋葉】
あ。目が合った。
【秋葉】
わなわなと肩を震わせてこっちを睨む秋葉。
「貴方、見たわね?」
「にゃ………!」
見てない見てない、と首を振る。
が、秋葉はこっちの言い分なんてまるで聞いていない。
「———そう、見たの。困った子ね、どうしてこう猫っていうのは失礼な輩ばかりなのかしら」
カッターやら万年筆やら、先がとんがったものを集める秋葉。
【秋葉】
「それになんだか兄さんを彷彿とさせるくせっ毛。あの人、昼行灯が過ぎてネコになってしまったのかしらね」
ふふ、なんて笑いながら着々と実弾を手にしていく。……本人は冗談のつもりなんだろうけど、的を射ている所が恐ろしい。
「———あら、そんなに怯えなくて大丈夫よ。ほら、女の子で猫が嫌いな子はいないでしょう?」
笑みをうかべてじりじりと間合いをつめる秋葉。
まずい。
アレは本気だ、と看破して秋葉と向かい合ったまま後退していき———一気にドアへと駆け寄った!

「逃がすか———!」
 
 しゅっぱん、なんて音をたてて、さっきまで自分がいた絨毯にカッターが突き刺さっていた。
「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ………!」
「ふん、年頃の女の子がみんな猫を好きだと思ったら大間違いよ……! 待ちなさい、盗み見をするような泥棒猫はお仕置きをして二度とうちに寄りつかないようにしてやるから!」
 
 しゅぱんしゅぱんしゅぱんしゅぱん!
機関銃のごとく繰り出される秋葉の投げカッター&万年筆!

「うにゃーーーーーー!」
後ろ足で思いっきり絨毯を蹴ってドアの隙間に飛び込む!
□屋敷の廊下
「チ、小癪な————!」
部屋からはドタドタという鬼妹の足音が響いてくる。
「にゃ!」
全速力で廊下を駆けるのにゃー!
 
□遠野家1階ロビー
「フゥー、フゥー、フゥー……!」
ロビーまで駆けてきて、ぜいぜいと息を継いだ。
……うう、酷い目にあった。
秋葉のヤツ屋根裏まで追いかけてきやがって、ここまでまくのにどれだけ体力を使ったことか。
「……フゥー……フゥー……」
ぺたん、と絨毯に座りこむ。
ああもう、しばらくはここでこうしてお饅頭になっていたい気分。
【琥珀】
「あら? また新しい猫さんですね」
「にゃ……!?」
しまった、屋敷にはまだ三人目にして最大のトンデモナイ人が残ってた……!
「にゃーーーー!」
残った体力をふりしぼって離脱する。
「えいっ。捕まえちゃいましたー!」
が、あえなく捕まってしまいましたー。
【琥珀】
「もう、顔を見るなり逃げようとするなんてシャイなんですねー。そういう子はお部屋に連行しちゃいます」

にゃにー!?
 
□琥珀の部屋
【琥珀】
「ふふ、ここなんてどうですか?」
……人の体をしっかり掴まえつつ、首の下を掻き始める琥珀さん。
「——————」
【琥珀】
「あれ? 気持ちよくありませんか?」
「——————」
ふんだ、そんな素振りしてやるもんか。人がネコである事をいいことにどいつもこいつも好き勝手やりやがって、こうなったら断固可愛げのないネコを演じてやろうじゃないか!
【琥珀】
「うーん、それじゃ次はこっちで」
喉から首の後ろに手を回す琥珀さん。
そのまま、首のつけねあたりを掻き始める。
……ふん、そんなコトしたって……したって……あれ……なんか、すごく……
【琥珀】
「ほらやっぱり。猫さんはですねー、自分じゃ掻けない所を触られると気持ちいいんですよ」
さらにさわさわと撫でてくる。
いや、あの———それはすっごく気持ちいいんだけど、あう、そ、そんな所まで触られるのは、ちょっと———

「—————んにゃ!」
精一杯の抵抗として、バタバタと手足を動かす。
【琥珀】
「あら、そんなに気持ちいいんですか?それじゃもっとサービスしてさしあげますね!」

なにかひどい勘違いをした琥珀さんはますます手つきをヒートアップさせる。
首の後ろから背中、トドメとばかりに尻尾の付け根をまんべんなくまんべんなくっ!

「あら。猫さん、男の子だったんですねー。ついでですから体を洗ってさしあげましょう」
ひょい、と暴れるネコを抱き上げてお風呂へと向かう琥珀さん。
「猫くん、お湯は慣れてます? 初めてだといやでしょうけど、慣れると気持ちいいんですよ〜。大丈夫、お姉さんが隅々までキレイにしてあげますから!」
「んにゃ〜〜〜〜!」
やーめーてー、お婿に行けなくなっちゃうにゃー…………!!

□林の中の空き地
「……………………」
……うう、酷い目にあった。
ちょっとした出来心で猫着ぐるみを着たばっかりにネコになってしまっただけでも酷いのに、どうしてこう会う人間会う人間が追い打ちをかけてくるんだろう?
ネコが人間嫌いなのも解る気がするにゃー、と哲学しながらトボトボと森を歩く。
目的地はただ一つ、遠野志貴の心の安息地である離れの屋敷だ。
なにしろ、あそこなら危害を与えてくる人間が存在しない。
 
□離れの入り口
「にゃ」
到着。
こうしてネコ視点で見上げると、この離れも随分と大きく見える。
「……?」
……あれ? なんだろう、壁の色が不自然なまでに違う個所がある。
「にゃ?」
近寄って触ってみると、がたん、と壁がスライドした。
———すごい、隠し財宝大発見!
まあネコなのでどうしようもないのではあるが。
 
「……にゃ」
ふん、と隠し棚なんか無視して縁側へ行く事にした。
……しかし、地面スレスレに隠し棚か。
ネコになっていなければ一生発見できなかったかもしれないな、アレ……。
 
 そんなワケで、離れの縁側で横になった。
こう、体をまるめて日向ぼっこをしているとネコもまんざらじゃないなー、と見なおしてしまう。
「……………うにゃ」
 ああ、いい気持ちだ。
琥珀さんに体を洗ってもらったっていうコトもあるけど、こうしているとたまらなく眠くなってくる。
すーすー。
ああもう、いいや寝てしまえ。
これからどうするかは起きてから考えるコトにしよう!
 
□志貴の部屋
「——————————」
ベッドから体を起こす。
ゆっくりと辺りを見渡すと、まごうことなき自分の部屋だった。
もちろん体は人間。ネコになっているだなどと非常識なコトは一ミリもない。
「————なんだよ、やっぱり夢か」
ま、それでも気分転換にはなった。
「それじゃ、おやすみ」
ばたん、とベッドに倒れて目蓋を閉じる。

————さて。
とりあえず、これでネコの呪いはなくなってくれただろう———
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