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笑う茶碗01

时间: 2019-12-05    进入日语论坛
核心提示:青梅の由来「青梅というのはですね」とアダチさんは言った。アダチさんは、都下青梅市の出身である。言って、ちょっと心配そうに
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青梅の由来

「青梅というのはですね」
とアダチさんは言った。アダチさんは、都下青梅市の出身である。言って、ちょっと心配そうにこちらの顔を見た。
「この話、前にもしましたっけ?」
アダチさんは私と同年輩である。この心配はよくわかる。私も同じ話をはじめてしまうことがよくあるのだ。そうして、横からツマにチェックされる。
「その話、前にもしたんじゃない」
同じ話をするのは、話したことを忘れるからである。忘れているから何度でも新鮮なキモチで話ができる。
「ええ、聞いたような気もするけど、どうせ忘れてるから大丈夫ですよ」
と私は言った。
「そう! 忘れるんですよみんな。どうしてですかね、今まで何度も話しているのに、誰一人覚えてくれないんですから」
と、アダチさんは、前に話したことを忘れているくせに不足を言った。
「今度は覚えてるから、もう一度だけ言ってくだせえまし」
と私はうながした。
「青梅というのはですね」
昔、タイラノマサカドが、どっかからどっかへ、誰かに追われて逃げてる時に、青梅のあたりを馬で駆けていたんですよ。
「その頃はまだ、青梅と言わなかったんですよね」と私は言った。
「そうです、よく知ってるじゃないですか」。それでね、その時マサカドは、梅の枝を折って、馬にムチをくれていたんです。
「そうそう、思い出しましたよ」。その梅の枝をマサカドが……
「捨てたんです」。そうでした。するとその捨てた梅の枝が、ストンと地面に刺さったんですね。で、そこで根がついて、梅の木が育ったのだが、その梅がマサカドの怨みによって、いつまでも熟さずに、青いままであったために、この地が青梅と名づけられたのだった、そういう話なのだった。
いまでもその梅は、なんとかいう寺の境内に生えているのだが、
「ちゃんと色づいてしまうんですよ、これが……」
と、アダチさんは残念そうなのだった。
「それはウソでも、青いままということにしておいた方が、よかありませんか?」
と私は提案した。
「しかし、事実は曲げられませんから……」
アダチさんは、新聞の編集委員なのである。社会部の記者からはじめて、雑誌の編集長やら、家庭面のデスクやら、歴任して、いまは編集委員として、署名記事を書いたりしている。
『対岸の家事』というコラムを私に書かせたのは、このアダチさんだ。「対岸の家事」のダジャレを思いついたので、タイトルも決めてくれたのだ。
マサカドの梅は、もう青いままじゃなくなった。しかし、地名は青梅ということになったので、ずっと青いままである。
今年は黄色いから黄梅市、おととしは赤かったから、赤梅市というわけにいかない。青くなくても青梅市。
「しかし、どうしてですかね?」と、アダチさんは先刻の不足を、むしかえした。
「会う人ごとに、話をしているのに、ハシからみんなが忘れるので、ちっとも青梅の由来が、世の中にひろがりませんよ」
だって、そんな、観光バスのバスガイドさんが、へんな抑揚つけて話すような話、覚えないのがフツーじゃないの? と私は思った。
マサカドの首が京都の方から飛んできて、飛びこえたところが浅草の鳥越神社だとかさ、途中で力尽きて落ちたところが津久戸明神だとかさ、そっちは派手だよ。
「なにしろ首だからね」
首が飛びこえたからトリゴエで、首が力が尽きたのでツクドですよ、シャレもムリヤリでバカバカしいじゃん。梅の枝がささって、そこから梅が育って青いままだから青梅って、ふつうですよ。
忘れてもしかたない話じゃないの? と私は思ったのだった。思ったがそうは言わなかった。
そんなこと言ったら、アダチさんはもっとガックリきてしまうだろう。
会う人会う人に青梅の由来を聞かしているのに、誰一人覚えてくれないのである。
「ああなるほどね、梅が青い、青いままだから青梅ですか、はあ、はあ」
と、一応、相槌を打って、一〇秒後にはもう忘れてしまうのだ。
「アダチさん、ボクは覚えましたよ青梅の由来。これからボクは会う人会う人に、この話をしますよ。トートツに突然、青梅の由来を説いてまわりますよ」
冗談のつもりだったが、アダチさんはうれしそうなのだった。
「青梅はいいとこですよね、ボクは梅の花のニオイをかぐのが好きだからね、いきましたよ二年くらい前に、青梅。ウメサトっていいましたっけ」
「バイゴウですね」とアダチさんは訂正した。
「そう梅郷。よかったなァ、何もなかったけどね、でもって夕方んなると真っ暗で寒かったー」
「寒かったねー、駅にダレもいなくなっちゃったしねー」とツマが唱和した。
「ああ、何もない。うーん、何もないですねえ」とアダチさんは言った。ザンネンそうだった。アダチさんはほんとに青梅が好きだなあ。
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