「南さんとこ来ると、いつでもお相撲のTVやってますね」
と言う編集者の人がよくいるが、もちろんこれはまちがいである。お相撲はいつでもはやってないので、やってるのは二カ月おき、しかも、一場所は十五日間ずつで、うちは社員全員(つまり、私とツマだが)相撲好きで、場所中はたしかに、TVはつけっぱなしであるが、それ以外に「お相撲」はついていない。
敷島関が引退して、今は親方になってしまったので、ひところのように、えのきどいちろうさんとこと二家族で、熱狂的な応援をしにいくということもなくなったけれども、いまは今度横綱になった朝青龍をヒイキにしている。
朝青龍のファンだし、朝青龍のパパのファンでもある。旭鷲山がいまちょっと元気がないけど、旭鷲山も好きだし、旭鷲山のパパも好きだ。うちではモンゴル相撲の勝者のする鷲の舞いとかも、見るたんびに「カッコイイ!」と言ってパチパチ拍手する。
旭鷲山や朝青龍のパパが好きなのもパパたちがモンゴル相撲の力士で、立派な顔と堂々とした体を、あの派手でカッコイイ民族衣裳に包んでいるからだ。
「カッコイイねえ!」
と言って、見たら拍手しているのである。それで、こんどは、朝青龍の本名を覚えてスラスラ言えるようになろう、と二人できめた。
時々、アナウンサーがつっかえたりまちがったりしながら朝青龍の本名を言ったりするんで、がぜん正確に覚えたい! と思ってしまったのだった。調べてみたら、朝青龍の本名は
「ドルゴルスレン・ダグワドルジ」
だった。これは練習しないと、とうていスラスラは言えない。
ちなみに、モンゴル出身力士の本名は、いずれも、まさるともおとらないっていうか、いずれあやめかかきつばたっていうのか、ともかく例外なくむずかしい。あんまりむずかしくて笑っちゃうので、以下に列記してみましょう。
㈰ニャムジャブ・ツェベクニャム
㈪ダヴァー・バトバヤル
㈫バダルチ・ダシニャム
㈬ダワーニャム・ビャンバドルジ
㈭ムンフバト・ダヴァジャルガル
㈰が旭天鵬、㈪が旭鷲山、㈫が朝赤龍、㈬が安馬、㈭が白鵬。
もしシコ名が全部本名だったとすると、呼び出し、行司に怪我人続出でしょう。
っても怪我は舌に限定ですけど。
モンゴルに較べると、東欧やロシアは、それほどまでにはむずかしくない。
黒海が、トゥサグリア・メラフ・レヴァン、露鵬が、ボラーゾフ・ソスラン・フェーリクソヴィッチ、琴欧州がカロヤン・ステファノフ・マハリャノフ。
「ドルゴルスレン・ダグワドルジ」
早くスラスラ言えるようになりたい。一体にわが家では、こうした、早口言葉みたいな、ばかげた努力がキライでないらしく、昔からこんなことをよくしているのである。
昨日は、手土産にいただいた和菓子の箱のなかに、しおりのような紙片が入っていて、中に「四季の和生菓子」という字のあるのを見つけて、二人で発音練習をした。
「ワナマガシ」
「シキノワナマガシ」
って言いにくいよなァ、と私がいうと、ツマが、
「うん、でも、ワナマガシだけならまだ言える……親和生菓子、子和生菓子、孫和生菓子だとちょっと言いにくい」
と提案した。なるほど言いにくそうだ。が、和生菓子に子や孫がいるのだろうか? ていうか和生菓子の親ってなんだ?
「じゃ、ちょっとやってみようか」
「オヤワナマガシ、コワナマガシ、マゴワナマガシ、うひゃー言いにくい! オヤワナマガシ、コワナマガシ、マゴワナガシ……」
「もっと早く!!」
「おやわなが……おやわなな……」
「おあやや、おあやまりなさいってのがあったな、ちょっと似てる」
ただ並列するより、やっぱり親子孫ときたら上にのせないとじゃないかな? と私が提案した。
「オヤワナマガシーの背中にコワナマガシのせて、コワナマガシの背中にマゴワナマガシのせてぇ、オヤワナマガシこけたらコワナマガシ、マゴワナマガシ、ヒイマゴワナマガシこけた」
これはかなりむずかしい。そうとう練習しないと、できないと思う。はじめから、あせらないことだ。落ちついて、着実に一歩一歩マスターしていくしかない。
「オヤワナマガシ」
「オヤワナマガシ」
「コワナマガシ」
「コワナマガシ」
「マゴワナマガシ」
「マゴワナマガシ」
オヤワナマガシこけたら、ミナこけたト。ドルゴルスレン・ダグワドルジ。