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愛してると言わせて05

时间: 2019-12-07    进入日语论坛
核心提示:島田正吾さんのこと先日、NHKの「ひらり」のスタッフと島田正吾さんの一人芝居「白野弁十郎」を観に行った。島田正吾さんはご
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島田正吾さんのこと

先日、NHKの「ひらり」のスタッフと島田正吾さんの一人芝居「白野弁十郎」を観に行った。
島田正吾さんはご存じの通り、今はなき「新国劇」で故・辰巳柳太郎さんと人気を二分した名優で、「ひらり」には主人公石田ひかりちゃんの祖父役で出演して下さっている。「ひらり」の試写の時にも記者団から、
「石田さんはラッキーな人ですね。島田さんと共演できるなんて、これはどんなに大きな財産になるかわかりませんよ」
と声があがったほどで、ひかりちゃんは、あのキラキラした目で答えた。
「はい。とても幸運でとても幸福なことだと思っています」
その島田正吾さんは現在八十六歳。そして八十二歳の時に、一人芝居「白野弁十郎」をやってみたいと思われたそうである。
もともと「白野弁十郎」は島田さんの師にあたる故・沢田正二郎の当たり役であった。フランス文学の「シラノ・ド・ベルジュラック」をもとにした作品で、鼻が異様に大きく、容貌《ようぼう》が酷《ひど》いために愛する女にも想いを告白できないシラノ。そればかりか、友人も同じ女を想っていると知り、恋文を代筆したりして仲をとりもつ悲しい男である。
島田さんは八十二歳の時に、師の当たり役をご自分で三場に脚色し、舞台に立たれた。約一時間四十分をたった一人で演ずるというのは並大抵のことではない。それも八十二歳といえば、「近頃は物忘れがひどくてねえ」ですべて許される年齢である。
ところが島田さんは平然と演じ続け、この三月には「シラノ」の本場パリで小屋を超満員にし、フランス政府からフランス芸術文化勲章を授与されている。
パリの舞台に立つことのなかった故・沢田正二郎に島田さんは心の中で語りかけたそうである。
「先生、あなたのなしえなかった夢を、八十六歳の弟子が実現させましたよ」
そのパリ以来の舞台が池袋の芸術劇場で行なわれるというので、NHKスタッフと私はドキドキする思いで出かけたのである。
実は私にはドキドキしているもうひとつの理由があった。小川昇さんとおっしゃる照明マンの照明を見たかったのである。
小川昇さんは九十三歳の現役である。大正十五年に故・沢田正二郎が初めてこの「白野弁十郎」を演じた時の照明マンであるという。私はこの話を新聞で読んだ時にとり肌が立った。九十三歳の現役が、大正十五年の初演と同じように照明を当てるなんて、これは信じ難いほどすてきなことである。小川さんはもちろん、パリ公演にも同行されている。
八十六歳と九十三歳のコンビが、今は亡き師への想いを胸に舞台を作り続けているなんて、何とすごいことだろう。それも「参加することに意義がある」というものではなく、国内の劇場はもとより、パリでも超満員にし、勲章まで受ける高レベルの作品に仕あげているのである。
実際、舞台は想像をはるかに越えてすばらしいものであった。「ひらり」ではいかにも下町のおじいちゃんを演じ、杖《つえ》をついて歩く島田さんがまるで青年のように軽やかに動く。セリフの調子も「ひらり」とは全然違うトーンで、改めて名優というのはたいしたものだと、私は圧倒されてしまった。
小川さんの照明はとても優しく、とてもやわらかく、芝居の効果をあげることはあっても、邪魔になるということが全然ない。よくコンサートや芝居で照明効果が強烈すぎて、照明だけが一人歩きする場合がある。度を越した照明に観客は「ワッ!」と驚き、それはそれで面白いのだが、主役であるはずの音楽や芝居を一瞬忘れさせてしまう。専門外のことなので断言はできないが、こういう照明を私はいいとは思えない。あくまでも主役を盛りたてる「効果」であるはずなのだから。
こうしてスタッフも私も舞台にとても満足し、終演後、楽屋に島田さんを訪ねた。メイクを半分落とした島田さんは黒いトックリセーター姿で、大喜びして迎えて下さった。こういう服だと驚くほど若い。失礼を承知で言わせて頂けば、黒いセーター姿には男の色気さえ感じられて、私と女性カメラマンは妙にドキドキしてしまった。
そして、思いがけぬことにそこで小川さんを紹介されたのである。お目にかかれるなんて思ってもみない方であった。小川さんは美しい白髪で、スラリと背が高く、グレーのスーツを上品に着こなしたダンディな方であった。
私たちはまたもドキドキして、
「お目にかかれて嬉しいです」
というのが精一杯。
それにしても、どうしたらこんなにすてきな八十六歳や九十三歳になれるのだろう。生まれた時はみんな赤ちゃんで、みんな中学生をやり、みんな三十歳、四十歳となっていくのに、どの時点で差がつくのだろう。その差は何が原因なのだろう。むろん環境や経済的なことも影響するだろうが、決していい環境にいない人だって、ものすごくすてきな男女はいる。
たぶん、すてきな高齢者というのはいつでも「明日」を夢見ている人たちだと思う。毎日、新聞の死亡欄を見て、
「俺《おれ》より若いヤツがまた死んだ……。次は俺だ。どうせ俺も長くはない……」
と思っている人に男の色気など匂《にお》いたつわけがない。
八十二歳で明日を夢見て、「白野弁十郎」を演じようと、ごく「日常的」に思う心の何とすてきなことか。
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