新年早々、私は考えている。
どうしたらオバサンくさくないオバサンになれるか?
これが年頭の大テーマである。というのも、私は若い主人公のドラマを書いているが、全共闘世代である。十分にオバサンである。がしかし、「オバサン」というのと「オバサンくさい」というのは厳然と違う。「中年」と呼ばれる年齢になれば、どんなにステキな女だって「オバサン」で、「オネエサン」ではない。「オネエサン」には見えなくなる。男とて同じで、これは致し方ない。ところが「オバサンくさい」となると話は別である。年齢が高くても「オバサンくさくない」という女は確かにいる。「オバサンくさい」のも安心感があって悪くはないと、私は正直なところ思っていた。
ところが先日、あるワイドショーを見て考えこんでしまったのである。まるで我が身を見せつけられているようで、私はソファにのけぞり、しばし起きあがれなかった。そしてのけぞったまま、年頭のテーマを確立したのである。
そのワイドショーは、歌手の舟木一夫さんの「追っかけオバサン」を特集したものだった。舟木さんは全共闘世代にとっては永遠のアイドルである。私自身、舟木さんとジュリーは、甘酸っぱい青春の思い出とダブる。私にとって忘れられない二大スターである。
ワイドショーでは、舟木さんのステージに押しかける中高年女性の実態を、過酷なまでに写し出していた。何しろ、私は鳥羽一郎さんの追っかけオバサンであるから、他人ごととは思えない。
その時、面白いことに気づいた。カメラは初めに劇場の前を写したのであるが、中高年女性が長蛇の列を作っている。ところが「中高年」と十把ひとからげに呼んでも、「中年」と「高年」では女たちの匂いが明らかに違う。お年を召した「高年」の方たちは、どこか可愛い。マイクを向けられ、舟木さんの魅力をたずねられると、照れて口元を押さえ、恥しそうに身をよじって答える。
「全部好きです。はい」
ところが私の年代は問題がある。中年と呼ばれる女たちは全然身をよじらない。全然照れないし、口元なんか押さえもしない。マイクの前に四、五人が出てきて、わめく。
「全部好きよッ、全部ッ」
「そりゃそうよねー。いい男ッ!」
と、これである。高年の方々より若い分、みんなおしゃれできれいなのだが、どうも可愛気がない。碾《ひ》き臼《うす》の如き腰に加えて、化粧がケバい。私は我が身の赤い髪と赤いマニキュア、それに昨今とみに力強くなってきた腰にさわりつつ、画面の中年女性は間違いなく私自身だと思った。
すると次に、レポーターが中年女性ばかりを十五人ほど選び、舟木さんに関するクイズを始めた。〇×式で答えさせ、全問正解の人だけが、本物の舟木さんとご対面できるという。結果、半数くらいがその栄誉を手にしたのである。ところが、これではおさまらないのが中年女性の特質である。猛烈な抗議が始まった。
「何よ、全員を対面させなさいよ」
「そうよ。一問違っただけで会えないなんて、冗談じゃないわよッ。ねえ」
「ちょっと、何とかしてよッ」
レポーターは圧倒され、とうとう十五人全員をご対面させたのである。本物の舟木さんが現われるや、歓声と嬌声《きようせい》の嵐。もう手は引っぱる、肩は抱く、確か頬にさわった人さえいたと思う。舟木さんは明らかにタジタジとなりながら、それでも笑顔で一人一人と握手をする。私はホントに我が身を見ているようでガク然とした。
ところが彼女らが最後に見せた表情はすごく可愛らしかった。舟木さんと握手した感想を聞かれた時である。全員が頬を紅潮させて、キラッキラした目で答えた。
「生きててよかったァ。幸せ」
「それからもずっと応援します」
もしかしたら、傍若無人なオバサンというのは正直で、まっすぐで、感激屋で、とても可愛らしい年代を言うのかもしれないと思うほどであった。
私は、好きな人の追っかけをやることは、陽気で楽しい趣味だと思う。分別のついた中年であっても、好きなものは好き。握手したいものはしたい。それでいい。私は今のところは、こっそりと一人で鳥羽一郎さんのコンサートに出かけているが、いつグループでペンライトを振らないとも限らない。事実、
「舟木さーん!」
と絶叫してペンライトを振るオバサンたちを、実は私は嫌いじゃない。
ただし、ただしである、「オバサンくさいオバサン」ではない方が、舟木さんだって嬉しかろう。私は画面を見ながら考えた。そしてオバサンを形成する四つの要素に思いあたった。
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㈰二重あご。
㈪碾《ひ》き臼の腰。ウエスト七〇センチ以上。
㈫チェックの服。気をつけて見ているとわかる。オバサンくさい人は割とチェックを多用する。胸元でボウを結んだブラウス、そして碾き臼の腰にチェックのスカートは定番。
㈬白すぎる化粧。オバサンはなぜかマットなファンデーションをコテッと塗る。
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私は我が身を厳しく振り返り、今年は「オバサンくさくないオバサン」になって、エレガントな追っかけをやろうと心に誓ったのである。
それにしても、画面で見る舟木さんは、全然オジサンくさくなかった。