数日前の夜、十一時過ぎに六本木を一人で歩いていたときのこと。
「ちょっと、いい?」と呼び止められて、その声があんまり人を呼び止め慣れていないというか、いわゆる水っぽい感じじゃなかったので、思わず振り向いた。
顔も、お勤めの人、という風の、四十代くらいの男性。ところが、話は「あなただったら二時間で四万、いや、人によっては七、八万くれると思うんだけど」というやつ。
彼は、不動産の売買を本職にしていて、そのお客に女の子の紹介も行っているとのこと。その人たちとは、会っている時だけの関係で、もし街で出会っても声を掛けられたりすることはない。大きな物件を買ってくれるような人たちだから身元も確かだ、変な人たちじゃない、と言う。
「よかったら喫茶店で話だけでも聞かない?」「人と知り合うのは好きだけど、そういうのはいいや」と言ったら、「ほんとに七、八万だよ」と念を押された。その、金額のあたりがポイントなのかな、やっぱ。