この連載をやって思ったことは、私だけでなくみんな女は男に勘ちがいされているのだなあということだ。
いろいろ話を聞いていると、本当に尽きることがない。特に女の方は仕事で愛想良くしているだけなのに、男が個人的な感情によるものだと思い込むのはどういう訳なんでしょう(こう言うと不遜だが、愛想の良し悪しなど本人はほとんど自覚していないものだ。勘ちがいする方が迂闊だと私は思う)。経験したこと、聞いたことなどを真面目に考えていくと、
「本当にあーたたちはあたしたちが歩く性器にしか見えないんですか?」
という絶望的な問いが浮かんでくる。こういうと、
「いいや、しゃべる性器、たまには仕事もしてくれる性器だとも思ってるけど?」
という救いのない答えがそっと頭に浮かぶ人もいるんだろうな。まあそうなるとあんまりなので最終回の今週は少し笑える話にしましょう。
最近はウェイトレスという職は人気がなく、時給が千円近くまで上がっているそうだが、そのころは六百円の時給でも私は大喜びだった。だって、当時住んでいた練馬では、近所に「高給優遇」としてある店の時給が三百七十円だったりしたのだ。六百円のその店の場所は、池袋の東口方面であった。
事務所のたくさん入っているビルの2Fでもあり、まわりもオフィスビルが多いので、朝方は常連客ばかり。そんな中に、今回の主役、Bさんはいた。なぜBさんかというと、毎朝来ては、モーニングのBセットというものを食べていたからだ。年のころ二十代なかばだったろうか。
ここでひとこと申し上げておきたいが、私は、ホステスとしては無能だったけど、ウェイトレスとしては本当に言うことなしだったんです。今でもデスクワークに疲れた日には、シルバー(銀盆のこと)左手にムヤミとコーヒー運びたくなる。当然常連客においては、いつものオーダーから煙草の銘柄まで覚えてた。働かない学生バイトの女の子なんか入ると、この人と同じ時給なのかとがっかりしていたわ。
その日も、そんな学生バイトの子が、まちがえてBさんにCセットを運んで行ってしまった。Bさんが、いつもオーダーをとっていた私を呼びつけてまちがいをつたえたので、私が店の支配人に話をし、Cセットより安いBセットの料金で、そのCセットを食べてもらうことになった。
「本当にどうもすいませんでした」
お冷やを注ぎながらもういちどあやまる私に、Bさんはハードボイルドな表情をつくりつつこう言った。
「|おまえ《ヽヽヽ》が来なきゃ、だめじゃないか……」
おや? なんか変な言い方だったなと少し思ったが、その時はあまり気にしなかった。
しかし別の日に、なぜそんな話になったのかもわからぬまま、「オレの女になるための心構え」についてBさんが話しだしたのには、本当に驚いてしまった。おそるおそる、
「あのー、私、つきあってる人いるんですけど……」
と言うと、
「オレのせいで別れたカップルって、多いんだよね……。ま、いろいろ相談に乗ってやるからさ」
ここまで来ると完全におかしい。私はその後ほかの女の子たちにわけを話して、Bさんのテーブルには近付かないようにしてやり過ごしたが、Bさんは私がその店を辞めるまで、
「なぜ来ないんだ? おまえ……」
という表情でBセットを食べていたという。
事務所のたくさん入っているビルの2Fでもあり、まわりもオフィスビルが多いので、朝方は常連客ばかり。そんな中に、今回の主役、Bさんはいた。なぜBさんかというと、毎朝来ては、モーニングのBセットというものを食べていたからだ。年のころ二十代なかばだったろうか。
ここでひとこと申し上げておきたいが、私は、ホステスとしては無能だったけど、ウェイトレスとしては本当に言うことなしだったんです。今でもデスクワークに疲れた日には、シルバー(銀盆のこと)左手にムヤミとコーヒー運びたくなる。当然常連客においては、いつものオーダーから煙草の銘柄まで覚えてた。働かない学生バイトの女の子なんか入ると、この人と同じ時給なのかとがっかりしていたわ。
その日も、そんな学生バイトの子が、まちがえてBさんにCセットを運んで行ってしまった。Bさんが、いつもオーダーをとっていた私を呼びつけてまちがいをつたえたので、私が店の支配人に話をし、Cセットより安いBセットの料金で、そのCセットを食べてもらうことになった。
「本当にどうもすいませんでした」
お冷やを注ぎながらもういちどあやまる私に、Bさんはハードボイルドな表情をつくりつつこう言った。
「|おまえ《ヽヽヽ》が来なきゃ、だめじゃないか……」
おや? なんか変な言い方だったなと少し思ったが、その時はあまり気にしなかった。
しかし別の日に、なぜそんな話になったのかもわからぬまま、「オレの女になるための心構え」についてBさんが話しだしたのには、本当に驚いてしまった。おそるおそる、
「あのー、私、つきあってる人いるんですけど……」
と言うと、
「オレのせいで別れたカップルって、多いんだよね……。ま、いろいろ相談に乗ってやるからさ」
ここまで来ると完全におかしい。私はその後ほかの女の子たちにわけを話して、Bさんのテーブルには近付かないようにしてやり過ごしたが、Bさんは私がその店を辞めるまで、
「なぜ来ないんだ? おまえ……」
という表情でBセットを食べていたという。
そんなわけでまあ、そういう人たちには困ったもんです。しかし、そういう人たちもいますが、そうでない人もいます。私もたくさん知ってますし、今いちばん仲良しな人もそうです。希望を捨てないで女でいて下さい。読んで下さったみなさん、ありがとうございました。