やっぱ、家出ですねー。どう考えてもそれがいちばん大きい。十六になったばかりの時。あれっ、でもこれってもしかしたら、仕事を始めてからの「転機」をみんな書いてんじゃない? ちょっと早すぎですか? 時期が。まあいいか、家出して数日の野宿の後には女中の職についたことでもあるし。いやほんとにそうなんですよ。あれがなかったら絶対に今の私は無い、と断言しちゃう。
それまでは、だんだん重くなってくる子泣きじじいを背負ったような憂鬱な気分で、ずうっと暮らしてた。ほかの誰かと自分を比べて「不幸だわ」と思ったりはしなかったけど、私の今の動力のゼンマイは、あの時までに巻き過ぎるくらいに巻かれていたと思う。でも、だからと言ってそのぜんまいをキリキリ巻いた、その頃の環境のようなもの(家庭、学校を含む)に私は決して感謝なんかしない。もう「家出」なんて死語かな。でも私はそれをした自分が今でもとても好きだ。