ある日、そば屋で奇妙なものを見た。注文を取る女の店員さんの後ろに、店のおかみさんが、ちょうど二人羽織のようにぴったり寄り添っているのだ。しかも女の子の方は、きょとんとした顔で、助けてもらっているつもりは全くないらしい。
「ええと、とろろせいろ」。私が注文すると、「うどんにしますか、そばにしますか」と、女の子はきょとんとした顔のまま、問い返してくる。とろろのうどんなんてあったっけ……と思っていると、「うどんはない、うどんはない」と、後ろのおかみさんが諭《さと》すように手を振り、ささやいた。
「はい、分かりました」。女の子は、私への返事とおかみさんへの返事を一度で済ませ、厨房《ちゆうぼう》へ。伝票を持ったまま、おかみさんが厨房へ声をかけてくれるのを、あてにして待っている様子だ。
「いいのよ、自分で言っても」。おかみさんに言われ、やっと「あっ、あのー、とろろせいろ」。「もう少し大きな声でね」
他人事ながら、むずむずして来た。入ったばかりなのかもしれないが、ここまで過保護にしなくても。さすがにこらえ切れなくなったのか、厨房の奥から怖そうなご主人がヌッと顔を出した。やったね、こうでなくちゃ。ところがご主人は、無理やり目だけでニコッと笑うと「遠慮しないで、もっと大きな声で言っていいんだよお」
ハラホロヒレハレと、腰がくだける私。かわいい女の子がいるのもいいけど、これじゃ逆効果じゃないの? 話しているのを聞いてても、指導してもらっている気の全くない口調はなんだか気に触るのだ。
数日後、ふと思い出して外からのぞいて見ると、あの女の子の姿はなかった。アルバイト募集の貼り紙には、上から新しい時給額が書かれている。解決策は、お金しかないのか。難しくて、悲しい問題だ。
ハラホロヒレハレと、腰がくだける私。かわいい女の子がいるのもいいけど、これじゃ逆効果じゃないの? 話しているのを聞いてても、指導してもらっている気の全くない口調はなんだか気に触るのだ。
数日後、ふと思い出して外からのぞいて見ると、あの女の子の姿はなかった。アルバイト募集の貼り紙には、上から新しい時給額が書かれている。解決策は、お金しかないのか。難しくて、悲しい問題だ。