私は四コマ漫画でデビューしたため、デビューしたてのころは短い漫画の依頼が多かった。それはそれで面白く今ではまた描いてるけど、ある時周りからのアドバイスもあって、長い話を続けて描いてみたくなってきたの。そこで、毎週短い漫画を描かせてもらっていた雑誌の人に相談してみたら「じゃあ今毎週七ページくらいだから、月一回にして、二十ページくらいもらえるように話してみましょう」と言ってくれて、そして編集長も理解ある人でほんとにそうしてくれた。わーい。
しかし世の中そんな人ばっかりではない。「長いもん描きたくなったって、あんたねえ、一回受けたものなんだからしばらくやってもらわなきゃ困るよ」と別の雑誌のある人はいきなり性格が変わってしまった。すぐやめたいとは言わなかったし、初めに「最低このくらいは続けて」というような話もなかったので、若かった私は「こんな言い方されるいわれはないわ」と少しむっとした。「ふつう何回くらい続けるもんなんですか」と言うと「十回くらいはやってもらわないと困るねえ」。その時三回までは描いていた。電話を切った私は、十ひく三の七回分を一晩で描きあげ、もう会いたくないからと人を通じて彼に渡してもらい、さっさとその連載を終わらせてしまったのだった。
それから随分たって私がジャズのライブをしてるグッドマンという店のマスターにその話をしたら、笑いながら「マイルス・デイビスみたいだね」と言う。何で? と聞くと「マイルスがレコード会社を変えたいという話をしたら、あと数枚LPを出す約束だと引き留められたんで、その分の録音を二晩でやっちゃったって話があるじゃない。有名だよ、知らないの?」ひえー存じませんでした。
まあそんなすごいもんではないけど、そんなこともありました。でもその人とはこないだあるパーティーで会って和解したわ。大人ね。