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旅路35

时间: 2019-12-29    进入日语论坛
核心提示:    35警察に留置された千枝をもらいさげに、有里は夜明けに札幌へ出た。満一年と少々になる奈津子は、出勤するまで雄一郎が
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    35

警察に留置された千枝をもらいさげに、有里は夜明けに札幌へ出た。
満一年と少々になる奈津子は、出勤するまで雄一郎が面倒を見て、出勤の時、いつもお守りをたのむ隣りの小母さんに預けることにした。
札幌は夜明けの薄あかりの中に、ぼおっとかすんでいた。
爽《さわ》やかな朝の風が、すっかり青葉になったポプラの梢《こずえ》を吹いている。
その朝の中を、三千代もまた、千枝を案じながら、札幌の警察へいそいでいた。
千枝と良平は、警察の宿直部屋へ入れられていた。
千枝は時々、思い出したように泣きじゃくった。
「まあ、そう泣くな……家から引取りさ来たら、すぐ帰えしてやっから……」
巡査もほとほと手をやいたという顔つきだった。
「なあ、千枝さん、室伏さんには俺からようく謝《あやま》っから……なあ、もう泣くなって……」
「謝ったって、兄ちゃん許してなんかくれないよ……あんたがあんなお酒飲む所なんかへ連れてくから悪いんだよ……」
「すまん、勘弁してけれ……」
良平は千枝の前に両手をついた。
「な、この通り、この通りだで……俺だって、こったらこんになるとは、夢にも思っとらんかったでのう……」
「意地悪、良平の馬鹿、あんたなんか嫌いだよ……」
「そったらこと言わんでよ……な、千枝さん……」
「嫌い……」
千枝は横を向いた。
「だって、昨夜《ゆんべ》は好きだと言うてたでないの……」
「嫌い……」
「千枝さん……」
「こら、ええ加減にせんか」
巡査が見かねて注意した。
ちょうどそこへ、巡査に導かれて三千代がやって来た。
千枝を見つけて駈け寄った。
「千枝さん……」
「三千代さん……」
千枝は三千代の膝《ひざ》に顔をうずめて、おいおい泣きだした。
「もう大丈夫よ……落着いて、ね、千枝さん……」
「室伏千枝に間違いないかね」
巡査が三千代に訊いた。
「はい、間違いございません」
「そうかね……なにしろ、夜ふけに河原でこの男と二人で寝とったで、一応取調べのため連行したんじゃが、あんた、こっちの男も知っとるかね」
「さあ……」
三千代は首をかしげた。
「あれ、南部駅長さんとこのお嬢さんでねえすけ……俺、岡本新平の伜《せがれ》の良平だでよ」
「ああ、新平爺《じい》さんの……」
三千代はようやく良平を思い出した。
「どうしたんですか、いったい……?」
「面目ねえッす……面目ねえッす……つい酒に酔っちまって、河原で川風さ当っていたらいい気持で眠っちまったんす……」
良平はうなだれた。
そこへ又、別の巡査に連れられて、有里がやって来た。
「室伏千枝の姉さんだちゅうこってす……」
巡査が報告した。
「あっ、千枝さん……」
千枝は思わず走り寄った。
「心配したわよ……」
「ごめんなさい……」
千枝は再び泣きだした。
「どうも、妹がお世話をおかけ致しまして……室伏千枝の義姉《あね》でございます」
「いや……、遠方を御苦労さん……」
巡査が敬礼した。
「あの……千枝さんが悪いでねえす……」
良平が突然有里の前へ来て両手をついた。
「俺が、つい酔っちまってよ、時間がさっぱりこと判らなくなっちまって……終列車に乗り遅れちまったべさ。まことに、申しわけねえっす」
「いいえ、こちらこそ、妹がすっかりご迷惑をおかけしてしまいまして……」
「いやあ……すんません……」
「お姉さん、南部駅長さんとこの三千代さんがわざわざ来てくだすったよ」
「まあ……」
「お久しゅうございます」
三千代が叮嚀《ていねい》に頭を下げた。
「私こそごぶさたしておりまして……」
有里も低く腰をかがめた。
「あんまり心細かったから、南部駅長さんのこと思い出して警察に言ったんだよ、それで……」
千枝が、三千代の来たわけを説明した。
「まあ……、本当にとんだ御迷惑をおかけ致しまして申しわけございません……ありがとうございました……」
「いいえ、どういたしまして……」
有里が親しみのこもった微笑を見せたのにたいし、三千代は固い表情で眼をそらせた。
「それでは、私、これで失礼いたします」
三千代は有里を見なかった。
有里と眼が合ったとき、三千代は自分の胸の中が見すかされそうな気がして怖《こわ》かった。
有里に悪意を抱いているのでは、決してない。むしろ、一目で好感を寄せたくらいだ。
しかし、どういうわけか、三千代は有里を見るときの自分が平静でないのに気がついていた。
理由は自分にもよく判らない。
ただ、有里のそばに居ると、なんとなく自分が惨《みじめ》になって仕方がないのだった。
三千代は逃げるように、部屋を出た。
「あ、もし、ちょっと……」
有里の声は聞えたが、三千代は振りかえらなかった。
千枝と良平は、厳重説諭の後、釈放された。
それから四、五日たった頃、雄一郎の家へ、ひょっこり新平爺さんが尋ねて来た。
「岡本良平の親父でごぜえます……このたびは……」
非番で家に居た雄一郎と有里の前に、新平は両手をつき、額を畳にすりつけんばかりにして頭を下げた。
「伜がすまんこってす、ほんとうに、すまんこってす……」
夫婦は顔を見合せた。
「岡本さん、手をあげてください……。先輩のあなたにそんなことをされては、話も出来ません……」
「ほんとに、どうぞお手をおあげ下さい……」
有里も口を添えた。
「へえ……」
頷《うなず》くばかりで、新平は顔をあげようとはしなかった。
「札幌の警察へ行って、話は全部聞いたで……。あんたがた夫婦になんちゅうてお詫《わ》びしてよいか……わしゃ、もう、申しわけのうて、申しわけのうて……。さぞ腹もお立ちじゃろうが、どうか堪忍《かんにん》して下されや……」
「いや、罪は良平君ばかりではありません、千枝も悪いのです……。それは当人もよく分っとりますから……」
「いやいや、千枝さんは何んちゅうても女子《おなご》じゃで……。良平は男じゃ、男が悪いにきまっとります」
「まあ、しかし、大事が小事で済んだんですから……当人たちもこれを機会に大いに反省して、これからあまり無茶な真似はせんようになるでしょう……」
雄一郎はわざと、隣りの部屋で耳をすましているだろう千枝に聞えるように言った。
「ところで、良平君はどうしていますか……?」
「はあ、庭の木に繋《つな》いどります」
「えっ?」
「警察さ行ってみて、黒白がはっきり分りましたで、懲《こ》らしめのため、木に繋いでめえりました……」
「まあ、木に……」
有里が絶句した。
「はあ、あの腐った根性が直るまで、当分木に繋いでおこうと思っとります……」
隣りの部屋で、ガタンとかなりあわてて障子を閉めた音がした。
(ははア……千枝の奴だな……)
すぐ気がついたが、雄一郎は素知らぬ顔で新平に合槌《あいづち》をうっていた。
(千枝の奴、きっと吃驚《びつくり》して良平のところへとんで行ったに違いない……)
雄一郎は思わず浮いてくる笑いを噛《か》み殺すのに苦心した。
「こったらこと、しでかした揚句に、こったらこと言うのは、ゴクゴクしい奴じゃと腹さ立てなさるべえと思うだども、良平は、真実千枝さんが好きじゃと言うとります……。親は馬鹿じゃで、そったらこと聞けば、なんとか慕《おも》いを叶えさせてやりてえで……なあ、室伏さん、もしあいつが何年先か、一人前の釜《かま》たきになりよったら、千枝さんをあいつの嫁さんに貰えねえだべか、な、室伏さん……」
「一人前の釜たきって……彼は機関助手の試験に合格して、訓練中ではなかったですか……」
「はあ……、訓練中に警察|沙汰《ざた》おこしよりましたで……合格取り消しになりよるだべさ……。当然だべ、鉄道員にあるまじきことだでのう……」
「合格取り消し……」
雄一郎と有里は顔を見合せた。
「千枝は……?」
雄一郎は有里にそっと尋ねた。
「なんですか、さっき外へ出て行ったようでしたけど……」
有里はちらと新平の方を見た。
有里も千枝が良平のところへとんで行ったと思っているらしかった。
「合格したこと、あんなに喜んでいたのになあ……」
雄一郎は、まるで自分の合格を取り消されたような気持がした。
(千枝がどんなにがっかりするだろう……)
「良平君、さぞ気を落しているでしょう……」
雄一郎は新平に聴いた。
「さあなあ……それほどでもないようだで……」
新平は苦笑した。
「あいつの考えてることは、さっぱりわけがわからんですわ……」
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