「仮面うつ病」(Masked Depression)とは、本質はうつであるにもかかわらず、身体症状が強く前面に押し出されて、一見さながら身体の病気であるように見える状態をいうのである。身体的訴えの多い神経症とも思われかねない。往々にして身体病として扱われ、うつの治療がおろそかになり、治療の時機を逸するおそれがある。
これは、うつにおいても、精神症状と同時に身体症状の観察をおろそかにしてはいけないという、いわば警告の意味でこういう病名がついたのだろう。
私の若いころ、教授からよく「人を見たら梅毒と思え」と言われた。梅毒によって起こる進行麻痺の華やかなころで、梅毒性の疾患が横行していたころだからである。今は梅毒を原因とする進行麻痺や脊髄梅毒はほとんどないが、精神的な病気でも、身体的検査はおろそかにできない。私は初診時には必ず血液検査をして、肝臓病やコレステロール値、糖尿病の有無などを見る。糖尿病からうつが発生することもあるからだ。
食欲減退は全般的な訴えであるが、「食事の味覚が全くない」と言う人もいる。反対に猛烈な食欲に悩むこともある。むろん真の食欲増進ではなく、一種の不安解消の手段であることもあり、また満足感消失のこともあっての過食なのである。何か口に入れると安心感を得るというのは、自己防衛という人間の本能の然らしむるところだ。
絶えず仁丹やビタミン剤をポリポリかじっていないと不安でたまらない人をかつて診たことがある。同じ理屈で、タバコの量や性行為の回数がふえることもある。過食のメカニズムと相通じるものだ。
これは、うつにおいても、精神症状と同時に身体症状の観察をおろそかにしてはいけないという、いわば警告の意味でこういう病名がついたのだろう。
私の若いころ、教授からよく「人を見たら梅毒と思え」と言われた。梅毒によって起こる進行麻痺の華やかなころで、梅毒性の疾患が横行していたころだからである。今は梅毒を原因とする進行麻痺や脊髄梅毒はほとんどないが、精神的な病気でも、身体的検査はおろそかにできない。私は初診時には必ず血液検査をして、肝臓病やコレステロール値、糖尿病の有無などを見る。糖尿病からうつが発生することもあるからだ。
食欲減退は全般的な訴えであるが、「食事の味覚が全くない」と言う人もいる。反対に猛烈な食欲に悩むこともある。むろん真の食欲増進ではなく、一種の不安解消の手段であることもあり、また満足感消失のこともあっての過食なのである。何か口に入れると安心感を得るというのは、自己防衛という人間の本能の然らしむるところだ。
絶えず仁丹やビタミン剤をポリポリかじっていないと不安でたまらない人をかつて診たことがある。同じ理屈で、タバコの量や性行為の回数がふえることもある。過食のメカニズムと相通じるものだ。