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「まさか」の人に起こる異常心理91

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:感謝されざる医者でいい 少し古いケースになるが、父、茂吉の、学生時代からの親友のお嬢さんが発病した。うちへもちょくちょく
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感謝されざる医者でいい

 少し古いケースになるが、父、茂吉の、学生時代からの親友のお嬢さんが発病した。うちへもちょくちょく遊びに来ていたので、私も彼女を幼いころからよく知っていて、母親、友人の依頼で、四谷にある私のクリニックに入院させた。分裂病の症状が歴然としていたが、案外早く治って退院した。しかし、半年ばかりして再発、今度は猛烈な興奮を伴っていたので、四谷のクリニックでは本人の保護上危険なため、府中の病院に入院してもらった。
もちろん病識が欠如し、興奮の続いている間はクローズ病棟で扱い、落ち着いてからは自由な開放病棟で生活させた。院長の知人というので、医員も職員もずいぶん気をつかい、大事にしていたようだ。四カ月後に一応症状が消滅して、彼女はめでたく退院した。
間もなく母親も老衰で亡くなったので、母一人子一人であった彼女は一人ぼっちになった。彼女は退院後、一度も私の前にあらわれないので、私も多忙にまぎれて彼女のことをいつしか忘れてしまった。
二年ばかりたったころ、友人から、「これ、君のことじゃないか」と一冊の本を見せられた。書名はここでは書かないが、「地獄のような家」といった意味の小説だった。なるほど私を知っている人が読めば、主人公の精神科病院院長は明らかに私であり、内容からして著者も確かに彼女だった。
財産横領の陰謀に加担して、ある若い女性を精神科病院に不法監禁する。そこへ婚約者の青年が精神病者を装って病院に潜入して、彼女との連絡に成功する。そして彼女の救いを求める手紙を、彼女の父の友人である院長の大先輩に渡す。その大先輩が病院にあらわれて、院長に彼女を釈放するよう厳命する。院長はハハーッとひれ伏して、彼女は無事救出されるという筋だった。
今どき噴飯ものの筋書きだが、いたるところに院長はじめ病院、職員に対する憎悪に満ちた文章が出てきて、それを読んだ彼女の担当の医師も看護婦もくやしいと涙を流す始末だった。単に分裂病の被害妄想の所産というより、父親に早く死なれたあとの家庭的不幸など、さまざまなインフェリオリティ・コンプレックスの裏返しの攻撃傾向とジェラシーからの産物であると、精神力動的(サイコ・ダイナミック)に説明できはしまいか。
この「小説」は世界精神衛生年にあたって出版されたと記しているが、父流の言葉を借りれば「人心を悪くすることはなはだ大」である。祖父が父にあとを譲るとき、「精神科医は感謝されざる医者だが、それでいいか」と言ったそうである。そして父が私に譲るとき、父も祖父と同じことを言った。やはり今も「感謝されざる医者」なのだろうか。私がせがれに院長職を譲るときは、そんなことは言わなかった。時代が変わって、その言葉は必要でなくなったからだ。
だが、私はこれからも、「感謝されざる医者」に徹しようと思う。感謝されなくともよい。なんらかの意味で、世間のお役に立てれば、それで満足きわまりないという心境だからである。
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