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無花果少年と瓜売小僧07

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  7 磯村くんの通う大学は、八王子の山の中にあります。京王線の新宿駅から�各駅停車�に乗るというバカなことをすれば二十
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 磯村くんの通う大学は、八王子の山の中にあります。京王線の新宿駅から�各駅停車�に乗るというバカなことをすれば二十七コ目の(!)「多摩動物公園駅」という、どう考えても人が住むとは思えないようなところで降りて山道を歩くと(!)大学があるのです。毎日がピクニックだから、ほとんど遠足気分で大学へ行くのです。遠足が楽しいのも、年に一遍か二遍だけならということぐらい、賢明な皆さんには既にお分りだと思いますが、その点に関しては既に、我等が主人公には文句を言う気力というものはないのでした(初めから)。
納得ずくとは、こういうことを言います。
 嘘かと思うぐらい、毎日の通学路はピクニックでした。新緑の山道や紅葉の山路を行くと鳥がチュンチュンと鳴いて、その間に「学生ローン」とか「中古レコード」の看板が立っているのです。空き缶の投げ捨てでもすればコーンと、こだまでも返ったでしょう。
そこを学生達がゾロゾロと歩いて行けば(御丁寧にもゾロゾロと歩いて行きます)、本当に、人生は重き荷を背負って長き坂を行くが如しなどという人生訓の世界になって来ます。人生訓を教えないかわりに人生訓を体で覚えさせるのが現代の大学なのですなどと言ったらイヤミですが、イヤミを承知で言うぐらい、現代の当事者達はそういうことをなんとも思わないのでした。
納得ずくとはそういうことを言いますが、現代用語では�ヨクアツ�とも言うのですが、そういうムツカシイことは、まァいいでしょう。
山を二つ越すとSFがあって、そこが磯村くんの大学でした。一応名前は�中央大学�といいますが、これは勿論仮名です。
磯村くんが入試で初めてここへ来た時は別にそうとも思わなかったのですが、合格して二週間も通い出したら、「ほとんどここはSFだ」と思いました。「ウルトラマンに出て来る科特隊の基地に通って自分は何をするんだろう?」とも思いましたが、相手が本気で『ウルトラマン』をやっている以上、冗談にもなりませんでした。勿論、ウルトラマン以外の科特隊のメンバーは、何もしないでただ、ウルトラマンが怪獣をやっつけてくれるのを待っているだけです。あまりにも暗い冗談は冗談にもなりませんでした。
第三者は平気でいやみを言いますが、当事者はそうも行きません。エジプトのピラミッドを見て育ってしまったエジプトの奴隷が、ついぞ叛乱というものを起こす気になれなかったということぐらい、歴史が証明しています。「金がかかってるなァ……」と思うと、物事はどうしようもなくなるのです。
ほとんど嘘のような話ですが、今や東京の�大学�というものは、みんなそういうものに変りつつあるのですね。
磯村くんは雨の中をこの山の中の大学へ、一日行って一日休んで、そしてまた三日目に出かけて行きました。一日目は行かなくちゃならなかったし、二日目は——ちょうどその前の週にはお母さんとまぜ御飯を食べていたように——アキだったのでいい幸いと不貞寝《ふてね》をして、三日目は、上りかかった雨の中を「やだなァ」と思いながら出かけて行きました。一遍休むと人間は、怠け癖というものがつくのです。
雨の中を中央線に乗って新宿駅まで出て行って、水びたしのタイルの上を歩きながら、そしてしみじみと自分の「やだなァ……」気分を確認する為にそのビショ濡れのタイルを眺めていて、「そうだ、なにも僕、毎日一時間半もかけて大学に行くことなんてないんだよなァ」と思いました。「よく考えたら、スゴーク無駄な時間使ってて、毎日、�メンドクサイなァ……�っていう気分を拡大してかったるく生きてんだな」ということに、磯村くんは気がつきました。
雨の日は、どこもかしこもビショ濡れです。誰が拭くのか、駅の中には水たまりなんていうものは出来ていませんが、それでも掃除の済んだ後のタイルの上を歩くと、「人間の足の裏っていうのはこんなに汚れてるんだ」って思うくらい、タイルの上はグショグショで泥まみれになります。十一月も終りに近い冬初めの雨は冷たくって、普段の日の隠れた元気のなさを、みんな拡大してしまいます。ここんところはただの情景描写ではなくして、磯村くんの心的モノローグを代弁する情景描写です。
人間は、言葉で考えるよりも重要なことを、時としてイメージの中から拾い出して来るのですね。
「みんな、結局、しょぼくれてるんだ」、新宿の地下広場を通って京王線の地下ホームに降り立った磯村くんは、まるで未来都市の下水道みたいなホームの中でそう思いました。
天井が高くて階段があって、階段の下の高い天井からは汚水が壁に垂れて、その下にあるベンチの前には読み捨ての新聞紙がウズ高く盛り上っていて、浮浪者じゃないけど、浮浪者にしか見えないおじいさんがそこでアンパンを齧《かじ》っていて……。そこから、山の上の未来都市みたいな大学へ行く電車が出ているのです。
山の上にはまだ�未来�があって、山のこちらではとうに終ってしまった未来がまだ�現在�のまんま残っていて……。
電車というのは、時間の断層を貫いて走っているのかもしれないという、そんな気のする駅でした。
 永遠に陽が当らないから、永遠に乾きそうもない——そんな気のする地下ホームの水溜りを踏みしめて、「みんなしょぼくれてんだ」と磯村くんは思いました。
「普段は分んないけど、でも、雨が降って寒くって、街中が汚れちゃったら、そういうことはみんなバレちゃうんだ」
天気のせいで湿った心は、磯村くんにそう話しかけました。
二十分間隔で山の方——ウルトラマンの出て来る山です——へ出発する特急電車はもうホームに止っていましたが、発車までにはまだ八分ぐらいありました。
電車の床は湿っていて、まるでオランウータンが集団暴行を働いた跡のような靴跡が一杯残っていました。スチームの通ったシートに坐ると、まるでアイロンの上で湿気をとられているような気分です。
電車の中にはポツポツと、磯村くんとおんなじようなダッフルコートの学生《とつちやんぼうや》達が坐っていました。雨が降ると男の子の髭は伸びるのが早くなるのかもしれません。
「まるで強制収容所に行くみたいだ」——磯村くんは思いました。
「ちっとも強制されないけど、強制されないで行く収容所の方がズーッと惨めだ」って、そう思いました。
磯村くんは、この未来都市に行く下水道発の特急電車があんまり好きではありませんでした。クリーム色の車体にコアラの絵が描いてあるのは一応別にして——。
「なんでコアラが描いてあるんだ!」と思うと陽性の暴力のような怒りが湧いて来て、少なくとも明るくはなれるのですが、自分の未来の同窓生達しか乗っていない——ほとんど中大(仮名)専用車としか思えない(実際はそうでもないのですが)電車の中にいると、どうして自分の同窓生達がこの暗さに耐えていられるんだろうと思って、どうしようもなく、気分が下降して来るのです。
「暗いって分ってるんならいいよ、でも、暗いってこと自覚してないから暗いんだ!」
 実際、その車内の暗さはそんなものではありました。まるで、「この苦行には明らかに意味があるんだ」と思いこんでいる二流の修行僧の行列のようではありました。
「大学《山の上》に行ったら�大学なんてなんの意味もないんだ�って顔平気でしてるくせに、大学《山の上》に行くまでは�絶対に大学にはなんかの意味があるんでしょ?�って顔してるんだ。そんなの耐えらんない。大学に入ってから、毎日そんなこと繰り返してるなんて!」——磯村くんはそう思っていました。
だから磯村くんは、京王線には乗らなかったのです。
 磯村くんの家は、中央線の「高円寺」の駅のそばにあります。だから、八王子の山の中にある大学に行くのは、中央線で新宿まで出て、そこから京王線に乗り換えて行くのが一番早いのです。特急で五つ乗れば「高幡不動」の駅に着いて、「多摩動物公園駅」はそこから支線に乗り換えた一つ目です。ところが磯村くんは、そうはしませんでした。高円寺から中央線に乗って、新宿とは逆方向の、「立川」へ行くのです。中央線の特別快速に乗れば「中野」から二つ目ですが、それ以外なら高円寺から十二コ目です。特別快速は高円寺には止まりません。高円寺から上りの中央線に乗って中野まで行き、そこから改めて下りの特別快速に乗り直すという面倒なことをしなければなりません。
それに乗って立川まで行き、立川で今度は国鉄の南武線に乗り換えて四つ行って、京王線とクロスする「分倍《ぶばい》河原《がわら》」で京王線に乗り換えて、ここは特急が止まりませんから、急行で二つ目が高幡不動、そこで更に乗り換えて多摩動物公園まで行くという、メンドクサイことをやります。接続がうまく行けば狂気の沙汰というほどのことでもありませんが、しかしそれでも、帰り道はほとんど、狂気の沙汰です。中央線の特別快速は、午後の三時を過ぎると下りはもうなくなってしまうからです。クラスメートに「じゃァね」と言って京王線を降りて、のんびりと南武線が来るのを待っていて、それに乗った磯村くんが立川駅に着く頃、下手をすれば、京王線の急行に乗ったままのクラスメートは、「明大前」の駅で乗りこんで来た明治大学の学生達と一緒になって、新宿まで後一つというところにいるのです。ほとんど、双六《すごろく》でサイコロを振り損ねたみたいな磯村くんは、同じ頃、「さァ一眠りでもするか」と、中央線の、各駅にしか止まらない、しかも�快速�などという意味のないネーミングの電車の中でポカンとしているのです。
バカとしか言いようのないことを、どうして磯村くんは平然とやっていたのでしょうか?
 一つには磯村くんが間違えたということもあります。
磯村くんは中央線の沿線の住民でしたが、人間というものは困ったことに、自分の生活習慣の中から脱け出せないということがあります。
大学入試の時磯村くんは、入試要項に載っている試験場までの地図を見て、「これだけじゃない、もっと別の行き方があるんだ」とそう思ったのです。
磯村くんは、高校迄は通学距離が、家を出てから学校迄の間が三十分以内のところにいました。そうしたところが今度は、忽然《こつぜん》として�とてつもなく遠い�としか言いようがないところになってしまいました。一時間とか一時間半とかいうのではなく、ただ�とてつもなく遠い�としかいいようがない距離でした。
磯村くんの中には、三十分以上電車に乗っていればそれだけで�十分に遠い�という時間感覚しか備わっていませんでした。�約一時間�といわれても、それが実感としてどれぐらいの長さなのか分らなかったのです。
大学が出している入試要項には、京王線の新宿から高幡不動に行って多摩動物公園駅で降りるコースと、もう一つ、中央線の八王子まで行って、そこから京王線の「京王八王子」まで歩く——�徒歩5分�とその地図に書いてあったのが「クサイ」と思いました——京王八王子から京王線に乗り換えて、京王線の上り電車に乗って高幡不動まで戻るコースの二つしかありませんでした。
受験生というのは、試験場迄の最短距離をとらなければならないと思いこむものです。磯村くんには、中央線の住民が態々《わざわざ》八王子まで行って�戻る�というのが、なんかクサイと思えたのです。中央線の八王子と京王線の八王子の間には徒歩にして�5分�の距離がある。態々それを�徒歩5分�と印刷してあるところに、なんか、大学当局の�公式見解性�を発見してしまったのです。
「中央線沿線の住民は態々八王子まで行って戻らなければならない。それに比べて、それ以外の電車の住民はそんなことをする必要がない。これは、中央線沿線の住民に対する差別ではないだろうか? 自分のところが京王線のはずれにあるイナカだからって、京王線の正統性をあまりにも主張しすぎてる」と、磯村くんは入試要項のその地図を見て、思ったのです。
 早い話が、磯村くんはヒマだったのです。ヒマで従順になってしまった受験生の常として、大学にイチャモンをつけたかったのです。ただの風車じゃないかと思って、このドン・キホーテは、自分の目の前に立ちふさがる大学当局という巨大なドラゴンの裏をかいてやろうと思ったのです。風車をドラゴンだと思ったのではなく、ドラゴンを風車だと思ったのです。
高円寺の駅に行って路線図を見て、「ホラ見ろ、八王子まで行かなくたって中間の�近道�があるじゃないか」と、磯村くんは思ったのです。それが、立川と分倍河原をつなぐ南武線の存在でした。
時計を持って電車に乗り、「こんなもんか」と所要時間を計って、磯村くんは、入試にも、発表にも、そのコースで行きました。よく見たら、そのコースは�大学当局�が発行している入試要項にだってチャンと載っているコースではありましたけれども——。
 磯村くんは当然のように、入学式から始まる大学の新学期にもそのコースで行きました。自分は悠然と、まるで現代という時間帯から島流しにあっているような、そんな気分が得意でもありました。「ヘンだなァ」と思う前に、ガラ空きの南武線に乗り換えず、相変らず混んだ京王線に平気で乗っていられる学生達を「バカだなァ、平気で群れてる」と思っていた磯村くんではありました。
そういう自分の方がバカな定期通学者だと磯村くんが知るのは、やっぱり、自分の通ってる大学が�永遠にウルトラマンの出て来ない科特隊�だと知る、四月の終り頃なのです。
バカな磯村くんは、それでも意地を張って通いました。雨続きの六月になって、「この方が乗り換えが少ないから、濡れないですむなァ(おまけに早いし……)」と、渋々雨の日だけ新宿から乗り込んで行くという智恵を発揮した磯村くんでした。「だってその方が、いちいち帰りのたんびに新宿に出て�なんか面白ェことねェかなァ�って言うバカな大学生にならなくてすむから」という理屈もありましたが、でも、�バカな大学生�にならなければ�暗い大学生�になります。敢えて孤立して、それで�暗い大学生�にならない為には、付き合いだってある程度以上によくなければなりません。
「磯村、お前、今日帰りどうすんの?」と御学友に訊かれて、「ウン、新宿出てもいいよ」と言うたんびに、磯村くんの電車賃は余分にかかるのでした。
当然、磯村くんの遊興費の中に占める交通費の割合は、かなりのものになりました。なりましたけどでも、磯村くんはそれで�変り者�というステイタスを買ったのです。
クラスメートやクラブでの友達と一緒に新宿に降り立った時、そのたんびに磯村くんは改札口で料金の精算をしていました。そんな磯村くんを見て、�同僚�の男の子達は「変ってんなァ、お前」と冷やかしの�賞賛�を投げましたが、それを聞いて「ウン、僕変ってるんだ」とニコニコ笑っている磯村くんではありました。
勿論、そんなバカげた迂回路をとるなんてことを聞いた木川田くんは「バカだ、お前」と言いましたけど——木川田くんだってやっぱり、磯村くんとおんなじ年に山の上の大学を受けに来ていたのです、素直に京王線に乗って——でも磯村くんは、そうでもしないと落着かなかったのです。「このまんま自分が、ありきたりの中に埋もれてしまうのなんかいやだ!」と、ズーッと磯村くんは思っていたのです。
でも、そういう時期はどうやら終ってしまったみたいです。木川田くんとなんだかんだあって、冷たい雨に降られて駅まで行くのが億劫《おつくう》だった磯村くんは、やっぱり自分のことを「ホントにバカだ」と思うしかなくなっていたのです。
木川田くんに「バカだ、お前」と言われて、「いいの!」と言い返して、切れてしまった定期を再び、「高円寺—立川—分倍河原—多摩動物公園」と買い直した磯村くんは、そういう自分の通学定期を見て、そうして来た自分の�変り者�が、やっぱりウソ臭いんじゃないか、かなりワザとらしいんじゃないかと、思いかけていました。「自分て、ニセモノかもしれないな」って。「知っててニセモノをやってたって、やっぱり根拠のないニセモノはニセモノだしな」って。
そしてやっぱり、そのことを�今日�ははっきりと思ったのです。
「僕だって、やっぱりただの大学生なんだ」——雨に降られて乗り込んだ、京王線の新宿駅の電車の中で磯村くんは、そう思いました。
「新宿通ってイナカに行く、イナカから新宿に出て来る——そういうよくある�普通の大学生�なんだなァ、僕って……」——スチームの入った冬初めのシートの上で、磯村くんはそう思ったのです。
「トーキョーがあって、そしてそのコーガイに大学があるから、だから僕達は平気でダサイところに行けるんだ。ダサイのは、大学なんかじゃなくって、そういうところに平気で行ったり、ヘンな風に行ったりする僕や、僕達なのかもしれないし——。多分僕達は、トーキョーっていう�お母さん�に保護されてるピーター・パンなのかもしれない。だから、平気でみっともなく大学生になってられるんだし、誰も�みっともない�なんてこと思わないんだろうし……」
見回すともなく辺りを見回して、�強制�抜きの�収容所�へ送られる、モコモコした男の子達の群を見ながら、磯村くんはそう思いました。
「やっぱり収容所だ……。みんなコート着て、寒そうにしてて、ビショ濡れだし——」
ともかく、冬の雨は、ダウンやダッフルコートの上に、ゲルマン民族の土地に住む人達のとおんなじような冷たい露飾りをくっつけさせてはいたのです。
「兄貴が国立《くにたち》行ってるからって、それでもって態々�僕なんかもっと田舎行ってるもんね!�っていう自己主張なんかする必要はなかったんだよねェ……」なんてことを、�暗い磯村くん�は思いました。
暗い時は、うっかり余分なことまでかき集めて、自分のその暗い心理を確実なものにまで高めたいものなのです。
 隣りの席に坐った男の子のヘッド・ホンから流れて来る�オーソン・ウェルズの英会話�をB・G・Mにして、磯村くんはそんなことを考えていました。
 実のところ、磯村くんのお兄さんは中央線で「国立」にある一橋大学に通っていたものだから、弟の薫くんは、「それだったら僕は!」と思って、見えない敵愾心《てきがいしん》を燃やして、一つ向うの立川まで行っていた、という訳なのです。
磯村くんは遂に、自分が家を出る口実を見つけたと思いました。
「僕は、真面目に勉強する大学生になりたいんだ!」——それは、確かなことでした。
そして、「東京の大学なのに、東京から一時間もかかるなんて、やっぱりヘンだと思うんだ」——これも確かではありました。
「僕は、別に都会になんか未練はないしさ」——このことは、多分、磯村くんが思ったことの中で一番確かなことではあったでしょう。�カッコいい�とかなんとかっていうようなこと、�ナウい�とかなんとかっていうようなこと——そういうことを磯村くんは、ズーッと、うっとうしいと思っていたことだけは確かだったのですから。
「勉強したいな、静かなところで」——磯村くんはそう思いました。そう思った途端、見えてるようで見えてない、但しいつもヘンなところで目障《めざわ》りになってる、自分の中の�スケベ心�というものが、いつの間にかどっかへ行っていることに気がつきました。
「あー、すっきりした」
 それでかどうでか、磯村くんはそう思いました。�一人暮し�というロマンチックな企てが正々堂々と成立してしまった今となっては、そんなことはもうどうでもよかったのです。というより、ロマンチックを身にまとった�スケベ心�は、もう恥かしさに身をくねらせる必要がなかったのです。
「僕はもう、インディアナ・ジョーンズだ!」——�一人暮し�という、いまだかつて誰もまだしたことのない大冒険を目《ま》の当りにして、磯村くんの胸は高鳴りました。
「僕が一人で決めるんだぜ!」
磯村くんはそう思ったのです。
 磯村くんが多摩動物公園駅の隅っこにある�学生専用�のアパート貸室相談所の窓ガラスを覗きこんでいたのは、それから約三時間の後のことでした。
「大体、三万五千円だな」
磯村くんはしっかりと、胸の電卓にその数字を叩き込んだのです。
�大丈夫《チーン!》�という音が、どこかでしました。
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