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無花果少年と瓜売小僧55

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  55 木川田くんは、ズーッと帰って来ませんでした。三日目にバイト先のカフェバーに電話しても「ズッと休んでます」としか言
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  55
 木川田くんは、ズーッと帰って来ませんでした。三日目にバイト先のカフェバーに電話しても「ズッと休んでます」としか言ってくれないので、しようがないから磯村くんは、木川田くんの家にまで電話をしたのです。
その前の日は真理ちゃんとデートをしていて、「鳴るかもしれないな」と部屋の電話を気にしながら話をしているのは落着かなくていやだったからです。
真理ちゃんとは帰り道、駅まで送って行く途中でキスをしましたが、まだセックスまではしていません。
 磯村くんは木川田くんの家に電話をしました。向うでベルが鳴っている間、磯村くんは「ホントに保護者だよ、やんなっちゃう」と、自分のことを思っていました。
「はい、木川田です」
木川田くんのお母さんは相変らず暗い声でした。暗い声でしたが、でもそれは以前の井戸の中から聞こえて来るような暗さではなくて、刈り入れの終った田圃《たんぼ》に初めて霜が降りた日の夕方みたいな暗さでした。なんとなく実質だけはあるというようなことです。
磯村くんはその木川田くんのお母さんの声を聞いて、「暗いは暗いけど、前よりは少しテキパキとして来たんじゃないの」というようなことを思いました。
「あのォ……磯村といいますが、あの、源一くん……」と磯村くんが言ったら木川田くんのお母さんは、今迄磯村くんが聞いたこともないような賑《にぎ》やかな声を出して、「ああ、ああ、ああ……ああ、磯村さん、もう本当に源一がお世話になって」と、まるで田舎の駅長さんが旗を振ってるみたいな話し方をしました。
磯村くんはなんだか分らないので、「はい」とも言えず「はァ……」とだけ言いました。
木川田くんのお母さんは一生懸命お礼を言ってました。「一度は御挨拶に伺わなくちゃいけないと思っていたんですけども」って、まるで明日にも文明堂のカステラを持ってやって来そうな言い方をしました。「どう考えたってこれは木川田が帰って来てるって感じじゃないな」と磯村くんは思いましたが、「でもひょっとしてこのはしゃぎ方は木川田が帰って来てるってことなのかな?」っていうような気もしました。それで磯村くんは「ズーッと木川田くん帰って来てないんですけど」って言うのはやめて、「あの、木川田くん、もしかして」って言いました。
「は?」って、木川田くんのお母さんは言いました。
「もしかして木川田くん、そっちに行ってませんか?」
磯村くんは言いました。
「いえッ 来ておりませんがッ」
木川田くんのお母さんは打って変って、頭のてっぺんで「秋田おばこ」を踊ってるみたいな声を出しました。
磯村くんはもうあんまり深入りしたくないもんで、「あ、ちょっと急ぎの用事があったものですから、ひょっとしたらそっちに寄ってないかなと思って」と、嘘をつきました。
「いえ☆いえ☆いえ☆ 来てませんです☆☆☆」
電話の向うで鳩時計が�プルプルプルッ�と頭を振って午後九時を告げているみたいに、木川田くんのお母さんが言いました。よくもまァ、次から次へとメチャクチャな比喩《ひゆ》が出て来るものです。
磯村くんはあんまりメチャクチャな比喩が続くと、楽しむというよりは不安になるようなタイプだったので「早いとこ切っちゃお」と思いました。一体どうして磯村くんに俺の使う比喩が分るんだという話もありますが、そこのところは�親の心子知らず�です(すぐ嘘をつく)。
 磯村くんには木川田くんがどこへ行ったのかは分りませんでしたが、木川田くんのお母さんが、別に暗い悲劇の中で押し潰された漬け物になっている訳ではないということだけは分りました。「結局僕ってバカだから、シチュエーションを悲劇的にとることしか出来ないのかな?」って、磯村くんは思いました。「ヘンな心配をすると木川田にダサイって思われるだけかな」——そう思いました。「木川田には木川田で、僕の知らない付き合いってある筈だし」って、そういうことを考えるとまるで自分が見捨てられたみたいで、磯村くんは、布団を敷きっ放しで出て行かなくちゃならないという、そちらの方の異常性を考えるのはやめてしまいました。磯村くんにとって、木川田くんが一人で遊び歩いているということは�自分があんまり好かれてない�ということだったのです。
「その内帰って来るんだろう」と、磯村くんは思いました。たかだか二晩、木川田くんが留守しただけでオタオタしている自分がバカみたいだと思いました。
磯村くんは�シチュエーションを悲劇的にとることしか出来ないバカな人間�なのではなくて、�「シチュエーションが悲劇的だったら僕だって手をさしのべられるし、さしのべてもいいと思えるからシチュエーションが悲劇的になってくれたらホントはいい」と思ってるフシもある、引っ込み思案で臆病な人間�だったというだけなのです。
 木川田くんは帰って来ませんでした。一週間後に磯村くんがアルバイトから帰って来ると、机の上に「家に帰ります。メーワクかけてゴメンね。木川田」と書いた紙だけが置いてありました。�P.S.�とは書いてなくて、その後に「ビギのブルゾンと洗タクキはあげるからおいてく」って書いてありました。
部屋に貼ってあるポスターなんかはそのままなので、別に磯村くんには何かがあったとは思えなかったのですけれど、よく見たら、ブリキの灰皿はなくなっていました。食器棚の中だって別に変った様子もなくて、押し入れを開けたらガランとした中に白いビギのブルゾンだけが掛っていました。
窓の外を見れば洗濯機が置いてあるのはズーッと前からおんなじです。磯村くんは、何がなんだかよく分りませんでした。
磯村くんは「何があったんだろ?」と思って、隣りの部屋の新婚さんのドアをノックしました。隣りの奥さんは、「なんだかよく分らないけど、一緒にいた男の子(木川田くんのことです)が荷物運び出してたみたいよ」と言いました。「一人でですか?」と磯村くんが訊くと「誰か男の人が車運転してたみたいだったけどねェ」と、その奥さんは言いました。磯村くんはまるで自分がバカみたいなので、「そうですか、どうも——。あ、すいません」と言って部屋を出ました。
自分の部屋のドアを開けて、見回すと、確かに玄関に置いてある筈の木川田くんの靴がありません。あまりにもあっけないので、磯村くんは呆然としました。呆然として頭に来て「一体どうなってるんだ?」と思って、木川田くんの家に電話をしました。
木川田くんのお母さんは、今度は花電車に乗って花笠踊りを踊ってるみたいで、「ホントにおかげさまで源一も帰って来ましてありがとうございました」と言いました。
 磯村くんはお礼を言われたくて電話した訳ではないので「すいません、木川田くんをお願いします」と言いました。小母さんは「はいはいはいはい☆☆☆ ちょっとお待ち下さい」と、まるでキラキラ星がお茶菓子を置いて出て行ったみたいに、受話器の向うからいなくなりました。遠くで「源一! 源一!」と大石内蔵助が討入りをするみたいな声が聞こえました。
「すいません、源一は頭が痛いと言って、寝ておりまして」と、しばらくして戻って来た小母さんは愛想笑いをしてそう言いました。
「そうかよォ……」と、磯村くんは黙って思いました。
 磯村くんが「じゃァいいです」と言うと、小母さんは「ホントにあんな子をねェ……もう、ああいう子ですから申し訳ないんですけど、本当にお世話になってしまって」と、まるで今迄とは別人のように「ホホホホホホ……」と笑いました。
「くさい芝居やってろ!」と磯村くんは思いました。「�あんな子�ってどんな子だよ?」と、磯村くんは思いました。
「エゴイストで、勝手で、わがままなだけじゃないかよッ!」って、電話を切った後で、磯村くんは一人の部屋の中で黙って叫びました。
「バカヤロ!」と思って、ボーイ・ジョージとワムのポスターを壁から引っぺがしました。磯村くんは、ボーイ・ジョージもワムも、どっちも好きじゃなかったのです。
ポスターを止めてあった赤と緑のプラスチックの画鋲《がびよう》がアチコチに飛んで、うっかりそれを踏んづけた磯村くんは「痛ッ!」と一人で叫びました。
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