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無花果少年と瓜売小僧64

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  64 木川田くんは、お風呂には入らないって言いました。磯村くんもお風呂には入りたくないって思いました。 パジャマがない
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  64
 木川田くんは、お風呂には入らないって言いました。磯村くんもお風呂には入りたくないって思いました。
 パジャマがないから磯村くんは木川田くんにジャージを貸して、布団を敷いたのはそれから二時間も後でした。
 木川田くんは明るく元気で、自分のことを喋っていました。新しい環境で色々なことがあって。
磯村くんは「ふーん」て言って、もっぱらそれを聞いていました。自分はなんだか、ズーッと昔からこんなところにいるって、まるでそのアパートの一室で自分が生まれたような錯覚に陥りそうでした。
「狭いよ」って言って布団を敷いて、その磯村くんの言葉に「うん、馴《な》れてる」って木川田くんが言ってニッコリ笑った時、磯村くんは少しだけゾクッとしました。冷たいもので、どこか体をうっかりと撫でられたような気がしたからです。
 布団の中に入ると、ジャージにTシャツ姿の木川田くんはパジャマに着替えた磯村くんの肩に顔を寄せて来ました。
「電気消さなきゃ」
磯村くんはそう言って、木川田くんは「うん」て言いました。木川田くんの頬がピンクに輝いていたことなんて、立ち上って電気を消した磯村くんには分らないことです。
もう一度横になった磯村くんの肩に、木川田くんは頬を寄せて来ました。あお向けになった磯村くんの横に木川田くんは体をうつぶせにして、木川田くんは磯村くんの右肩にそっと手を置きました。
「磯村、好きだよ」
木川田くんが言いました。
「うん」
「俺にとって、磯村って、一番大事な人なんだ」
木川田くんの脚は、敷布団のところでキチンと合わさって、磯村くん一人だけが、布団の中で脚を広げていました。
「俺もう、変態じゃないからね」
磯村くんの首筋に唇を寄せるようにして木川田くんは言いました。
「うん」
磯村くんはそう言いましたが、もう磯村くんは「初めっからそんな風に思ってないよ」とは言いませんでした。
木川田くんは�クスクスッ�と笑って、「俺もう、男とは縁を切ったんだァ」って言いました。
「ホントォ」
磯村くんは言いました。
「うん。もう一ヵ月もしてないから、溜って溜って」
木川田くんは笑いながらそう言いました。
「ねェ磯村ァ、ホントに女と付き合ってないのォ?」
そうも言いました。
「付き合ってないよォ」
磯村くんは答えました。
「そうォ?」
木川田くんがそう言うので、「そうだよォ」と磯村くんは言いました。
「じゃァあいつどうしたのよォ?」
木川田くんが訊きました。
「だァれ?」
磯村くんが答えました。
「ホラあいつ、名前知らないけど、バイト先の女」
木川田くんが言いました。
「バイト先の女ってだァれ?」
磯村くんは、�MIZUNO SPORTSの真理ちゃん�のことが思い出せなくって、平気でそう答えました。
「付き合ってなかったの?」
木川田くんがそう言った時、「ああ、あの娘」と、磯村くんは口に出したのです。
「付き合ってなかったの?」
木川田くんは又おんなじことを言いました。
「付き合ってたけど、別にィ……」
そう言って磯村くんは、「どうしてあの子のこと忘れてたんだろう?」って、そう�真理ちゃん�のことを思いました。
「どうしてだろう?」
木川田くんは磯村くんの腕の中で喋っていて、そのまんま眠ってしまいました。
磯村くんは、自分の腕の中にいるものがなんなのかよく分らなくなっていました。男ではないし、女ではないし、子供ではないし、大人ではないし、友達ではないし、恋人ではないし——一体なんなんだろうって、思っていました。
木川田くんの体の温かいことが磯村くんには不思議でした。温かいのに、温かいとは思えないのです。
「放り出したらどんなに楽になるだろう」と思うのに、その木川田くんの体は、接着剤でつけたように、磯村くんの体から離れないのです。磯村くんは、木川田くんの体を抱いている自分の腕が痺《しび》れて来て、それで木川田くんの体を温かく感じとれないのだと思っていました。
木川田くんの髪の毛が匂います。それは、どこかで嗅いだことのある匂いでした。「いやだ」と思うような匂いではありませんでした。でも、自分の顔の横にあるその木川田くんの横顔は、磯村くんには自分が見たどの顔よりも自分から遠くにある顔のようにしか思えませんでした。
 朝の六時に目を覚して、木川田くんの体がいつの間にか横向きになっていて、自分に背を向けているのを磯村くんは見て、「なんで一緒に寝ているんだろう」と思いました。
磯村くんの目には、いつか見た、あの浅川と多摩川の合流点の、広い広い空が見えるようでした。広い空の下に橋があったのかどうか、磯村くんにはよく分りませんでした。
セックスをする時に、人間は�他人�の存在なんか忘れてしまうものなのです。
セックスをしたら、人間は、その他人のことを、うっかり愛してしまったりするものなのです。
忘れない為に、人間はその他人とのセックスに、�遊び�というクサビを打ち込んでしまうのです。
そんなこと、磯村くんは知りもしませんでした。
自分はまだしたことがない。だから、自分はそれをしなくちゃいけない。そう思っただけの磯村くんは、自分というものをどこかに置き忘れて来ていました。
誰よりも遠いところにいると磯村くんの思っていた木川田くんは、でも、その時磯村くんのそばで、磯村くんが置き忘れて来てしまった磯村くん自身の本当の姿を、こっそりと抱きかかえて眠っていたのです。
 面影の中にしかいない磯村くんは、その時木川田くんの胸の中で、「いつまでもいつまでも友達でいようね」って、そう囁《ささや》いていました。
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