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一体磯村くんは何を考えていたんでしょう?
ホントになんにも考えていなかったんだっていうことを、磯村くんは、歩き出してから気がつきました。「恵比寿」へ出て地下鉄を降りて、山手線に乗り換えて「渋谷」で降りて、井の頭線に乗り換えて「明大前」で降りて、京王線に乗り込んで初めて「恥ずかしい! 恥ずかしい!」という思いを振り切れた磯村くんは、「僕ってなんにも考えてなかったんだ!!」って、改めて自分の愚かしさを呪いました。
本当に、なんにも考えてなんかいなかったんだって——。
ホントになんにも考えていなかったんだっていうことを、磯村くんは、歩き出してから気がつきました。「恵比寿」へ出て地下鉄を降りて、山手線に乗り換えて「渋谷」で降りて、井の頭線に乗り換えて「明大前」で降りて、京王線に乗り込んで初めて「恥ずかしい! 恥ずかしい!」という思いを振り切れた磯村くんは、「僕ってなんにも考えてなかったんだ!!」って、改めて自分の愚かしさを呪いました。
本当に、なんにも考えてなんかいなかったんだって——。
木川田くんがこわかったんだって、磯村くんは思いました。木川田くんが初めっからこわかったんだって、磯村くんは思いました。
夕方の京王線はおんなじ顔をした男の子達で一杯のように思えました。
自分の大学と自分の大学じゃない大学と色んな大学があって、でもみんなおんなじ大学でみんなおんなじ大学生で、みんなおんなじ恰好をしていてみんなおんなじ顔をしていて、みんなおんなじトッチャンボウヤで、みんなおんなじうっとうしい顔をしていて、でもそんなことを考える自分がどれだけそんなおんなじ大学生達と違うんだろうって、磯村くんは思いました。
夕方の京王線はおんなじ顔をした男の子達で一杯のように思えました。
自分の大学と自分の大学じゃない大学と色んな大学があって、でもみんなおんなじ大学でみんなおんなじ大学生で、みんなおんなじ恰好をしていてみんなおんなじ顔をしていて、みんなおんなじトッチャンボウヤで、みんなおんなじうっとうしい顔をしていて、でもそんなことを考える自分がどれだけそんなおんなじ大学生達と違うんだろうって、磯村くんは思いました。
いつから木川田くんがこわくなったんだろうと思って、初めっからだって思って、そしたら自分はその時からものを考えなくなっていたんだって思って、磯村くんは、そんな自分とおんなじ大学生達とおんなじ電車に乗っているのがこわくなりました。