語り手のトビアス・ケルンは、一八三一年にエーデンブルグ(当時のオーストリア・ハンガリア帝国、現在のハンガリー)で生まれ、三〇歳から市の道路清掃人として働いていました。方言による民衆詩を採録していたビュンカーが、ケルンに出会ったのは一八九四年のことです。ケルンは年齢や厳しい労働にもかかわらず、明るく畏敬の念をいだかせる人物だったようです。
ケルンはビュンカーの家で、祖父や親しい老人や、若い頃働きに出ていたニーダー・オーストリアの仕事仲間から聞いた話を喜んで語りました。ビュンカーはケルンの口からあざやかに流れ出る百話以上の昔話、笑い話、伝説を方言のまま記録しました。ここに紹介した「猫の水車小屋」は、後にカール・ハイディングが標準語に改め、文章を整理したものです。
グリムの「ホレおばさん」やペローの「妖精たち」などによって、世界中に広く知られた話です。