情人が笑い草になる話は、狡猾譚の中でもたくさんあります。女が複数の求愛者たちを一人ずつ家にこさせ、着ものを脱いだところに次の客というようにくり返し、最後に夫が登場してあわてた求愛者たちを追い出す。この種の話は、オリエントやルネッサンスの説話集にもみられます。
モクセルさんの女房のお相手は、いずれも社会的身分が高く、女房にまんまと金品を取られても恥を恐れて泣きねいりするしかありませんでした。
インドネシアには、一連の「カバヤンさん」話があり、日本の「吉ちょむさん」のように怠惰で愚かな一面と庶民のしたたかさが、おおらかに語られています。
この話が収められている民話集『チュリタ・ラッヤット』は文化教育省下の研究所の職員によって採集、翻訳(地方語から共通語)されたもので、現在第五巻まで出版されています。しかし、採集の際の詳細な記録、すなわち話者、採話地、採話年などが明らかにされていません。このことは個人による民話紹介の場合も同じです。