二
女がひとり、酒に酔って、夜の浜を歩いている。
そうでなくても歩きにくい砂浜だから、はやばやと裸足になって、脱いだ下駄を片方ずつ両手に持っているところは賢明だが、砂の|窪《くぼ》みに片足をとられて、大きくよろけるたびに、おや、どうしたのだろう、どうしてこんなに躯がぐらぐらするのだろうと、|訝《いぶか》るように立ち止まっては、足許を踏み締めるような仕草を繰り返すところをみると、酔うことにそう馴れている女とも思えない。
なにかの勢いで、つい、すごした酒が、じわりじわりと利いてきて、この先どんなことになるやらと、われながら心細く、自分で自分にはらはらしながら歩いている、というふうにもみえる。
女は、南隣の部落から、浜伝いに菜穂里へ帰る途中である。バスはもうなくなったが、ハイヤーなら菜穂里から呼べばきてくれる。酔って夜道を歩くのは難儀だから、ハイヤーで帰ればいいのにと訪ねた先では折角そういってくれたが、からかってはいけない。こっちはとても酔ってハイヤーで帰れるような御身分ではないのだ。
なるほど酔ってはいるが、浜は一と筋だから道に迷う心配などないではないか。娘っこでもあるまいし、子供の二人もいる三十女が浜伝いにひとりでふらふら歩いていたところで、なにほどのことが起り得よう。それに、酔いを|醒《さ》ますには、浜風に吹かれながら歩くのがいちばんなのだ。酔いは醒まして帰らなければいけない。酒の匂いを残して帰れば、またぞろ、疑り深い亭主にどこで飲んできたかと殴られる。
女は、よろけたり、立ち止まったりしながら、北へ北へと歩いていく。