九
男と女が、砂の上に並んで腰を下ろしていた。二人は小学校のころの同級生で、おなじ町にいたのにもう随分会わなかったのである。それが、いったいどうしたことか、こんな夜の浜辺でばったり出会った。
二人は、互いになにやらひどく懐かしいという気がした。けれども、別段、話があるわけではなかった。二人は、黙って暗い海をみていた。男が時折四合瓶を口に傾けるのをみているうちに、女も喉が渇いてきて、すこし分けて貰った。すこしのつもりだったが、さっきの酔いの呼び水になった。
女は、坐っていられなくなって、砂の上に仰向けに寝た。すると、星空がゆらりゆらりと揺れはじめた。空が揺れているのか、自分が宙に浮いて揺れているのか、わからなくなってきた。
「校庭の隅の、ポプラの木の下のブランコ、憶えてる?」
女はそういって、ブランコの綱を握るつもりで男の手首をしっかりと|掴《つか》んだ。