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真夜中のサーカス53

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:小人の曲芸三のろのろと遠道をして、ようやく浜がみえてきたところで、チサは、不意に背後から声をかけられた。こんなとき、人に
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小人の曲芸

のろのろと遠道をして、ようやく浜がみえてきたところで、チサは、不意に背後から声をかけられた。こんなとき、人に声をかけられると厭な気がする。自分とおなじくらいの女の子の声だったから、なにほどのこともないとは思ったが、やはりすぐには振り返れなくて、三歩ほど歩いてから立ち止まった。
小学校のころは駅裏の方から通ってきていた克江という名の中学生であった。チサは顔も名前も知っていたが、これまでほとんど言葉を交わしたこともなかった相手である。それがなんの用かと思うと、
「浜さかね。」
うん、とチサが頷くと、
「おらもせ。」
克江はそういって、親しげに肩を並べてきた。
二人はしばらく黙って歩いた。浜通りに入って、家々の間から光る海がみえはじめたが、克江は一向にチサから離れて浜へ降りようとはしなかった。むっつりしたまま、どこまでもチサについてくる。チサは薄気味悪くなってきて、
「もう、浜だえ。」
と、家の間からみえる海を指さしてみせた。すると、克江はちょっと笑って、
「お|前《め》は? お前も浜へいくんだろ?」
「おらは……家さ帰る。」
「家さ? 途中で気が変ったんかな。」
こんなとき、とっさにうまい言訳ができるといいのだが、チサにはそれができない。もじもじしていると、
「そんなこといわずに、浜さいくべ。遠道したついでに、浜を廻って帰ればええ。」
と克江はいった。チサは、胸がどきりとした。自分が遠道したことを克江はどうして知っているのか。克江はずっと自分のあとをつけてきたのだろうか。そうだとすれば、なぜなのか。
チサは、胸騒ぎがして、このまま克江と別れてしまうわけにはいかなかった。克江が黙って砕けた貝殻の白く散り敷いている砂道へそれていくので、チサも急ぎ足であとに従った。
ちょうど夏|烏賊《い か》の漁期が終ったばかりで、浜は疲れた顔のように薄汚れていた。風がなくて、生暖かい砂浜の上に烏賊の|腑《ふ》の匂いが淡い縞になっていた。浜のむこうはずれの破船がいつもより随分遠くにみえた。
「お|前《め》の乳も、そろそろ|脹《ふく》らんできたげだね。」
克江は不意にそういった。チサはちょっと唇を噛んで、ふんと鼻で笑ってみせた。けれども、克江はただチサの胸をひやかしたのではなかった。
「乳首が三角に|尖《とが》ってらあね。」
馬鹿くさ——とチサは自分の胸にちらりと目を落としてから、突然、克江の言葉のおそろしさに気づいた。自分の乳首が三角に尖っているはずはない。それはみなくてもわかることだが、チサは思わず両手で乳房を握っていた。
克江がちいさく噴き出した。
「あわてなくたっていいよ。いつまでもそんなところに引っかかっていると思うかえ?」
克江のいう通りで、チサの両手はただ脹らみかけた乳房を握ったにすぎなかった。乳房ではないものの手応えはなかった。
「|臍《へそ》の上だよ、角のあるやつは。」と克江はいった。「いつまでもそうして置くと、汗が染みるよ。出して風に当ててやんなよ。」
チサは、足が|竦《すく》んで歩けなくなった。急に小便を洩らしそうになって、しゃがんでしまった。すると、克江が見抜いた通り、消しゴムの尖った角が臍のあたりを押した。胸がごとんごとんと鳴っていた。チサはどうすればいいのかわからなかった。
「まあ、いいせ。心配することはねえさ。おらは誰にも喋らねから。」
克江は、しゃがんで頭を垂れているチサのそばに、海の方を向いて立ったまま、これまでになにをどれほど盗んだかと訊いた。それは、チサには天の声のようなものであった。消しゴムばかり、と答えると、克江はくすっと笑って、
「なんぼ溜まった。」
「これで、十二。」
消しゴムばかり十二かと克江はいって、また、くすっと笑った。
「まあ、いいせ。ところで、お|前《め》、沈船防波堤さいったことあるど?」
チサは、ないと頭を振った。沈船防波堤というのは、戦争末期にこの港の外で沈められた鉄船を引き揚げて、それを手頃な|岩礁《がんしよう》の上に固定させた簡易防波堤のことである。港の北側防波堤の三百メートルほど沖合に、マストも煙突もないのにさも重たげに|吃水《きつすい》を深くして停泊しているようにみえる平べったい船が、その沈船防波堤だが、その船が戦争で沈められたとき、大勢の死人が出たという|噂《うわさ》があって、土地の釣師もあまり近寄らない。
ところが、克江は事もなげに、
「んだら、今度の土曜日、連れてってやるべ。|祟《たた》りがあるなんて、迷信せ。夕方六時に、消しゴム十二持って弁天様の崖下さ|来《こ》。」
それだけいうと、もう用は済んだとばかりにすたすたと浜を引き返していった。
チサは、しばらく、そこにしゃがんだままでいた。港屋ではちっとも気がつかなかったが、克江は自分が盗みをするのをどこかでそっくりみていたのだ。そう思うと、首筋につららの先でも触れたような気がして、チサはぶるっと身震いした。
ようやく立ち上って振り返ると、もう克江の姿は薄汚れた浜のどこにも見当らなくて、|遥《はる》かむこうに西日を浴びた沈船防波堤が、べた|凪《なぎ》の海を抑える|錆《さ》びた文鎮のようにみえていた。
もう破船の蔭までいくこともなかった。チサは、腹を病む人のようにブラウスの上から消しゴムを抑えて、のろのろと家の方へ歩き出した。
今度の土曜日の夕方六時。消しゴム十二個を持って弁天様の崖下へ——思いがけないことになってしまった。
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