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大都会28

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:老巨怪菱井銀行は日本六大市中銀行の中でも預金量第二位を誇る巨大銀行である。戦後解体された旧菱井財閥の�財閥本社�の座に坐
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老巨怪

菱井銀行は日本六大市中銀行の中でも預金量第二位を誇る巨大銀行である。戦後解体された旧菱井財閥の�財閥本社�の座に坐り、資本の結合を通して菱井|企業集団《コンツエルン》を不死鳥のようによみがえらせた、菱井系独占組織の頂点に位するものである。
弱肉強食の資本主義経済機構の中に逞しく生き残っていくためには、拡大再生産を通して資本の蓄積と集中を図らねばならない。
蓄積とは儲けを企業内に蓄えることであり、集中とは強い資本が弱い資本を吸収したり、あるいは合併したりして太っていくことである。
強い者が弱い者を栄養にして太っていく。喰えば喰うほど太り、強くなっていく。この弱肉強食の法則によって生き残った企業同士が、市場を独占して儲けを一人占めにするためにさらに激烈な喰い潰し競争を展開する。コストを少しでも下げてライバル打倒を図る。猫も杓子も銀行借入金を増大してコストダウンのための設備投資に注ぎこむ。絶え間ないコストダウン競争は、ますます企業の資本需要を高めていく。こうして、銀行資本の下に産業資本が結合して、資本主義の妖怪ともいうべき、資本結合的な企業系列《コンツエルン》ができ上がる。
日本の企業の他人資本への依存率はきわめて高い。自己資本比率の低い企業群を傘下におさめて系列の�首長�たる座を維持できるものは、強大な資本力を持った都市銀行だけである。
巨大都市銀行を中核にして形成されたコンツェルンは市場支配を目指して、他の巨大金融コンツェルンと猛烈にせり合う。それは巨怪と巨怪との争闘、大国同士の戦争である。
日本中の企業がその大小を問わず、金融、生産、販売の面で結合し、巨大銀行の手先となって戦わなければならない。それに抵抗する者はたちまち融資パイプを打ち切られ、容赦なく干される。これが仲間以外にはびた一文出さない独占の仕組みである。加えて、原材料の支払条件は酷しくされる。製品の支払いは遅れに遅れる。販売、技術の援助も断ち切られてしごきにしごかれる。刀折れ矢尽きたところでいとも簡単に併呑されてしまう。もはや、一匹狼の存在は許されなくなっているのである。
こうして組成された金融コンツェルンは、循環する資本をびた一文でも外部に流出させないために、その系列内にあとうかぎり多面にわたる業種の産業を抱えこもうとする。
商品を売るためには作らなければならない。作るためには原材料を購入しなければならない。
しかし、原材料のために支出する金すらでき得るならば外部に流したくない。外へ出すということはそれだけ敵に力をつけることを意味するからだ。
要するに、何から何まで�自給自足�できるような、資本の自己循環的な経済圏の確立を目指すのである。
しかし、こういう形の独占組織は単数ではない。他にも同じ過程を経て生き残り、強大化した独占組織がある。他の独占組織よりもより強大に太り、彼らを打ち負かすためには常にうま味のある産業を開発し、競争条件を優位に保っていかなければならない。
競争相手に比べて立ち遅れている部門があれば、あとうかぎり速かにこれを補完していかなければならない。立ち遅れはそのまま敗北につながる。
従来、菱井企業|群《グループ》には重電系の資本展開が遅れていた。
系列の首長たる菱井銀行としては一日も早く有力な一匹狼《アウトサイダー》を系列化して、このウイークポイントの修正をしなければならなかった。
菱銀の本社は日本橋室町一丁目の銀行街の中心にある。巨大な銀行ビルが軒を接して林立するこの地域は現代日本のビジネス中心地《センター》としての風格と、資本主義妖怪群の本拠としてふさわしい、いっさいの情緒的《エモーシヨナル》なものを排した一種の凄絶なばかりの非情性を漂わせている。
その中でも一際目立つ菱銀ビルは、無数の人間の膏血をたっぷりと吸いこんだような灰褐色の外壁にしん[#「しん」に傍点]と鎧われて、それ自身が一つの巨怪《モンスター》のように都心の空を画している。
彼らの組織の強大さを裏書きする如く、第×代日銀総裁はここから送り出されたのである。
こここそ日本の巨人として世界に名高い、菱井グループの総司令部であった。
日本の諸産業のあらゆる部門に四通八達する菱井という巨大なタコの足を一つの意志の下に統一する頭脳にあたる個所なのである。
この菱銀ビルの奥深い一室で先刻から二人の男が密談をしていた。一人は盛川達之介である。日頃、傲岸不遜な盛川がまるで奴僕のようにかしこまって恐る恐る話しかけているというよりは�奏上�している相手の男は、鶴のように痩せた高齢者で、頭髪から眉、口髭までが銀色であった。
彼は聞いているのか、いないのか分らない仏像的な無表情で盛川達之介の言葉を受けている。彼の瞳の微妙な動き、あるともなしの表情、デスクに置かれた指先の動きにすら細心の注意を払いつつ、盛川は、�奏上�を続ける。 |空   調《エアコンデイシヨン》 のおかげで室温は暑くも寒くもないはずなのに、盛川の額はびっしょりと汗をかいている。
盛川ほどの男をこれほど恐懼《きようく》させている彼こそ菱井銀行の頭取でもあり、全菱井系列の会長である菱井|鉦三郎《しようざぶろう》その人である。
盛川達之介が飼い犬のように這いつくばるのも無理はなかった。
菱井コンツェルンの中に生活のすべを求めている者がどれくらいの数にのぼるか? 直系の系列企業群から、その下請け、孫下請け、さらに販売代理店や問屋筋、社員、工員、職人、そしてその家族までも入れたら数百万人になろう。
これらの人々の生活の基盤を握る者が、彼らのはるか頭上にある巨大企業の首長達であり、さらにこれら権力の神々の生殺与奪権を一手に握った者が、この菱井鉦三郎なのであった。
いわば菱井という巨大独占組織の大神《おおみかみ》であり、それぞれが日本産業界の一方の旗頭として自他共に許される傘下企業の社長群も、彼からごく一部の権力を信託されているにすぎなかった。
一度、彼の�逆鱗�にふれんか、たちまち権力の神々の座から引きずりおろされる。それは盛川達之介といえど例外ではなかった。
「こうして、渋谷夏雄の白痴化は全国に知れ渡り、MLT—3の販売網は大打撃を受けたのです」
どうやら、盛川の奏上の内容はMLT—3の発売パーティにおける破壊工作のことらしい。
鉦三郎に一向反応が現われないので、盛川はなおも奏上を続けなければならなかった。
「狂人の開発した製品を買いたがらないのは人間当然の情です。しかし、星電研を系列化してまで開発したMLT—3が売れないとなれば、当然、社長の花岡俊一郎は責任を取らねばならなくなります。弱電出身の花岡が後退すれば、本来の強電が復活《リバイバル》することとなりましょう。そこで」
「それから先は言わずともよい」
沈黙を続けていた菱井鉦三郎が突然口を開いた。
「はっ」
と答えて、盛川がよく調教された犬のようにかしこまった。
菱井鉦三郎が口を開いた。低いが、不思議と胸にずしりとかかる声調である。彼に話しかけられて、呪縛《じゆばく》されたように面も上げられない社長もいる。
「強電部門は菱井の最も弱い所だった。
そこで儂が目をつけたのが、強電と弱電の対立意識が強い協和電機だった。同一社でありながら源平の盛衰のように主導権の奪い合いばかりしている。
ここ数年、重電のドル箱といえる電源開発の先細りや、大得意先の鉄鋼メーカーの設備抑制等にあって、弱電に天下を取られた形となっているが、強電部門としては一日も早く主導権を回復したいところだろう。
そこへもってきて、今度の花岡の擅断《せんだん》による星電研の系列化とMLT—3の失敗だ。製品そのものは素晴しくとも、売れなければ何にもならない。強電が息を吹き返すには絶好のチャンスだな。
花岡の社長就任と共に、景気悪化を理由に強電関係の設備投資は一切ストップをかけられていた。中には完成ま近い工場すらあった。この投資計画の大なたは、当時の変転めまぐるしい経済情勢に即応《マツチ》してかなりの効果をおさめたものの、強電にしてみれば怨み骨髄といったところだ。
中でも、これが完成すれば世界一の規模になるといわれる、豊中のタービン工場だ。強電にしてみれば是が非でも完成したい。
しかし、花岡が社長の座に在るかぎりはできない相談だ。まず、花岡を追い払い、タービン工場を完成させる。これが彼らの狙いだよ。だが、それには金が要る。それも百億に近い金がの。お前に花岡の破壊工作を進めさせる一方、強電の森、森口、森内のいわゆる三森常務に接近していたのはそんな下地があったからだよ、ふおっふおっ」
菱井鉦三郎は奇妙な笑い声をたてた。歯が一本残らず抜け落ちて、義歯も入れていないほこらのような口腔は、笑い声までこんなふうに変えてしまうらしい。
盛川は鉦三郎より初めて種明かしをされて目が覚めた思いであった。
所詮、自分には一社の社長としての視野しかなかった。鉦三郎より渋谷抹殺の指令を受けた時、目的は家電の市場シェア拡大とばかり思っていた。しかし、鉦三郎はやはり大神であった。渋谷を除くことにより、協電における強電勢力を強め、彼らが求めている設備投資資金を融資することにより、オール菱井の弱点である強電部門を融資系列に加えようとしている。
単に家電市場シェア拡大を目指して、渋谷抹殺を図った自分に比べて、何と天文学的ともいえるスケールをもった壮大な計画であり、視界であることか。
盛川達之介は、眼前の鉦三郎の老いさらばえた身体が、巨人のように自分の前に立ちはだかっているのを感じた。
「ともあれ、お前の役目は終った」
「は?」
盛川は目を上げかけて炯々《けいけい》たる鉦三郎の眼光がひた[#「ひた」に傍点]と自分に当てられているのを知って、慌ててまた、面を伏せた。
今の鉦三郎の言葉は自分の今度の働きを賞しているようにも受け取れるし、また、逆の意味にもとれる。それにしてもあの眼光の鋭さは!
盛川はおののきながらも、次の言葉を待つ以外になかった。
「つまりだ、お前も長いこと菱電の社長を勤めて疲れたろうから、このへんで休んでもらおうと思っとる」
「会長!」
あまりのことに盛川は後の言葉が続かなかった。寝耳に水とはこのことである。自分が一体何をしたというのか? 家電市場シェアの拡大に終始あい努め、菱電を業界でトップクラスにランクさせたのも自分が社長就任してからだ。菱井|系列《グループ》の中でも菱電を上位会社にのし上げたのもひとえに自分の働きであるといってもよい。この度のMLT—3にからむ渋谷抹殺も、指令は鉦三郎から受けたとはいえ、手を下したのは自分である。もし協電系列化が成功し、菱井コンツェルンのウイークポイントが是正されれば、自分は最大の功労者として、オール菱井から称えらるべきである。賞されればとて咎められる筋合はない。
「ふおっ、大分不満そうだの、だがの、よく胸に手を当てて考えてみい。お前は思い当たることがあるはずだ」
鉦三郎は瞳を細めた。痛いような視線が自分の伏せた面に注がれているのが盛川にはよく分った。
(もしかすると、彼はあのこと[#「あのこと」に傍点]を言っているのだろうか? いや、そんなはずはない。あのこと[#「あのこと」に傍点]によって自分は会社に一銭も損害を与えたわけではない。それどころか、かえって協電の打撃を大きくしたのだから……)
「どうだ、思い当たるところがあるだろ。それに対するお前の弁《エクス》 明《キユーズ》 も大方読めるわ。協電が星電研株を買い集めているところを対抗して買い煽り、値段を釣り上げられるだけ釣り上げたところで、そっくり肩替りさせる。
そうしておいてから、肝じんの渋谷をつぶせば協電の傷はますます大きくなるとな。
結果は確かにそうなった。しかし、あの時点ではお前は買い占め者が協電だとは知らなかったはずだ。異常な値上がりに買い手がただ者でないと悟ってちょうちんをつけたにすぎない。しかも社金を一時流用してな。お前はそれにより取得した一億二千万円の利ザヤを着服した。儂は金額の大小を言っておるのではない。菱井系列の中でも代表的な菱電の長たるお前のそんなさもしい根性が憎い。
お前の行為は立派な背任横領を構成する。
しかし、今までの働きに免じて表沙汰にすることだけは避けよう。事務引き継ぎは二月以内、三月一日をもって菱産ストアの参事を申しつける。後任は、次の社長会で発表する」
菱井鉦三郎の言葉に微塵の妥協も感じられなかった。
盛川には一瞬、周囲の空気が音をたてて凍りつき、その中に冷凍づけにされたように感じられた。
菱産ストアといえば全菱井系社員の共済会のようなもので、資本の自己循環を狙う一政策として系列内で生産された日用品や、食糧品を市価より安く社員に販売する機関であった。菱井企業群の中でも最下位にある子会社で、社員は専ら、グループの定年退職者や、公傷による身体障害者などによって占められていた。
菱電といえば系列内でも最優秀企業である。そこの長から、菱産ストアの、しかも参事とあっては実に馘首に等しい左遷であった。
幹事証券の腹心を使い、あれほど秘密裡にやったことがどうしてバレたか? おそらく、菱井鉦三郎が秘かに雇っていると伝えられる秘密商務工作員が調べ上げたものにちがいない。
徳川幕府がお庭番と称する忍者より成る秘密警察を使って、大名連の動向を探っていたように、鉦三郎も厖大なグループの首長として、各企業群の長の動きを把握するために秘密警察を養っていたのである。
盛川はその怖しさを思い知らされた。結局社長とか代表取締役などの肩書が冠せられていても、グループの帝王たる鉦三郎に体の動きの隅々まで監視されて、彼の意のままに動かされる傀儡《かいらい》にすぎないのだ。
ひとたび、帝王の逆鱗にふれて権力の座を追われるならば、もはや、ふたたび陽の当たる場所に戻ることはできない。徒らに旧きよき日の栄光と現在の屈辱を背負って、暗所にひっそりと死骸のような身を横たえていなければならない。
しかし、自分の不正は秘密警察より逐一報告されていたはずにもかかわらず、何故、もっと早く摘発しなかったのであろう?
(そうだ、自分の不正にも利用価値はあったのだ。少しでも高値で星電株を協電に肩替りさせ、しかる後、渋谷を除去すれば、それだけ花岡の代表する協電弱電部門の打撃は大きい。ひいては協電系列化を容易にする。つまり、俺の不正も協電系列化に役立っていたわけだ。不正でも効用があるかぎり利用しぬき、ことが落着した後に、それをいいがかりにつぶす。きっと菱井鉦三郎は�お庭番�の報告をふおっふおっと笑って聞きながら、俺の�不正の効用�が終るのをじっくりと待っていたのにちがいない)
盛川達之介は打ちのめされて会長室を出た。
駐車係が、
「菱井電業盛川社長の運転手さん、お車を本館正面玄関前におつけ下さい」
とパーキングロットに向かってアナウンスするのさえ、自分を愚弄しているように感じられた。
(俺はもう社長ではないのだ)
盛川は尾部をピンと張った社長専用のクライスラーニューヨーカーのリアシートに乗りこみながら、この車もこれが乗りおさめになるかもしれないと悲しくうなずいたのであった。
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