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大都会32

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:絶対的必要受け応え事項菱産ストアの本店は新宿角筈の菱井文化会館の中にある。ここには菱産ストアの他に全菱井系社員のための厚
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絶対的必要受け応え事項

菱産ストアの本店は新宿角筈の菱井文化会館の中にある。ここには菱産ストアの他に全菱井系社員のための厚生施設として、結婚式場、ホテル、料理、英会話、生花などの教室があり、一般にも市価より安い値段で開放されているところから、けっこう人の出入りは激しい。
岩村が転属させられたところは、電話販売課であった。
一応、主任という肩書は与えられたものの、することはヒラと全く変りない。要するに、お客からの電話注文の応接、ただそれだけを馬鹿みたいにくり返すのが彼の新しい職分であった。
彼の上には係長と課長がいた。
初出勤の日に課長デスクへ挨拶に行くと、出井というやせた中年の男は意地の悪そうな三白眼で岩村を眺めながら、
「私共は過去の履歴は参考にすることはあっても、全く問題にしておりません。評価の基準は本人の実力、ただそれだけです。
我が社は全菱井系企業を顧客として、菱井グループにおける資本循環の大ポンプとなっております。大いに誇りを持ってハッスルして下さい。特に我が課は先頃、売り上げにおいて通信販売課をぬき、店頭販売に迫りつつあります。電話一本でどんな大取引でもまとめるのが我々の勤めです。くれぐれも言葉使いには注意していただきたい。仕事の細目に関しては係長から指示を受けるように」
出井の口調は最初から高飛車であった。岩村の元の身分を知っていて、コンプレックスの反動である。もともと、この出井という男は川崎あたりのジャリ百貨店でくすぶっていた。菱産ストアの開設にあたり、ちょっとしたコネがあったところから、一躍、課長という重職? に抜擢され、もうハッスルのし放題、オール菱井の運命は我が双肩にありというような顔をして、忠勤に励んでいるという単純な男である。
「課長は特に言葉づかいにうるさいから注意して下さい」
大平《おおひら》と名乗った係長は出井よりも、もう一廻り小心そうな目を課長デスクの方にちらちらと送りながら言った。
「特に私共では電話が商売です。使う言葉一つでお客様の感情を害し、まとまるべき話もまとまらなくなります。一つ私が受け応えの見本を示しますからよく注意して聞いていて下さい」
大平は、ちょうどコールサインの入った電話を取り上げた。
「お待たせしました。お早ようございます。こちらは菱産ストア電話販売課、大平でございます。…………大平が承りました。毎度有難うございます」
ばか丁寧な言葉をごてごて重ね、最後に電話に大きく頭を下げてから、彼は送受器を置いた。それも相手方が電話を切るのを確かめてから、静々と置くのである。
彼は得意そうに岩村の方へ向き直り、
「分りましたか? 必ず言って下さい。その後に、朝ならば、お早ようございますと挨拶するのを忘れないように。そして、セクションとこちらの名前をはっきり言う。用件を承った後にもう一度、こちらの名前をお客様に告げて責任を明らかにする。そして最後に謝辞、絶対に相手より先に電話を切ってはなりません。相手が切ったのを確かめてから受話器をおくようにしてください。
以上の一つでも省いたり、ぬかしてはいけません。特に、あなたは主任という管理職だ。あなたの行動はそのまま部下が真似しますから率先して範をたれて下さい」
大平は出井の目と耳を意識しながら得々と言った。
「どんな忙しい時にもそれを全部言わなければなりませんか?」
電話の受け応えの一つ一つまで画一化する官僚的感覚に呆れながら、岩村は尋ねた。
電話というものは全体の調子《トーン》である。トーンがよければ好感を与える。第一、こんな受け応えを長々とやっていれば本題に入るまで客を待たせることになる。
「そうです、課長の決められたことです」
しかし、大平は信じて疑わぬように言った。きっとこの男は課長の命令とあらば、ためらわずに水火の中へも飛びこむだろう。この二人の虫ケラのような男が岩村の当面の直近上司であった。
電話販売課と銘打ってあるだけに、電話の量は凄じいほどであった。一本の電話に応接している間に三本位が鳴っている。職員は課長、係長、岩村以外の主任を含んで十人いたが、全員が手分けしても捌《さば》き切れなかった。電話を受けるだけではない。
注文は注文伝票に記入し、員数の確認をした上で配達課に廻さなければならない。住所が複雑であれば略図も書きこまなければならぬ。品目や員数の|間違い《ミス》は電話販売課の受付者の責任になる。
ベルがなる。「お待たせしました……毎度有難うございます」の馬鹿のようなくり返しではあったが、少しの気も許せない仕事であった。
しかも、それら殺到する電話の中の、ただの一本においても、出井の決めた�絶対的必要受け応え事項�の一つでも欠こうものなら、出井と大平が鬼の首でも取ったような顔で得々と注意する。
「岩村君、君は電話販売に向かないのではないか?」
「岩村君、よく君に菱電のテレビ課長代理が勤まったね」
「岩村君、何故、『お待たせしました』と言わないのですか? 決められたことを守れないとなるとこれは問題ですね」
彼らはことごとに岩村をいびった。
こうして、岩村元信の屈辱的な第二のサラリーマン生活は始まったのである。
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