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大都会31

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:商法第三百四十三条発売パーティにおける渋谷発狂の実況がOTVにより全国に生々しく伝えられたために、MLT3の売れ行きは惨
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商法第三百四十三条

発売パーティにおける渋谷発狂の実況がOTVにより全国に生々しく伝えられたために、MLT—3の売れ行きは惨憺《さんたん》たるものになった。
そこへもってきて、追い打ちをかけるように古川電産がMLT—3よりもさらに優秀な製品の公開実験に成功したのである。
渋谷の開発した製品は三色受像管に新工夫をこらしたものだったが、古川製品は一枚の基盤内に能動回路素子と受動回路素子を容れた�集積回路�と呼ばれる半導体装置を使った文字通り画《エポツ》 期《クメイ》 的《キング》なものである。
電子銃を単一化したMLT—3に比較してさらに縮小化できる可能性があった。
「MLT—3を上廻る製品を開発するとは一体どんな技師を古川は抱えているのだ」
花岡俊一郎はEP—3(エポックメーカー3)と名づけられた、マイクロカラーテレビ公開実験成功の報に、蒼白になって呻いた。
「日本に渋谷以上の技師がいようとは考えられませんが」
「考えられなくとも、現実にEP—3が出たではないか。あれが量産体制に入れば我々は完全にお手上げだぞ」
「どうしましょう?」
「馬鹿、儂が聞きたいわ」
俊一郎と進は暗然と顔を見合わせた。
ややあって俊一郎が言った。
「しかし、おかしい」
「何がですか?」
「これほどの大発明を古川がいきなり発表したことがだ。どんなに秘密管理を厳しくしても、これだけの材料があれば必ず、何らかの形で事前に流れるはずだ」
そう言われてみれば確かにそうだ。カラーテレビのマイクロ化は一朝一夕にして為せることではない。MLT—3にしても、渋谷の率いる星電研の優秀な技師団が、長い時間と忍耐をかけてこつこつと開発したものである。その間星電研にしても徹底した秘密管理をしていたのであるが、長い間には水の洩れるように情報が洩れていた。
それが古電の場合、全く抜き打ちの公開実験である。各社の商務工作と諜報活動が入り乱れている中で、まことに見事というべき秘密保持であった。
「それにEP—3は、MLT—3のメカニズムの応用だ。これはMLT—3に詳しい誰かが青写真を流していたにちがいない」
「しかし、社長、それにしても、MLT—3以上のものを思いつくとはただ者じゃありません」
「もしかすると」
「は?」
「そうだ、きっとそうにちがいない」
俊一郎は一人うなずき、眼を宙に据えた。
「何ですか?」
「星電研の技術団の一人が流したのだ。そうだ、それにちがいない」
「渋谷の子飼いの技師がですか?」
「そうだよ」
「それだとちょっと難しいですな。その男は協電に反感を持っているにちがいありませんから」
「スカウトなどせんよ、抹殺するのだ」
「え!?」
「別に殺すという意味ではない。役に立たなくすればいいのだ。量産体制に入る前にな」
俊一郎はこともなげに言った。自分にとって不利益なものは容赦なく除去する経営者の非情性が、あますところなく表情に露出している。
「役に立たなくする」
進が俊一郎の言葉をくりかえした。渋谷も役に立たなくなった。この偶然の一致に進ははっと胸をつかれるものがあった。渋谷を廃人にしてからEP—3を発表する!
「社長!」
進の唇がわなわなと震えた。
「渋谷を廃人化させたのは古川ではないでしょうか?」
「うっ」
俊一郎は、のどにものをつまらせたような声を出した。そのまま全身を硬直させた数秒をおいた後、
「そういうことも充分考えられるな」
「どうしますか?」
「報復手段をとらなければならないが、時間がない。明日は取締役会だ。儂にも乗り切れるかどうか自信がない。お前も覚悟しておけ」
「はい」
二人は太々しい笑みを浮かべた。ここまで追いつめられては、もはや、どうあがいてもしかたがない。
 協和電機の取締役会は毎月五の日に開かれるところから「五日会」と呼ばれている。一月五日が正月休暇に続く日曜であったところから、二月五日は年が代わって初めての五日会であった。
この頃、取締役会が形式化して、企業の事実上の意志決定が常務会に移りつつある傾向の中で、協和電機では依然としてトップマネージメントの最高意志決定機関として存在していた。
経営全般の基本方針の決定から、経営結果の批判や検討まで弱電、強電の全取締役が出席して行なわれるのである。
常務会が主流派(現在は弱電)のなれ合い万歳に終りやすいのに反して、この会議は両部門から全取締役が出席して、社業の全般的な問題を審議するので、とかく荒れる。
全社的な観点から協議されるべき集まりでありながら、強弱電の対立意識は底が深い。どちらもそれぞれの部門の利益代表として一歩も退かぬため、時には国会顔負けの騒ぎとなることもあった。
議長は、会開催時の社長がつとめることになっていた。
二月五日の取締役会は最初から大荒れが予想されていた。MLT—3の失敗を足がかりに強電側の大反攻が予期されていたからである。
へたをすれば、いや、かなりの確率で、この取締役会の結果、�政権交代�ということも考えられる。
準備委員の総務課員も緊張した面持ちであった。
定刻十時、花岡俊一郎は議長席に立ち上がって開会を宣した。
「それではただ今より商法二百六十条による定時取締役会を開催いたします。参加の皆様は一部の利益代表としてではなく全社的な立場から、協電の繁栄発展のためにご発言願います」
前半はきまり文句であったが、後半のせりふは俊一郎が勝手につけ加えたものであった。
三森常務の口辺に微苦笑が浮かんだ。
滑り出しはさして差し障りのない業務執行に関する議事がしごく�平穏無事�に進められた。
会場の空気が音をたてんばかりに凍結したのは、森内常務が立ち上がって次のような発言をした時であった。
「我が社が厖大な資本投資をして開発したポケットサイズカラーテレビMLT—3が失敗したことに対して社長より直接ご説明をいただきたい。我々のみならず、全社員を納得させるに足る責任あるご説明を」
俊一郎は(いよいよ来たな)と思った。彼らはこの瞬間を手ぐすねひいて待ち構えていたにちがいない。
俊一郎は深呼吸してから立ち上がった。
「ただ今、森内常務よりMLT—3が失敗したとの発言だが、私はまだ失敗したとは思っておりません。ご承知のようにMLT—3はまだ発売後日も浅く、発売パーティのちょっとした事故で今のところ出足が伸びなやんでいますが、製品そのものの優秀性は業界の認めるところであり、宣伝次第によっては非常に将来性のある商品なのであります」
俊一郎はしゃべりながらも、こんな子供だましの説明で通れるものでないことをよく悟っていた。しかし、何かを常にしゃべっていなければならない。沈黙は敗北を意味する。
俊一郎が着席すると同時に、今度は森常務がかみつきそうな表情をして立ち上がった。
「ただ今の社長のご説明は説明になっておりません。我々がかねて疑っていた通り、渋谷技師は遭難事故により錯乱いたしておりました。彼はMLT—3の発売パーティの席上に出すべきではありませんでした。しかるに、ごく一部の人間の保身上の都合から、社運のかかっている席上にぬけぬけと狂人を出席させ、恥を天下に晒したるのみならずか、天文学的な投資をして開発した虎の子商品のイメージを台無しにしてしまった。一体、この責任はどういう形で償われるおつもりか? 納得のいくご説明をいただきたい」
火の出るような質問であった。俊一郎は臆せずに立ち上がった。
「渋谷技師の錯乱に関しましては我々も深く責任を感じております。しかし、あの事故は全く突発的なものでありまして、我々としても全く予期しなかったのでございます。彼の精神錯乱は一過性のものであります。このことに関しては医師の証明書もございます。ただ今の森常務のご発言の如く、決して一部の人間の保身上の都合から永続性狂人を出席させたのではございません。
考えてもいただきたい。新製品発売会に発明者を出席させるのは確立された慣習となっております。まして、あのパーティはOTVによって全国に紹介されることになっておりました。発明者と新製品を結びつけてのこれほど絶好のPR媒体がございましょうか? もし、仮に森常務の言われるように、渋谷技師を出席させなかったならば、あのような事故も起きなかった代りに、あの事故が起きるであろうことを知る由もない人々によって、何故渋谷技師を出席させないかと厳しく追及されたにちがいありません。我々としては万に一つも起こりようもない事故を予想して、発明者と結びつけることによって商品イメージを強く消費者に捺しつけるチャンスを逃すことは、絶対にできなかったのです。森常務の発言は徒らに結果のみを見てあげつらう、結果論のそしりを免れますまい」
白を黒と言いくるめる俊一郎得意の強引な説法である。強電側役員の間にざわめきが起きた。どうでも一波乱なくてはすみそうにない雲行きであった。
今度は森口常務が立った。三森常務の中で最も切れ味がよいという評判の男である。
「渋谷技師の錯乱が一過性のものであるか、永続性のものであるかは、専門医に診せればすぐに分ることです。しかし、そんなことは主たる争点ではありません。我々が疑問とするところは星電研を系列化してまでも開発したMLT—3が、すでに相対的に老朽化している商品であったという一事です。古川電産が公開実験したエポックメーカー3は、MLT—3を上廻る製品であります。これが量産体制に入れば我が社のMLT—3は急速にスクラップ化するでしょう。MLT—3が事実比類ない製品であれば、渋谷技師の錯乱も、発売パーティの失態も、売れ行きの不振も、すべて時が補完してくれるでしょう。しかし、EP—3が現われた現在、どんなに待ってもその可能性はなくなりました。
自社株を売買し、社長の座を乱用しての株価工作という悪辣な手段を弄してまで開発した製品が、そのようなスクラップであったとは! 一体、弱電は何をやっていたのかと言いたい。
もし、古電のEP—3がMLT—3の技術を盗んだものであるならば、秘密管理は一体どうなっていたのか!?」
さすが、森口の舌鋒は峻烈であった。静かに落ち着いた口調であったが、一語一語胸にぐさりと突き刺さる鋭さがあった。
彼はなおも追及の手をゆるめなかった。
「花岡社長は星電研系列化という重大なる営業に関する行為を自己の専断で行なっただけでなく、その資金を捻出するために、偽りの材料を流して自社株を操作した。これは単なる商法違反のみならず、刑法上の背任罪を構成するものであります。しかし、我々とて協電社員の一員であります。我々が愛する協電のために、代表取締役の恥ずべき行為を責める前に、MLT—3失敗の収拾策を考え、花岡社長におかれては、ことが公けになる前に、会社に与えた重大なる損害の責任を取っていただきたいと願うものであります」
森口が席に着くとしばらくは一座に水のような静寂が落ちた。こういう時に進がいてくれたらと俊一郎は切にくやんだ。弱電側には三森常務を相手に廻して堂々と渡り合える者は自分きりいない。もし進が出席していれば彼らを向うに廻して自分を十二分に扶《たす》けてくれるであろう。
しかし、平部長にすぎない進には出席資格がない。結局、弱電を代表して発言できる者は自分だけだ。
俊一郎は重い疲労感を覚えながら立った。
「森口常務の発言は全く言いがかりであります。
MLT—3を何をもって相対的に老朽化した商品と断じられるか? 古川のEP—3が現実にどんなに秀れたものであっても、まだ実験の域を出ておりません。量産体制に入るまでには大分時間がかかりましょう。それにEP—3の身上とするところは、専ら集積回路にあります。それにより、さらに縮小化を進められる可能性はあるにしても、トライカラーチューブを工夫したMLT—3に比較してどの程度良質の色彩像を伝送できるか? 技術的に、大いに疑問とされております。それにテレビをMLT—3以下に縮小する必要性が果たしてありましょうか?
技術的には縮小可能であるとしても、視覚的には人間そのものが縮小されないかぎり、蛍光面を三型以下に縮小することはもはや意味がないのであります」
笑声が起こった。
テレビ受像機の画面の大きさは、ブラウン管の対角線の長さをインチで示した数字をとって16型、19型などと呼んでいるが、ブラウン管が大きくなるに従い、画は実物に近くなる反面、走査線の間隔が広まって画面が粗くなる。
また、これと反対にブラウン管を小さくすればするほどに、画面は鮮明になる代りに目が疲労して長時間見るのに適さなくなる。
つまり、三型あたりが目の保健上からも縮小極限だということを主張するために、俊一郎持前の屁理屈をこねたのである。
笑声の中には強電側の失笑も大分混っていたが、俊一郎は意を強めたようにさらに声を高めた。
「また、森口常務は営業に関する重大な行為を私が独断で行なったときついお腹立ちのご様子だが、不肖、花岡俊一郎、協和電機株式会社の代表取締役である。私は内部的には業務執行を担当し、外部的には会社を代表する。加えて、星電研系列化にあたってはあくまでも会社の利益を図る目的[#「会社の利益を図る目的」に傍点]をもって自己の支配下にあった株を操作しただけであって、これがために会社に対して実質的な損害は一円も与えていない。
会社に対して莫大な損害を与えたとは一体何をとらえて言われるのか? たまたま、EP—3という、いまだ市場にとって未知数の製品が公開実験された一事をもって、我が社が誇るべきMLT—3を相対的に老朽化したなどと断じるのはあまりにも早計、かつ軽率ではあるまいか。ましてや大協電の重職にある身が、単なる臆測に基づいて公然と私を非難した。これは私にとって重大なる侮辱であり、同時に私の名誉を著しく傷つけるものである。森口常務の猛省をうながすものであります」
俊一郎が口を閉じると同時に弱電側の役員の間から拍手さえ起こった。屁理屈もここまでくれば立派なものである。森口の顔が蒼白になり、次に薄く紅潮した。冷静な彼が心中相当興奮しているしるしである。俊一郎が腰を下すか下さないうちに彼はふたたび立ち上がった。
「社長のお言葉は徒らに感情に走るのみで、全く回答になっておりません。EP—3がMLT—3よりも優秀な製品であることは、電子工学の知識を持たぬ者にとっても、もはや公知の事実であります。また、古電の設備と資力の下にそれが量産体制に入るのは焦眉の急と思って差し支えありません。それが市場に出廻れば、もはや、我がMLT—3が絶対に太刀打ちできないことは明白であります。現にEP—3の実験公開により、それまで細々とながら出ていたMLT—3が全く止まってしまったではありませんか! これを老朽化と呼ばなくて何と呼ぼう!? このまま行けば次期は減配、いや、へたをすると無配転落いたしかねません。
損害とは現実のものだけではありません。将来の確定的な損害も含まれます。ましてや、星電研系列化の際に花岡社長が行なった恥ずべき株価工作は協電の信用を著しく傷つけました。これが会社に対して与えた損害ではないとおっしゃるのであれば、一体、何になるのでしょうか? しかも、ぬけぬけと、自己の支配下にあるとの理由で大量の自社株を、社長自ら売買し、恬《てん》として恥じる様子もない。もし、社長に依然として誠意をもって責任をとられる態度が見られないとなれば、我らとしてもまことに不本意ながら臨時株主総会を招集し、花岡社長の解任を請求しなければなりません」
森口は挑戦するように花岡と彼の周囲に居流れる弱電側の役員を睨んだ。充分成算があっての挑戦である。
普通、代表取締役の選任は商法二百六十一条に基づき、取締役会の決議をもって行なう。しかし、協電の場合は商法二百三十条の二に則《のつと》り、定款でその選任権を株主総会に留保していたのである。
従って、花岡を辞めさせるためには株主総会にかけなければならない。
よしんば、それが取締役会の決議事項に含まれていたとしても、その決議だけでは彼から代表取締役の身分を剥奪できても、取締役の地位を失わせることはできないのであった。
森口の言葉は花岡を経営者の座から引きずり下すのみならず、協電から追放するという意味を含んでいた。
事実をありのまま、大株主に報告されれば特別決議(発行済株総数の過半数にあたる株主が出席し、その議決権の三分の二以上にあたる多数をもって決する)によりクビにされかねない。花岡個人の保有株など全体の〇・一%にすら充たないのだ。
しかし、俊一郎にも絶対にそうはならない成算があった。彼にも、秘密の強大なバックがあったのである。これだけ強電にかみつかれながら、一歩も退かない高姿勢は、実は拠って立つ所があったからだ。
俊一郎は言った。
「森口君は私の名誉を毀損した。前言を撤回しないかぎり、名誉毀損罪として告訴します」
彼はドンとデスクを叩いた。
森口が言った。
「もはや、問答無用ですな」
続いて強電役員全員が立ち上がった。こうして、その日の取締役会は終ったのである。
 大阪のビジネスセンター、中の島の一角にある古川銀行は、預金量を常に菱井銀行と争う、日本巨大市中銀行の一つである。——と同時に、その規模と伝統においても菱井企業集団と並び称される古川コンツェルンの中核であった。
総工費百六十億。
二つの円筒形サービスタワーをあしらった地上十五階の銀色に輝く鉄筋の高層ビルは、まことに日本産業界の王者としての貫禄と風格があった。
協電の取締役会が終ってから数時間ほど後、即ち、同じ日の午後三時頃、その古川銀行ビルの正面玄関から一人の老紳士が出て来た。
待ち構えていたようにロールスロイスシルバーシャドウが彼の前に滑り寄る。
リアシートに深々と身を埋めると、疲れ切ったように目を閉じる。老紳士は花岡俊一郎であった。
午前の取締役会における元気はどこにもない。死人のようにシートにもたれかかって車の震動に身を任せていた。
彼が後にして来た古川銀行の奥まった一室に五人の男が何事か密かに話し合っていた。
「それでは全員一致ですな」
頬のたるんだ口の大きな男が言った。
「我々の意見は一致しました。会長のご意見は?」
額の広い、ひややかな感じの男が言った。四人の男達の視線が彼らの前に坐っている、頬の引き締った能面のように無表情な老人の顔に集められた。老人は四人の男達へ順々に白く光る瞳を注いでから、
「儂の腹も同じだ、マイクロカラーテレビのない協電の家電などボロ屑ほどの価値もないわ。星電研買い占め時に儂が花岡にテコ入れしたのは、EP—3がまだ世に出ていなかったからだ。しかし古電がEP—3を手に入れた今、花岡は我々にとって不要な人間になりおった。おっぽり出してしまえ! それより、強電の三森に接近《アプローチ》して融資工作するのだ。奴らが天下を取れば金が要る。強電に弱い菱井が旺んに動いているらしいが、奴らにばかり甘い汁は吸わせん。総会には花岡をおろせ!」
四人の男ははっとかしこまった。その能面の老人こそ誰あろう、古川コンツェルンの総帥、古川徳太郎、通称古徳であり、四人の男達は傘下優秀会社のよりすぐりの社長連であった。
星電研買い占め資金捻出のための株操作において、花岡が動員した協電株は百五十万株、その中、花岡一族が保有していた株は約二十万株にすぎない。それ以外の百三十万株を俊一郎は「自分の指示でどうにでも動かせる株」と言った。
その百三十万株の出所が、実は古川銀行であったのだ。
協電大株主の一人として古川銀行も、星電研のMLT—3と渋谷夏雄には目をつけていた。そのために、将来、協電を古川系に系列化するための一布石として、花岡俊一郎に百三十万株を貸し与えたのである。
もちろん、俊一郎も古川銀行の魂胆など見透かしている。見透かしていながら、あえて�熱い株�を借りたのは古川に協電が系列化されてもよいと思ったからだ。弱電の協電としての体制を整えた上で古川の傘下に入れば、少なくとも、自分の社長としての地位は安泰である。それにもともと、強電には強い古川系で、弱電部門の代表として生き残れるだろう。その方が強電の協電として、強電の支配下に屈従の日々を生きるのよりもはるかによい。自分の天下がいつまで続くか保証はないのだ。
こうソロバンを弾いて、あえて古川に接近した。このソロバン、渋谷が廃人化せず、EP—3が現われなかったら決してまちがっていなかった。
ところが、事態は俊一郎のソロバンと全く逆になった。
こうなってみれば古川としても、花岡俊一郎を抱えておく必要はごうもない。否、むしろ彼と接触しているのは不利になる。何故なら強電の反感を徒らに煽り、せっかくの融資系列化のチャンスを逃すことになるからだ。
もともと、強電色の濃い協電において弱電が天下を取っていたのは、花岡のあくの強さと渋谷夏雄のおかげであった。その渋谷が失われ、花岡の影がとみに薄い今日、むしろ、花岡を思いきりよく切り捨て、強電に接近した方がずっと利口なやり口というものである。
強電が厖大な設備資金を必要とすることは分っている。この機を外さず融資をして、協電を系列に加えてしまえば、将来、傘下の古川製作所と合併させることにより、日本一の強電部門を持つことができる。
古川徳太郎は冷徹に計算した。
しかし、花岡俊一郎にしてみればそこまでは読めない。強電に本源的に強い古川が、協電の強電に色気を見せるはずがないと確信している。それだからこそ、三森常務にかみつかれても平然としていられたのである。総会においても大株主である古川銀行が支持してくれるかぎり、強電がどんなにじたばたしても自分をクビにすることはできない。
古川の変らぬバックアップの確認というよりは、取締役会の情況報告のために古川銀行へやって来た花岡俊一郎は、そこで予想外に冷たい古川コンツェルンの首脳連の態度に少なからず動揺した。彼が悄然としていたのはそのためである。
しかし、その時点においては、よもや、古川が総会において敵にまわろうとは予想もしていなかった。
だが、花岡俊一郎の首の上には、資本主義社会の鋭利なギロチンが、すでにその綱を切られていたのである。
それから約二週間後の二月二十二日、協和電機株式会社の臨時株主総会が新大阪ホテルにおいて開催された。そして花岡俊一郎は商法三百四十三条による特別決議により、代表取締役及び取締役を解任された。代わって森口英彦が代表取締役社長に就任した。
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